第8話 転生者

 転生してから約2年が経ち、俺は10歳になった。冒険者を目指し魔法の練習を続ける日々を送っていた。両親には冒険者になれる15歳まではこの村での生活を続けるように釘を刺されている。


 しかし10歳になったものの身長が8歳の頃から少ししか伸びていないのだ。

 両親に聞くとエルフ種は25歳くらいまでに成長しきるそうで、その間の成長具合は個人差が大きくわからないそうだ。

 15歳くらいから急激に伸び始める者もいれば20歳くらいで伸びる者もいる。ちなみに俺は今120センチくらいだ


 身長は伸びなかったが魔法やスキルはかなり使いこなせるようになったと思う。”アイテムボックス”と”簡易鑑定”は呼吸をするかのように使えるようになった。

 魔法も母が使えるものはすべて使えるようなり、村長が土魔法を使えたので教えて貰った。中級までの適正があったようで攻防どちらにも使える便利な魔法も使えるようになった。

 ちなみに無詠唱も習得したのだ。

 ”アイテムボックス”が魔力を制御できるようになってから使えたことから


「”アイテムボックス”が魔力を感じるだけで使えたんだから魔法も楽に使えるんじゃね? 詠唱いらんのじゃね? 知らんけど」


 という考えに至った。その考えに至り何日かしてからいきなりできるようになった。

 母はそれを見てまた顔を両手で覆ってしまった。


「アルフ………この子もう嫌」

「ハッハッハッ! 息子が優秀でいいことじゃないか! 誇るべきことさ!」


 ………ごめんよ母さん。問題児でごめんよ。でも神様が作ったであろうこの体が優秀過ぎるんや。仕方ないんや………だから俺のせいじゃねぇ!


 その日の夜はうるさかった。とてもうるさかった。爆ぜろ!


 2年経ったが生活はあまり変わらない。父の農作業の手伝いをして、村長の家で魔法の練習をしたり遊んだりする日々が続いた。


 冒険者を目指していることは変わらない。冒険者になって世界をのんびり見て回りたい。だが冒険者は強さが求められる職だ。だから魔法を鍛えて強くなろうとしているのだが、このままでいいのかという不安が大きい。今のままでも多少は魔法は強くなるだろうと思う。だけどこの環境だと頭打ちという感じがどうしても否めないのだ。


 2年で変わったこともある。この村に移住してきた者がいるのだ。中には俺と歳の近い子供もおり一緒に遊んだりする仲だ。中身がオッサンなせいか童心に帰って遊ぶのはとても楽しかった。


 今日も父の手伝いを終え、村長宅へ向かう。すると何かいつもと違い賑わっている。子供たちが遊んでいるのだろうか?

 いつも通り訓練場へ行くと1人の銀髪の女性が魔法を無詠唱で撃ちまくっていた。


「あ! アキトこの人すっげぇぞ! アキトよりすごい魔法いっぱい使えるぞ!」


 遊び仲間の1人が寄ってきて話しかけて長ら俺の手を引っ張っていく。


「お! 新しい子か?」


 女性が振り向いて声をかけてきた。

 長い銀色のストレートの髪を後ろでまとめたポニーテールで、金色で大きい瞳、鼻筋の通った整った顔立ちのクール系の美女。身長は170センチほどだろうか。スタイルもナイスバディを体現するような出るとこ出て締まるところ締まったスタイルだ。こういう人を絶世の美女というのだろう。尖った耳を見る限りエルフ種だとわかる。戦闘力バスト101だと!?


「君も見ていくといいよ」


 笑顔でそう言ってくれた。見た目とは裏腹にとても優しい笑顔だった。笑顔が似合う女性だ。何をしているのかわからなかったが見ていくことにした。

 その女性は魔法を使って曲芸のようなことをいろいろしていた。その中の一つに地球からの転生者しか知らないようなものがあった。あの構えはどうみても「波○拳」である。極め付けに「はーっ!」と叫んでいた。飛ばしていたのはファイヤーボールだったが………



 それを見た瞬間に悟った。”この人転生者だ”と。



 女性の魔法による曲芸大会が終わり俺以外の子供たちは家の手伝いがあるそうで帰って行った。


「君は帰らなくてもいいのかい?」

「もう家の手伝いは終わったんですよ」

「そっか。それは好都合」

「?」


 女性が顔を近づけてきて


『見~つけた! アキト君でしょ』


 と、この世界の言葉ではなくいきなり日本語で話しかけてきたのである。


『やっぱり…ね』

『あまり驚かないね?』

『そりゃー誰でも波○拳なんて見せられたら気づきますよ』

『それもそうか。か○は○波のつもりだったんだけどね』

『ところで、俺を探してたんですか?』

『ああ、アウラ様とアスラ様に君のことを頼まれてね』

『え? 神様に?』

『そうそう~』

『いろいろ聞きたいです!』

『こらこらがっつくんじゃない。強引な男は嫌われるZO☆』

『す…すいません………』

『いいよいいよ。でも一つ言っておこう。そんなすぐに信用するんじゃない。私が君を殺しにきた暗殺者だったらどうするんだ?』

『うぐ………』

『そういうことの改善も含めて君の面倒を見ようと思ってるんだよ』

『え?』


「あ、そろそろ戻すよ。こっちの方が話しやすい」

「あ…はい」


 つられてずっと日本語で話していた。この人はなんだか引き込まれる。というかテンション高いな。


「それで君を拉致しようかと思ってきたんだ」

「拉致!?」

「ん? 違うな。私と同棲しないかい?」

「同棲!?」

「エッチなこともできるかもよ?」


 この人見た目と性格が違いすぎるよ!笑顔で本気なのか冗談なのかわからないことを言ってくる。


「あれだ! 私の弟子にならないかい? これが一番しっくりくるな!」

「弟子………ですか?」

「魔法に関しては君より使えることは見せたはずだけど?」

「………俺冒険者になりたいんですけど、弟子になると強くなれますか?」

「強くしてくれっていうんなら強くしてあげるよ? どう強くなりたいかにもよるけどね」


 正直今の生活を続けていてもこれ以上強くなれる気はしない。人生の転機が今はっきりとわかる形で俺に提示されているのだ。


「そういうのはまだ漠然としてるんですけど………いいですか?」

「いいよいいよ。君のその体の精神年齢じゃ将来の指標を今すぐ決めろなんてできないさ。少しずつ探ればいい」


 悩むまでもないだろう。


「じゃあお願いします。強くしてください!」

「よーしわかった! じゃあ私の家行こっか。善は急げだー!」

「ちょちょちょ! 待って待って! 父さんと母さんをまず説得しないと! 15歳まで今の生活でって言われてるんですよ!」

「ん? そうなのか? なんていうか………箱入りなんだな。じゃあ両親に言いに行こう。私が言えば簡単に通るだろうし! あ! 村長にも話通しておこう」


 そう言い村長宅に向かって行く。強引なところがあるのだろうかどんどん話を進めていく女性。まだ名前も聞いていないというのに。というか言えば通るって何者だこの人?


 すぐに後を追って一緒に訓練場から村長宅の入り口についたのだが、女性にここで待っているように言われてしまい、扉を閉めて入って行ってしまった。


「ええ~………」


 理不尽だと思い待つこと数分。2人が出てきた。


「アキトよ。頑張るんじゃぞ」

「………何があったの村長」

「………」

「喋ってよ!」

「いろいろあるのじゃ」

「………」


 答えるのを濁す村長に、何かを察するかのように俺は聞くことをやめた。


「アキトの家はどこだい?」

「あれがそうじゃ。今なら二人ともおるじゃろう」


 村長が両親のいる家を指差す。多分イチャついてるんじゃないかな? 爆ぜろ。


「よっし! 行くぞー!」

「ちょっ!?」


 急に抱きかかえられ猛スピードで家に向かって走り出す女性。あっという間に着いた。文字通りあっという間に。


(………なんだよ! …今のは!?)


 常識では考えられない動きをこの女性はしたのである。たった1歩でF1の最高速のような速さを出したのである。驚愕し動けないでいると


「じゃーまた待ってろよー」


 俺を離し、家に入って行った。


「………マジか」


 どうやってあの両親を説得するんだろうか?

 約2年前、王都の冒険者ギルドでAラング冒険者と名乗るクソ野郎にも父と母は絶対に渡さないと言ってくれた。

 当時の父は本当に格好良かった。今でもはっきりとあの時の父の姿を覚えている。

 そんな2人が簡単にあの女性についていくことを認めるだろうか?今までの2人からして絶対にないはずだ。


 ………さすがに脅したりはないよな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る