79話 謎の杖とエルフの少女

 ダンジョンから帰る道中担いでいる子のことを考える。”簡易鑑定”に出てくる 成長性 というなんの成長なのかわからない項目で自分以外のSを初めてみた。一度暇つぶしで王都の人たちに片っ端から”簡易鑑定”をかけたことがあるがSは誰1人といなかった。むしろAですらまったくいない。Bはちらほら見るくらいだ。Aなんて師匠とシエラとリーネくらいしか見たことがない。それなのにSだ。いったいこの成長性という項目は一体なんなのか。未だになんの成長性なのかわからないが考えても答えは出ないので持っていた杖のことを考える。

 魔法が使えなくなる杖ではないのだろう。この子は詠唱ありだが使っていた。だがシエラは全く使えなかった。あのあと俺も持ってみたが使えなかった。このことから考えられるのは


 使い方にコツがいる。

 何らかの理由で魔力を制限する杖

 ただ単に呪われていて魔法が使いにくいだけの杖


 大雑把に分けるとこの3つだろう。何となくだが呪いの線はないと思っている。それなら俺とシエラが何らかの影響を既に受けているだろう。持っている時だけのものなら納得だがそれだとこの杖の存在意義がわからない。この子が知らずに持っていただけということもあるだろうが…


 となるとコツか魔力制限なのだが、仮説だがこの二つの合わせだと思う。考えられる理由としては修行用の杖という線だ。コツがいるなら魔力制御が求められるし、魔力を制限するなら多く魔力を使うことになる。そう考えると納得のいく杖なのだ。このエルフの少女が使うには時期尚早すぎるんじゃないだろうかとも思う。おそらくはかなり高位の魔法使いの修行用だと思っている。だがこの少女はこの杖を持って魔法を使っていた。とんでもない才能の持ち主なんじゃないだろうかと思う。”簡易鑑定”の結果もその考えに拍車をかけている。

 そうこう考えているうちにダンジョンの出口につき外に出た。


「やっと外ね。ダンジョンの中は温かかったから余計寒く感じるわね」

「うん。これだけ差があるときついね」

「それでアキト。その子どうするの? こういう場合はギルドだと思うけど、連れていく?」

「いや、家に連れていく。いろいろと聞きたいことがある」

「………連れてくのね。わかったわ」


 少し間があったが大丈夫なようだ。不安なことがあるのだろうが俺の好奇心が杖のことを聞きたいと言っているのだ。そして考えも一つある。


 寒い中を歩き家に着き、エルフの少女をソファーに寝かせて荷物をアイテムボックスから出して暖炉に火をつける。シエラは杖をソファーの前の机に置いた。


「それにしてもなんなのかしらねーこの子。こんな変な杖持ってるなんて」

「その杖のこと聞きたいんだよねー」

「私も気になるから聞きたいわ。それにこの子可愛いわね」


 そう言って舌舐めずりするシエラ。そうだった。シエラは元同性愛者だった。今では俺という男がいるが、今でも女性には反応するのだろうか?


「シエラ?」

「え? な…なんでもないわ! 何でもないから! 安心して!」

「……………」


 俺はシエラをジト目で見る。シエラはかなり気まずそうにしているが観念したのか白状しだした。


「………ごめんなさい。昔を思い出しちゃって…」

「いや…別にダメとは言ってないからね?」

「その………二つの意味で思い出しちゃったのよ。一つはもう察しがついてるわよね? もう一つがね………昔の仲間の1人に似てるのよ。この子」

「そっか………」


 気まずい空気が流れる。まさかここであの時のことが出てくるとは思ってなかった。シエラにとって昔の仲間は子供の時から過ごしていたのだ。似ている子を見て思い出してしまったのだろう。おそらく連れていくと言ったときに間があったのも昔の仲間を思い出したのだろう。


「じゃあ俺夕食作るよ。といっても下準備は空いてた時にしてあるからそんなにかからないよ。ちなみに今日はシチュー肉はオーク」

「楽しみに待ってるわ」

「それでさー…」


 煮込むだけなので鍋に材料を入れて火にかける。煮込みながら俺の考えを伝えるとシエラは快諾してくれた。どうやら俺に任せてくれるようだ。


 火にかけていてもうすぐかなーと思ったところでエルフの少女が目を覚ました。


「ん………ここ…どこ?」


 知らない声にエルフの少女の寝ていたソファーの前のソファーに座っていたシエラが反応した。


「よかった。起きたのね。アキトーこの子起きたわよー」

「おーそりゃよかった。体は何ともないかー?」

「………うん。何ともない」

「あなたダンジョンでゴブリンにやられて倒れていたのよ。たまたま私達が通りかかったから放っておくわけにもいかなくてここに連れてきたのよ」


 本当はこっそり後を付けていたのだが、それは言わないほうがいいだろうとシエラが判断したのだろう。なら俺はそれに合わせるだけだ。


「そうなの………ありがとう。助かった」

「いいのよ。そのまま放置するのも目覚めが悪いもの。あ、私はシエラよ。あっちの黒髪の子はアキト」

「私はフェリス。二人ともありがとう」

「とりあえず飯食って行けよ。3人分用意してあるからよー」

「助けてもらったのにご飯まで貰うわけにはいかない」


 少女は拒むがタイミングよく腹の音が鳴った。


「………食べていけばいいわよ? あれすごく美味しいから」

「………お言葉に甘える。この匂いには抗えそうにない」


 その後お互い自己紹介し、シチューとパンを配膳する。


「………黒い」

「わかるわぁ~これ見た目がねぇ。初めて見るとそうなるのよね。匂いは凄く良いんだけどね」

「美味いから食ってみるといい」


 フェリスは恐る恐るスプーンでシチューの肉をすくい不思議そうに眺めてから口に運んだ。そして目を見開き一気に噛み始めた。


「………ゴクッ! 何これ? 凄く美味しい!」

「美味しさに驚くわよねぇ」

「おかわりもあるからな~」


 初めてシチューを食べたシエラと似たような反応をしたフェリスはすぐ勢いよくシチューを食べ始めた。途中シエラがパンをつけて食べると美味しいと言って食べさせていた。髪の色が似ているせいか姉妹のような光景だった。案の定シチューをおかわりしたフェリス。腹が膨れたのか満足そうな顔をしている。


「美味しかった。久しぶりにまともなものをお腹いっぱい食べた」

「…お金は持ってないの?」

「持ってたけど宿代と図書館代に消えた。お金がないと思ってダンジョンに行ったらあの有様」

「別にダンジョンじゃなくてもよかったじゃねぇか。冒険者ギルドで受けられる依頼ならあっただろうに」

「宿の人が言ってたの。あそこのダンジョンは中が暖かいから寒い思いしなくていいって。寒いのは嫌だった」

「………あそこ大して稼げないぞ」

「………そうなのか」


 フェリスはしょんぼりしてしまった。どうやら結構騙されやすいタイプのようだ。暖かいというだけで楽に稼げるなら苦労はしないのだ。

 アキトは聞きたいことがあるので話し出す。


「ところで幾つか聞きたいんだがいいか?」

「えー」

「飯食ったよな? おかわりもして美味かったよなぁ」

「うぐ………」


 さすがにおかわりまでしたからか気まずそうにしている。あまり詮索されたくないようだが関係ない。美味い飯を食わせたのだから。


「まず、あの杖は何なんだ?」


 アキトは向こうの机に置いてある杖を指差しながら聞いた。


「あれは私のおじいちゃんの形見の杖」

「…亡くなったじいちゃんが持ってたからそのまま使ってるってことか?」

「うん。大事な杖。あの杖を持って冒険者やろうと思ってたの」


 大事なのはわかるがあの杖は冒険者をやるのには向いてないだろう。あれを使って冒険者をやるなど足かせをつけているようなものだ。それも動けなくなるほどの。


「じゃあ次だ。あの杖持つと魔法使えなくなるんだが何か知ってるか?」

「持った瞬間に使えなくなったのよねぇ」

「そうなの? 最初はなかなか使えなかったけど今は使えるよ?」


 どうやら本人は無自覚であの杖を持って魔法を使っていたようだ。最初は使えなかったということからアキトの仮説は当たっているかもしれない。


「俺達二人とも使えなくなったんだよ。持ってない今はもちろん使える」


 アキトは初級水魔法アクアボールを出した。するとフェリスは驚いたように見ている。


「む…無詠唱………おじいちゃんもできなかったのに」

「まあそれはいいとして、次に持って魔法を使おうとしてみるぞ」


 アキトは立ち上がり向こうの机に置いてある杖を手に取る。そしてまた初級水魔法アクアボールを出そうとするが出せない。


「無詠唱だからわかりにくいと思うが本当に使えないんだよ」

「私はその杖持ってても使えるけど…」

「俺の仮説はこうだ。この杖は恐らく高位の魔法使いが修行用に作った魔道具じゃないかと思う」

「………魔道具」

「お前のじいちゃんそういうの詳しくなかったか?」

「う~ん」


 フェリスは上を向いて考え出した。


「魔法のことは凄く詳しかったけどそういうのはわかんない」

「そうかー何にせよ大事なのはわかるがこの杖使ってると魔法あんまり使えないぞ」

「思えばその杖持つとアイテムボックスも使えなくなったような気がする」

「え? アイテムボックス持ってるの?」


 シエラが驚いてフェリスに聞く。俺も驚いている。いきなりアイテムボックスを持っていると言い出したのだ。普通は初対面の相手にはそういった自分の秘密は隠すものだからだ。いくら助けたといっても今日会ったばかりなのだ。無用心だと思う。


「うん。ほら」

「本当ね」


 フェリスはアイテムボックスから本を取り出した。本当に持っているようだ。これはますます俺の考えを実行しなければならない。


「知らない人にアイテムボックス持ってるなんて言っちゃダメよ。私達だからいいけど狙われるわよ? 自分の道具のように使おうって人はたくさんいるの。だから言いふらしちゃダメよ」

「そうなの?」

「そうなの!」


 シエラは妹を叱るように言い聞かせている。どうやらフェリスは世間知らずなようだ。俺も大概だが俺以上に世間知らずだ。2人が話している様子をはたから見ると髪の色が似ていて身長もシエラの方が高いので本当の姉妹に見えなくもない。フェリスもエルフなので美形だ。美人姉妹と言われても不思議じゃないだろう。


「…杖を持ってるとアイテムボックスを使えなくなるんだな?」

「うん。そう」

「そうなるとやっぱり魔力を封じるような効果があるみたいだな。それでもこの杖を持って魔法を使えるのはすごいな」

「私凄い。むふ~ん」


 フェリスは両手を上げて得意げにしている。今にも『コロンビア』というテロップがつきそうだ。


「まあ凄いのはわかったよ。それで本題だ」

「本題?」

「ああ。本題だ。フェリスは冒険者としてやっていくんだよな? 多分だけど今パーティ組んでないよな?」

「うん。冒険者やって自由に気ままにやろうと思ってる。パーティは組んでないよ。最近王都に来たばっかりだし」


 よしよし。前提条件はクリアだ。ならあとは聞いて利点を言うだけだ。


「じゃあさ。俺達とパーティ組まないか?」

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