第4話 王都へ

 父の手伝いを終えて村長の家に行ったら見知らぬ人たちが5人出てきて俺が来た方向と反対方向に歩いて行った。剣や盾を持っていて大きい荷物も持っていて、防具のようなものを身につけていた。さらには杖のような物を持っている人もいた。村長に聞いてみようと思い走る。


「村長さん。さっきの人たちは誰?」

「これ! 挨拶せんか! またララベルに叱られるぞ!」

「おはようございます。それで村長さん。さっきの人たちは?」

「おはよう。さっきの人たちは冒険者の方達じゃ」


 おおおおおおお! 冒険者来た! ファンタジーの王道とも言える職業! 俺がキラキラした眼差しを村長に向けていると村長が口を開く。


「………アキトよ。冒険者のことが知りたいのか?」

「うん!」

「………何を知りたいんじゃ?」

「冒険者ってどんなことするの!?」


 村長はあまり俺に知られたくなかったのかばつが悪そうである。だけど村長は簡単にではあるがちゃんと答えてくれた。冒険者は冒険者をまとめているギルドから出される依頼をこなして生活しているらしくかなり厳しい世界だそうだ。ランクという冒険者の強さの指標のようなものがありそれに応じて受けられる依頼は異なるそうである。魔物という異形の生き物を狩ったり、薬草などの素材を採取しに行ったり、馬車の護衛などでお金を得ている。一攫千金で富を築き有名になったりする者もいるらしいがそれはほんのごく一部だとも教えてくれた。


 このあたりは想像していたのと似てるかな。


「冒険者は危ない職業じゃ」

「冒険者になりたい!」

「はぁ~………だから教えたくなかったんじゃ………そう言うとわかっとったからの」


 やはり俺には教えたくなかったらしい。だけどちゃんと答えてくれたあたり子供に甘いのだろう。


「………ララベルに叱られにいくかのぉ。ほれ。アキトの家に行くぞ」

「わかった!」


 村長と一緒に家に帰る。


「ただいまー!」

「お…おお! アキト早かったな!」


 帰ると両親がイチャついていた。爆ぜろ。


「お邪魔するぞい」

「あら、村長さん。いらっしゃい」

「ん? アキト。なんで村長と一緒に来たんだ?」

「………すまぬ。話してしもうた」

「あ~………冒険者のことですか?」

「………うむ」

「いえ…遅かれ早かれ知ることですから」


 どうやら母は俺が冒険者のことを知るとなりたいと言うのはわかっていたようだ。


「アキト。こっちにいらっしゃい」

「うん」


 真剣な面持ちの母に呼ばれ、母が座っている横の椅子に座る。


「冒険者………なりたい?」

「なりたい!」

「………わかったわ。今度魔法適正を調べに王都の冒険者ギルドに行きましょうか」

「お…おい! ララベル! そんな簡単に決めていいのかの!?」

「………良くないですけど、この子はまだ8歳なんです。命の危険の話をしてもわからないんですよ」

「それは………そうじゃが」

「なら魔法だけでも覚えさせて、将来冒険者になるにしてもならないにしても自衛の術を一つでも増やしてあげたいんです。少しくらいなら私やアルフで魔法を教えることもできますから」


 確かに8歳の子供ならそんなことはわからないだろう。確実に憧れの方が勝る。実際アキトには理解できないのである。前世がでは殺し合いをしたこともなければ、動物を殺すということもほぼない世界で生きていたのだから当然である。ただ漠然と危険があるとしか思っていない。この”体にある記憶”にもそういったことはない。この村はかなり平和で魔物といったものをアキトはまだ見たこともない。もっとも、村から出れば魔物もいるし、盗賊といった犯罪者たちもいる。危険はすぐそばにあるがアキトはまだ体験していない。


「………そうじゃの自衛の術を学ばせておくのいいことじゃのぅ。わかった。後10日ほどで野菜など卸しにいくため王都に行く予定じゃから、その時にアキトも連れていこう。アルフもそれでいいのぅ?」

「ああ、構わない!」


 父はずっと黙っていた。少し笑みを浮かべて話を聞いていただけだった。何故そうしていたのかはわからなかった。


 10日後、王都に行く日が来た。楽しみで楽しみで仕方がなかった。遠足に行く子供のように前日は楽しみで眠れなかった。8歳の子供だからな!

 王都には魔法適正を調べる技術があるらしく、適正を調べに俺も王都に行くのだ。


「アキト! はしゃいじゃだめよ!」

「ハッハッハッ! 楽しみで仕方ないんだろう」

「もう~~~アキト王都までは3日くらいかかるんだから、馬車では大人しくしてるのよ!」

「わかったー!」


 父はいつも通り。母には注意される。

 王都に向かう馬車は3台あり、2台には卸す野菜などかなりの量が載せられていた。護衛付かないのかなと思っていたら両親と一緒に行く何人かの大人たちが武器と防具を身に着けていた。引退した元冒険者だったらしく護衛を兼ねて行くそうである。


「よーし。皆準備はいいかの? 出発するぞ」


 ついに出発である。そして約1時間後………


「気持ち悪い…」

「まさかこの子が馬車酔いするなんてなぁ」

「さすがに予想外よねぇ…」

「こりゃ冒険者には向いとらんぞ?」


 まさかの馬車酔い。今は母に膝枕されて寝ている状態である。現代日本のように路面がきれいに舗装されているわけでもなく、馬車に揺れを軽減するような機構もないのだ。


 昼の食事休憩までなんとか吐くこともなく耐え抜き、食事もなんとか食べることができた。やはりこの世界の食事は食べられないことはないがあまり美味しくない。家ではないので干し肉やら硬いパンといった保存食だ。だがこの世界の食事に次第に慣れてきている自分がいる。人は何でも慣れるものらしい。


 休憩が終わり出発する。今度は御者席という馬を制御する席に一緒に座らせてもらった。遠くを見ると酔わないというのを思い出し実践してみた。正直期待してなかったのだが劇的なまでに馬車酔いがなくなり、王都までの道のりを耐えることができた。


 道のりの途中での野営も新鮮でなかなか眠ることができず母に叱られもした。経験したことない非現実は8歳という歳には楽しかった。


「あれが王都じゃ」

「おおー!」


 馬車酔いを克服する術を身につけ、王都に着くことができた。道中は景色を見るだけで新鮮で3日間だが長く感じることはなかった。

 道中は魔物に遭遇することはなかった。父曰くかなり珍しいことらしい。運が良かった。

 ちなみに両親は道中人目を気にせずイチャついていた。爆ぜろ。


「東区の南門じゃ」


 王都というだけあってかなり広く、地区ごとに分かれており入り口もいくつかあるようだ。城壁は高く20メートルはあるのではないかと思う。

 王都はサンドリアスという名前らしく、王族の家名がそのままついているそうだ。国の名前にもなっているそうで「サンドリアス王国」という国名だ。元はドワーフとエルフによって建国された国だそう。

 平民には家名はなく、家名があるのは王族と貴族、一部の認められた者くらいだと村長が教えてくれた。

 あぶねーあぶねー。神様とのステータス決めの時に名前に名字入れなくてよかったぜ。もっともこの国の貴族は共通のミドルネームがあるので分からなかったとは思う。


 名前・ディ・家名


 というような名前らしい。地球でもそういう感じの名前はあった気がする。


 王都に入るには門で荷物等をチェックされ、入るにもいくらかお金が必要のようだ。所謂”税金”である。村長が説明してくれたがやはりあるのかとしか思わなかった。これほどの街をタダで管理などできるはずもない。この世界でもうまいことできているようだ。利権とかいっぱい絡んでいそうだけど。


「よし! 行っていいぞ!」


 無事に王都に入ることができた。


「お…おおーーー!」


 中世ヨーロッパを思わせるような街並みに、他種族国家ならではなのか多種多様な人種が数多く歩いている。パッと見人間が多く、耳の尖ったエルフ、顔が動物の獣人も居れば人間に耳が生えただけのような獣人、ドワーフなのか小さいがガタイのいい人間。リザードマンだろうか。トカゲのような顔をしたような者もいる。多種多様な人種がいるのは知っていたが実際に見るとテンションが上がるものである。


「こらアキト! 大人しくしてなさい!」

「仕方ないさ。初めて王都に来たんだからな。ハシャギもするさ」

「まず宿を取りに行くぞい」


 母に叱られるので大人しくする。まず宿を取りに行くようだ。道中興奮冷めやらぬ中、村長に種族のことについて質問した。

 人間は人族というらしく寿命などはエルフに比べるとかなり短く、長くても6、70年ほど。地球より少し少ないか。

 獣人は身体能力が高いのが特徴で、エルフは魔力と呼ばれる魔法を使用するのに必要な力が多いが、筋力等といった身体能力は少し低いそうだ。

 ガタイがよく背が低い人間はやはりドワーフという種族だった。ドワーフは筋力か魔力の高い者で分かれていて物作りが得意だそうだ。

 だがどの種族も個人差があるらしく一般的にそう言われているということらしい。ちなみに人族はバランスがいいらしい。この辺りも大体想像通りかな。


 黒髪は珍しいのか街行く人達が結構こっちを見ていた。実際黒髪は全然見ないのだ。濃い茶髪のような人はいたが黒髪はいない。正直失敗したと思った。だが仕方ない。変えることもできないだろうから諦めることにした。


「さて、わしらは野菜などを卸してくる。アルフたちは冒険者ギルドに行ってくるといい」


 宿を取り、荷物を置いて冒険者ギルドへ!

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