80話 チョロイ

「私をパーティに?」

「そうそう」

「う~ん………」


 誘ったはいいがフェリスはあまり乗り気ではないらしい。1人で気ままにやるつもりだったらしいからパーティを組むと自由がなくなると思っているのだろう。その点はアキトとよく似ている。アキトも自由に過ごしたいのだ。だからこそ王家からの誘いも断っている。もっとも、王家は姫さんのことが嫌いということもあるのだが、王家に仕えると自由がなくなるのは目に見えている。


「1人でやろうと思っていたし、気ままに過ごしたいんだけどなぁ」

「俺達とパーティを組むとな。まずここに住めるから宿代がかからない」

「おお!」


 あまり表情が変わらなかったのだがフェリスは少し目を見開き両手を握って前に出し興奮しているようなそぶりを見せる。利点を一つ言っただけですでに落ちそうである。これはチョロいのでは?


「宿代もかからないし、部屋も余ってるから個室が貰える」

「おおー!」

「さらに飯も出るぞ。今日のシチューはたまにだが、他の料理も美味いものばかりだぞ。なあシエラ」

「ええ。アキトの作る料理は全部美味しいわよ」

「おおおおおお!」


 両手を振って興奮している。これはもう余裕だろう。この戦、勝ち申した!


「おおおお………で…でも1人でやるつもりだったし。私弱いからパーティ組むと迷惑掛けちゃうし………」


 おや? 少し後退してしまった。何の問題もない! トドメを刺しに行こう。


「何の問題もない。俺が鍛える。シエラも俺が鍛えてるからこれから強くなれる。あと風呂もあるから毎日風呂に入れる」

「う………で…でも」

「無詠唱も教えてやるぞ」


 そういうとフェリスは目を見開き、握りこぶしを作り両手を上げ、そして…


「入る!」


 フェリスは観念したようでパーティに入ることを快く承諾してくれた。あの杖を使って魔法を発動できる優秀な魔法使いゲットだぜ!(おそらく優秀)

 チョロいぜ! という邪悪に満ちた笑顔と親指を立てた手をシエラに向けると笑顔で返してくれた。


「”天翔アマカケル”にようこそ。とりあえず今日はあと風呂かー。詳しい話は明日しようか」

「”天翔アマカケル”ってパーティなんだね。お風呂楽しみ」

「じゃあ俺準備してくるからさ。シエラ一緒に入ってあげてくれる? 説明必要だろうし」

「ええ。わかったわ♪」


 シエラが嬉しそうに舌舐めずりしたが見なかったことにしよう。俺は風呂の準備をして、食器の片付けだ。このままフェリスもヒモ化計画に入れてしまおう。







 シエラ視点

 ウフ…ウフフフ♪ 久しぶりに女の子触れるわぁ。アキトはまだ体が小さいから似た感じもするけど、やっぱり女の子の体の柔らかさはないのよねぇ。隅々まできれいに洗ってあげないとねー。隅々までね~♪


「お風呂初めて。楽しみ」

「気持ちいいわよー」


 脱衣所で服を脱ぎ始める2人。フェリスはお風呂が初めてらしく少し興奮しているみたいだ。フェリスの髪をよく見ると割りと汚れが目立つ。肩くらいまでの髪でそれほど長くないので洗う手間はそれほどではないだろう。


「フェリス。これから入るけど、まず体と髪を洗うわよ。お風呂には綺麗になってから入るのよ」

「それは本で読んだことある。石鹸とか使うの?」

「ええ。アキトが結構綺麗好きだから石鹸もあるわよ。洗いっこしましょうか♪」

「おお! 楽しそう」


 ウフフ。これで触り放題ね♪ 


 シエラはさりげなく、あくまでさりげなく自分の欲求を満たすために余念がない。これからするのはあくまで洗いっこなのだ。決して不純なものではない。風呂に入る前には体を洗わなければならない。ただ必要なことをするだけなのだ。


「お湯がいっぱい」

「ちょっと触ってみて。熱くない?」

「………大丈夫」

「じゃあ先に髪お湯で流して洗うわねー」


 お互い髪をお湯で洗ってから体を洗う。ラウンズフィールでアキトに買ってもらった柔らかい布。タオルを濡らして石鹸をつけて体を洗う。


「おお! あわがいっぱい。それにこの布すごい」

「泡いっぱいになるわよねー。えーい♪」

「わああああ! お返し!」


 キャッキャウフフとお互いの体を洗い合う。フェリスも楽しそうにシエラの体をゴシゴシと洗っている。そんな中シエラはタオルを持っていない手でもフェリスを洗い、後ろから股の間にタオルごと手を突っ込んだり、そこそこあるおっぱいを両手で弄っている。もちろん片手には石鹸でアワアワのタオルを持っている。


「おっぱいギュー! シエラのでっかい!」

「フェリスも結構あるわねー♪」


 シエラにとってとても、とても楽しく、満足する時間が過ぎていった。






「暖かい………お風呂って気持ちいいね」

「気持ちいいわよねー」(今日はこれくらいで満足しておきましょう。もっと仲良くなったらその内ベッドで………ウフ♪)


 浴槽に2人で向かい合って入っている。お互い体育座りで入っているので少し狭い。シエラはもっと密着したいが我慢している。たまにアキトと一緒に入るとシエラがアキトを後ろから抱きしめているので体の距離はゼロ。できればそうしたいが今日は我慢でしないといけない。


「ねーアキトさっきご飯も出してくれるって言ってたし、ここに泊まっていいって言ってたけど本当?」

「ええ。本当よ。私もアキトにそう言われたもの」

「私お金持ってないからご飯代とかどうしようかな」

「それも気にしなくていいわよ。アキトが用意してくれるし、修行の合間に薬草取ったりして生活費は稼いでるのよ。それにアキトはいろいろ用意してくれるから何も心配いらないわ」

「え? いろいろって………何を?」


 シエラの言動に疑問しかないフェリス。さすがに何もかも用意してもらうのは申し訳ない。少しでもお金を払いたいと思う。


「う~ん………全部かしら?」

「え?」


 それからシエラはここで暮らしてからの話をした。話すたびにフェリスの顔が曇っていく。シエラも2、3ヶ月は気にしていた。だが温泉に連れて行かれてからはもう気にしなくなっていた。


「ねえ。それって完全にアキトのヒモ………」


 それを聞いてシエラはがっくりと肩を落とす。


「そうなのよ~私完全にアキトのヒモなのよ………アキトはその内簡単にお金返せるようになるって言ってたんだけどね。それを信じて頑張ってるのよ………」

「じゃあ…ヒモ仲間になるね。一緒に頑張ってお金返していこうね」

「ええ。頑張りましょうね」


 シエラは仲間を得た。今まで1人でヒモだったがフェリスと一緒ならもっと頑張れる気がする。フェリスとは今後も仲良くしたい。ヒモ仲間的にも肉体的にも。


「ねえ………シエラ。そのー…ね」

「どうしたの? 何か聞きたいの?」


 フェリスは打って変わって気まずそうに私に何かを聞きたそうに声を出している。かなり聞きにくいことなのかかなり吃っている。


「その……ね。シエラとアキトってここに一緒に住んでるんだよね? そのー…一つ屋根の下に………」

「あ…ああ。そういうこと。ええまあ………そういう関係よ。恋人同士なの」

「やっぱり…そうだよね」


 フェリスは予想していたことが当たり俯向く。これからここに住ませてもらうのはいいが気を使う生活が待っているのだ。どうしても滅入ってしまう。それとは別の問題もフェリスにはあった。


「そのー…あんまり気は使わなくてもいいわよ。アキトはそういうの気にしない性格だと思うし」

「うん。できればそうしたいんだけど…夜はそのー…するんだよね?」


 フェリスは遠回しに2人の関係を聞いていく。直接的な言葉で聞きたいがまだ会ってから数時間も立っていないのに砕けた感じで喋るのは気が引けた。


「ま…まあ…するわね~………あんまりうるさくないようにするから…」

「その…無茶なお願いしていい?」

「一緒に住むんだからできるだけフェリスの要望も聞かないとね。内容次第でもあるけどね」

「怒らないで聞いて欲しいんだけど…たまにアキトを貸して欲しい」

「え?」


 シエラはいきなり自分の恋人を貸して欲しいと言われて困惑する。今恋人同士だと説明したはずなのにこんなことを言われてシエラは何故そんなことを言うのか聞かなければいけない。自分の恋人を貸して欲しいなんて言われて了承などできない。フェリスは俯きながらさらに続けた。


「私凄く性欲が強くて………毎日1人でしてて、たまに治まらない時もあって…男の人のなら治るかなって…そのダメだよね。恋人は貸せないよね」

「そ…そうなの…それは大変ね」(これ喜んじゃダメよね…本気で悩んでるみたいだし)


 シエラは嬉しさ半分、不安半分だった。半分は自分が抱けるという嬉しさと、フェリスがこれからこの家で苦労することへの不安だった。どうしても現状ではフェリスが1人だけ仲間外れになってしまうのだ。何か解決策はないかとシエラは上を見上げて考える。


「う~ん…」

「あ………私は大丈夫だから気にしなくていいよ。ごめん」

「そうねぇ…」


 何か、何かないかとシエラは思考を巡らせる。


 アキトが納得するような案はないものかしらねー。私もアキトもフェリスも皆が気にせず暮らしていける案はないかしら…あれば苦労しないわよね~。あったとしてもそれを家主のアキトが受け入れてくれるかどうか………


 受け入れて? 


 フェリスもアキトの女になってもらえば解決するんじゃないかしら? フェリスとなら仲良くやっていけそうだしアキトは甲斐性あるし、もう1人増えたところで何の問題もないわよね。増えても大丈夫だからフェリスにもここに住むように言ったんだしね。あとはアキトがフェリスを受け入れてくれるかどうかね。受け入れてくれればアキトの精神的な負担も軽減されるでしょうし、私もフェリスを………ウフ♪


 シエラはこれは名案だと思った。フェリスも私も満足できて、アキトも満足できるはずだと。さらにアキトのことに関しては精神的なケアもできると考えている。アキトは強いが精神面が弱くすぐケアが必要な状態になってしまうことが多い。アキトの精神面のケアをフェリスと2人でやっていけたら、フェリスのことを考えさせることで余計なことを考えないようにさせることができればと。決して自分のためではなく、アキトのためになると。


「わかったわ。私がアキトに言ってあげる」

「え? その言った私が言うのも何だけどいいの?」

「ええ。私が説得するから♪」








 アキト視点


「っていうわけなのよアキト♪」

「って言われてもなぁ………」


 シエラ達が風呂に入って楽しそうな声が聞こえてきて、俺も混ざりたいと思いながら食器を洗ってから暖炉の前で暖まっていた。2人で風呂から上がって来たらシエラから話があると言われて髪を乾かしながら話を聞いた。一言でまとめるとフェリスも抱かないか? ということだった。困惑しつつも理由を聞いたら納得のいく内容だった。フェリスが気まずくなるというのはわかるのだが………わかるのだが! 理屈では理解できるのだが心が付いていかないっての…


 アキトはどうにもシエラ以外の女を抱くことに抵抗があった。シエラ一筋というのもあるが、前世の感覚のほうが強いだろう。前世では一夫一妻が普通だった、一夫多妻などフィクションの中だけで、アキトは区別のつけられる人間だった。中には浮気や不倫と妻や夫が居ても他の異性を抱いていた者もいただろうがアキトはそうではない。まさか自分が恋人がいる状態で他の女性を抱くなんて考えたこともなかったのだ。


「いや…言ってる理由は分かるんだよ。確かにフェリスが気まずくなると思う。でもさ、シエラはいいの? 俺が他の女の子抱いてもさ?」

「私が一番なら良いわよ。それにエルフなら一夫多妻って普通じゃない? 結構いるわよ」

「うん。私のおじいちゃんも2人いたって言ってた。それに私は初めてがどうとかは気にしない」

「まじかー。俺が育った村は一夫一妻ばっかりだったからなぁ」


 この国では基本的にエルフやドワーフ、獣人達の長命種は一夫多妻を認められている。単純に長命種ゆえに子孫を残そうという意志が弱い者が多いのもあるが出生率が低いのもある。長命種同士の子供なら国に申請すれば補助金をいくらか貰えるほどだ。一方、人族は基本的に一夫一妻と国の法律で決められている。子供も2人までだ。これは単純に人族が増えすぎないようにするための処置だ。人族は繁殖率が高い。この国は多種族国家のため種族のバランスを重視しているからだ。もっとも平民だと子供2人までが経済的に限界というのもある。


「う~ん………」

「その…ごめんね。悩ませちゃって」

「ちょっと風呂で考えてくるよ」

「ええ。一旦1人で落ち着いて考えたほうがいいと思うわ」


 風呂に入り思いにふける。シエラの言うこともわからなくはないのだ。パーティに誘った俺としてはフェリスにも家では気兼ねなく過ごしてもらいたい。でなければ心も体も休まらないだろう。夜に声が聞こえるとしてもそういう関係になっていれば納得もいくというものだと思う。どうしたものか。一夫多妻は普通と言われても周りにはいないしいなかった。オヤジも国王なのに側室取ってないみたいだしなぁ。いまいちどんなのか想像がつかない。

 話を聞く限りあとは俺次第なのだ。受け入れる選択肢をした場合と、受け入れなかった選択肢を撮った場合の両方を考える。


 もし受け入れた場合、若干の罪悪感が残り2人の女性を抱いていくことになる。しかもその2人はすでに納得済みだ。もし受け入れなかったら気まずさが残りパーティがどうなるかわからないという不安が大きい。


 …………あれ?


 もう決まったんじゃないかな? 若干の罪悪感って言っても多分そのうち慣れるだろうし………パーティとしての利点を考えると気まずさが無いほうが絶対いいよな?


 ………決まってしまった。


 いや! 待て待て待て! 本当にこれで良いのか? 落ち着け俺。よーく考えろ。きっと隠れたデメリットがあるはずだ。

 夜は交代交代として、何か問題は…………なくね? 毎日とかじゃない限り大丈夫だろこれ。うん。夜は大丈夫だな!

 次に日常生活だが………これといって特に思いあたらんな。あの感じからして俺を取り合って仲悪くなるなんてないだろ。むしろそれは俺次第か。


 それに………擬似姉妹丼もいいなぁ。


 結局アキトは性欲に負けて考えるのをやめた。

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