第3話 スキルと環境
現状の把握に努めているといつの間にか寝落ちしていたのか外が少し暗くなっていた。体はかなり調子が戻っていた。まだ少しだるいが寝落ちする前よりだいぶマシだ。現状も寝落ちする前におおよそ把握できた。父の名前はアルフ。母はララベルという名前だ。仲睦まじい二人のようだ。
爆ぜろ。
おっと。ついモテない日々を過ごした前世のようなことを思ってしまう。こんなことを言ってはいけない。父親と母親の仲がいいというのは良いことだ。そこへ足音が聞こえて来てノックの後にドアが開かれる。
「おお。起きていたかアキト。だいぶ顔色が良いな。元気になったようで何よりだ。ん? お前目が………」
俺の目がどうしたんだろうか? 父親が懐疑な顔をして覗き込んでくる。一体どうしたんだろうか?
「僕の目がどうしたの? 変?」
「いや…左目だけ青色になっているんだ。両目とも黒目だったんだが…」
「え? 本当?」
「ああ。本当だ」
「鏡は…」
「そんな高価なもんうちには無い。母さんにも見てもらえ。呼んでくるから待ってろ」
そういって父が部屋からドタドタと出て行った。こんな感じの喋り方でやり取りは問題なかったようだ。それにしても………マジかーオッドアイかー厨二病全開だなー。心当たりはあれしかない。転生する時にもらったスキル”簡易鑑定”が原因だろう。どうやって使うんだろうか。考えていると母親が来た。
「あら、本当に右目だけ青色ね。大丈夫? 痛かったりしない?」
「うん。全然痛く無いよ」
「本当に? 顔色はかなりよくなったけどまだ寝てないとダメよ。目の色のことも心配だし熱も………まだ下がりきってないみたいだし。今日は夕飯食べて寝てなさい」
どうやら母親はかなり心配性のようだ。その後部屋で夕食をとり、薬のような物を飲まされすぐに寝るように言われてしまった。いくら体が弱っているとはいえさっき起きたばかりですぐには寝れないので、転生するときに選んだ’スキル’を試そうと思い試行錯誤する。まずはアイテムボックスからだ。
「………どうやって使うんだ?」
それもそのはず。いきなりファンタジーの世界に転生し、何が何だかわからないのに使えるわけがない。前世ではそんな超能力のようなものはなかったのだから当然である。
アイテムボックスだからアニメや漫画にあったような異空間に手を突っ込むようなイメージをすれば使えるんだろうか。イメージして手を動かしてみるものの何も起きない。しばらく口に出して手を伸ばしてみたり試行錯誤しいろいろやってみるものの何も起きなかった。
「う~んわからん」
諦めて簡易鑑定を試してみようと思う。おそらく目が関係しているのは目の色が変わったことからわかる。というか見ないとできないだろう。部屋にある机やベッド、かけられている布団などを注視してみるものの何も起きない。
これもどうやって使うのやら………結局何が何だかわからないので不貞腐れて寝た。
翌朝、起きるともう日が上がっていた。やはりまだ体が弱っていたのかかなり長い時間寝ていたようだ。それとも昨日のスキルを試す時間が長かったのだろうか。わからないがドアがノックされ開いた。
「アキト。やっと起きたのね。また寝たまま起きないのかと思って心配したわ」
「おはよう。母さん。寝すぎちゃったね。お腹空いたよ」
「ご飯はあるから待っててね。あと村長さんが来てるから。診てもらうといいわ。呼んでくるから待っててね」
「うん。わかった」
そう言って母親が出て行き、すぐにドアがノックされた。
「おーいアキト。入るぞい」
「うん。いいよー」
ドアが開らかれ一人のエルフ?が入ってきた。
(は? これ村長? めちゃくちゃ若いやん)
前世の感覚でいうとどうみても20代後半くらいの耳のとがった人物が入って来たのである。村長というくらいだから結構歳の入った人物を想像していたんだが完全に予想外である。ちなみに髪は父や母と同じで水色だ。少し薄いだろうか。
「おお。元気そうで何よりじゃ。顔色もいい。聞いてた通り本当に右目だけ青いのう」
「こらアキト。ちゃんとご挨拶なさい!」
「あ…うん。村長さんおはようございます」
「ほっほ。おはよう」
喋りは年寄り臭い。なのに見た目は若々しい。ギャップがすごい。エルフって長命のイメージあるけどこの世界のエルフは長命なんだろうか。
「じゃあ村長さんお願いしますね。私はアキトの朝食を作ってきますので。」
「うむ。わかった」
母が部屋を出て行き村長が残る。
「どれ、熱はどうかのう」
そう言い村長は俺の額に手を当てた。
「熱は引いとるみたいじゃな。口を開けてみなさい」
「あーーー」
「ふむ………大丈夫じゃの。じゃが………目はわからんのう。こんなのは初めてじゃ。しばらく様子見じゃな。今の所何ともないみたいじゃしの」
村長にもわからないらしい。でしょうねぇと思っていると村長が話しだす。
「目のことはわしのほうで調べてみるかの。アキトよ。大事を取って大人しく寝ておるんじゃぞ」
「はーい。ところで村長さんって今何歳?」
疑問に思ったので聞いてみる。
「わしか。いくつじゃったかのう。400を超えたあたりから数えるのをやめたからのぅ」
これも予想外である。100歳くらいかなーと思っていたが予想の4倍も上だった。やはりエルフというのは長命なんだろう。ということは俺もかなりの長命なんだろうなぁ。驚いて声が出ないでいると
「ほっほ。純血のエルフは5,600年は生きるからのぅ。アキトはまだ8歳じゃからまだまだ先のことじゃな」
思いがけずに自分の年齢を知ることができた。8歳らしい。そして純血のエルフで5,600年か。ということは俺はクォーターのはずだから単純計算で純血のエルフを500年とすると4分の3で375年か? 前世でも30年前後しか生きてないから想像つかんな………
「じゃあアキト。大人しく寝ておるんじゃぞ? いいな? 大人しくしておれよ!」
「わかった!」
やたらと釘を刺された。ああ、この”体にある記憶”から察するに俺は相当ワンパクな子供らしいな。それはそれで好都合だ。いろんなところに首を突っ込んで行ける。
その後、母親からまたあ~んされて食事を食べた。昨日と違い固形肉のようなのと野菜のような物がスープに入っていた。昨日のはすりつぶしたようなものだったからありがたい。その後母親にまでちゃんと寝ているように言われてしまったので大人しく寝ることにした。スキル使おうにも分からんしなぁ。
あれから数日。俺はすっかり元気になった。元気に外を走って調べるようなことをしている俺を母のララベルは心配そうに見ていたが、何日かすると慣れたのか、ワンパクなころに戻ったのをみて安心したのか心配そうな顔をすることはなくなった。
改めて母親を見るとかなり美人でスタイルもかなりいい。
一方父のアルフは大雑把な性格のようで「よかったなー!」と俺と一緒に元気に走り回っていた。元気な犬のような父である。何はともあれ両親を安心させることができて何よりである。
ちなみに両親は隙あらばイチャついている。爆ぜろ。
元気になった俺は父であるアルフの手伝いをするのが仕事らしくアルフとはよく一緒にいる。ちなみに農家らしく畑仕事の手伝いだ。毎日健康的な汗をかいている。前世では引きこもりのアニメオタクだったため運動のある健康的な生活である。
そんな日々を過ごしている中で今住んでいる村のこともわかってきた。エルフ種が多く人間が何人かと獣人と呼ばれる動物の耳が生えた人間が数名いた。というかこの村大丈夫なんだろうか? 子供が俺ともう一人歳の近い女の子しかいない。結構人がいるのを見るので人口はそれなりにあるのだろう。
前世の感覚からいったらはっきり言ってここは未来のない限界集落である。だがよくよく考えるとこの世界では種族による寿命の違いがあるため、子供が少なくても大丈夫なのかもしれない。
農業が盛んなため人手が足りなくなったら大きい街から移住者募集でもかけるのだろう。
ちなみにスキルはまったく使えるようになる兆しが見えない。村長も片目だけ目の色が変わったことはさっぱりわからないらしい。うん。それは正直どうでもいいよ村長。
村長の家が近いためよく行くのだが、その際に何らかの書類を見る機会があった。どうやら俺はもう文字の読み書きについては学び終えていたようで、村長の家にある目当ての本を読むことも文字を書くことも問題なくできた。歳の近い女の子はヒーヒー言いながら村長に文字の読み書きを教えられていた。村長曰く俺は読み書きの習得がとんでもなく早かったらしく計算もすぐに覚えたらしい。知らんがな。
だがこの体の頭脳はかなりスペックが高いようで戸惑うことが多い。例えるならWindow○10がサクサク動くスペックのパソコンにWind○wsMEがインストールされているようなもの、もしくはスーパーカーに乗ったペーパードライバーのようなもの。前世の俺の感覚がついていけない。悲しい。おそらく神様が作った体だからだろう。
精神面は少し問題があると思っているがなんとかなっている。8歳という年齢のせいか精神年齢まで年相応に引っ張られている気がする。自然と子供らしい発言と行動をしてしまうことが多々ある。むしろそれで助かっている面もあるのだが、常に猫を被っているようで何だか騙しているみたいで申し訳なく感じてしまう。
そしてもう一つ重大なことに気がついてしまった。
おそらく俺はこの両親の実の子供ではないということ。
鏡がないとはいえ水面などで自分の顔を見る機会はいくらでもある。自分の顔を見ても両親に似ている要素が何一つないのだ。俺が黒髪黒目等の要素を決めたからだろうか。神様が作った体だと思い始めたのはこれが要因だ。
きっと俺は孤児なんだろう。運良くあの両親に拾われたのかもしれない。それはわからないけど、あの二人は実の子供と思って接してくれているのはわかる。もしかしたら実の子供なのかもしれないけど言わずにいようと決めた。
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