第2話 転生

 気がつくと知らない部屋にいた。窓からさす日の光で起きたようだ。今はベッドに寝ていて熱があるのか体が怠いなぁと思いつつ辺りを見回す。


「どこだここ?」


 6畳くらいの部屋にベッドと小さい机、棚、ドアを確認できた。部屋全体というか造りがあまり良く無いような気がする。そう思いボーッとしていると記憶が蘇ってくる。


「そっか。転生したんだ俺」


 朦朧とする頭で少しずつ記憶を探る。神様達に会い、転生しないかと問われてステータスみたいなのを決め転生することを選んだ。今思えば変な神様だったなぁ・・・。


 というか最後のあれは一体なんだ・・・。爆弾を最後に投下された気がする。俺の前世になる世界の技術を使ってはいけないとはどういうことなんだろうか。


 考えてもわからないので現状把握に努めよう。


 どうやら俺は今風邪か何かで寝込んでいるようだ。体が怠く動けない。自分の手を見ると随分幼く小さい手だった。


 そういえば早ければ5年くらいで記憶は戻るって言ってたな。今何歳かはわからないがこの体が今まで過ごしてきた記憶もあるようだし言語は大丈夫そうだ。とそこへドアが開く。


「アキト!目が覚めたんだね!よかったわ!」


 入ってきたのは耳が長くとがっており、肩くらいまである水色の髪を靡かせた美人の女性だった。とても喜んでいるようでベッドの横に来た。


「もう目が覚めないんじゃないか心配で心配で・・・ああよかった」


 どうやらかなり寝込んでいたらしい。目の前の女性を見る限り深刻な事態だったようだ。目には涙を浮かべている。


「待っててね。今水と食べ物を持ってくるから」

「・・・うん」


 そう言い残し母親と思われる女性は部屋を出て行った。ちょうどいい。現状を把握できてないから時間があるのは助かる。受け答えもまともにできないだろう。今は現状把握に努めよう。


 どうやら病弱というわけではなさそうだ。何日か前の記憶だろう。元気に外を走り回っている覚えがある。その後家に帰ってきてから熱を出したようだ。父親と思われる人物も思い出せた。父親も耳がとがっていて髪は水色で短髪のイケメンだ。

 爆ぜろ。イケメン死すべし。さっき見た美人の女性エルフを妻にしているのかと思うと腹が立ってきた!


 いや待て! イケメンな父親と美人な母親の子供の俺なら将来イケメンになるのではないか?


 ・・・この勝負勝ったぁ!


 無駄にテンションを上げていると母親が戻ってきたのか足音が聞こえ、ドアを開けて入ってくる。今度は父親も一緒だ。


「おお! アキト! 目が覚めたんだな!よかったよかった」

「もう! 目が覚めたって言ったじゃない!」

「いやー実際に見てみないとな!」


 どうも母親の言うことが信じられなかったみたいだが父親も安心したらしい。


「明日村長にも診てもらおうな」

「アキト。お水よ。飲める?」

「うん」


 なんとか体を起こし、小さなコップに入った水を受け取る。その時自分の体が小さいということを改めて実感する。母親の手の大きさと自分の手の大きさがまるで違う。大人から子供になったのだ。そう実感するには十分だった。


「ん? どうしたアキト。水飲まないのか?」


 父親が心配して声をかけてくる。その顔は少し不安そうだ。


「だ・大丈夫。まだボーッとするだけ」

「そっか。早く良くなるといいな」


 水を飲みまた横になる。


「食べ物はもうちょっと待っててね。すぐ作ってくるから」

「アキトも起きたし、これで気兼ねなく働ける。アキト、ちゃんと大人しくしてるんだぞ」


 そう言い残し二人とも部屋を出て行った。内心では助かったと思っていた。今二人と話せば絶対にボロが出るというか話が噛み合わないだろう。できる限り二人のことを思い出さないとな。


 二人のことを思い出しつつ待っていると母親がスープのようなものを持ってきた。


「お待たせアキト。お腹空いてるでしょ。はい。あーん」


 そう言ってスプーンにとったスープを向けてくるので体を起こそうすると


「ああっ無理に起きなくていいわ。そのまま口開けてちょうだい」


 そういうので無理に起きずに寝たまま口を開けスプーンのスープを口にする。うん。暖かくていいけれども味はあまり美味しくはない。病人食というやつなんだろうか?それともこれが普通の食事に出てくるスープなのだろうか。食に関しては元気になってからだなと思い、母親にあーんしてもらいつつ食事を続ける。食欲はあるようで全部食べ終えることができた。


「食欲はあるみたいでよかったわ。これならすぐ元気になるわね。じゃあお母さんも仕事してくるから大人しく寝てるのよ」

「うん。わかった」


 母親が部屋から出て行き一人になる。


「あーんされるのもいいもんだなぁ」


 あれほど美人な母親である。いい気分になるのは当然である。よく見るとスタイルもすごくよかった。出るとこ出て締まるところが締まったナイスバディであった。


 さて、現状の把握に戻ろう。









 某所にて


 一人の女性が椅子に座っている。目の前の机には彼女の夕食が置いてあり、ステーキとサラダにワインが置いてある。ステーキをフォークで刺し、口に運び、ワインをグラスに注いで自分の口へと持っていく。ワインを一気に飲み干すと声をあげる。


「あ~~~やっぱりこれだね~。酒は美味しいし、我ながら完璧な焼き加減のステーキだ」


 自画自賛し酒に酔う。女性の夕食はいつも酒と肉が大半だ。


「このお肉もなかなかいいじゃないか。そこらにいたや」「「やあ」」「わあああああああああ!」


 座っている女性の横からいきなり声を掛けられ、驚きのあまり女性は叫んだ。現れたのは双子の美少女。女性は彼女達を知っている。何度も会ったことがある。前に会った時もいきなりだったが今回もいきなりだった。


「も~~~! 何ですかアウラ様にアスラ様! 私今食事を楽しんでたんですよー!」

「「美味しいねこれ」」


 無表情のままもぐもぐと口を動かしながら話してくる二人の美少女。彼女達は神だ。風の神アウラと土の神アスラ。食事をしていた女性をこの世界に転生させた神々である。


「それ私のお肉ぅ~………まだあるからいいや。それでどうされたんです?」

「次の子転生させた」

「よろしく」

「何を!? 何をですか!? もっと詳しく話してくださいよ!」

「「面倒臭い」」

「………新しい子来るのはわかったんですけど。せめてどこに来るかだけでも教えてくれません?」


 あまりにも情報が少ないので何とかして引き出さないといけない。その子見つけて育てればいいのかなぁ? 私も結構長生きしてるしその子長生きできるようにかなぁ。


「「それで合ってる」」

「………場所は?」

「「ここ」」


 すると空中に地図のようなものが浮き出して二柱が指をさした。


「「ここ」」

「えーっとこれどこかなー……サンドリアスだよね…街の位置からして……ここが王都だから……わーちかーい」


 いろいろと表示された地図の街や地形を把握して場所を特定すると、今住んでいる場所から1日もあれば行ける場所を指さしていた。その場所は農業が盛んな村があったはずだ。


「場所はわかりましたよ~。それでどんな子なんです?」

「「黒髪エルフ。名前はアキト」」

「珍しくわかりやすくていいですねー」

「じゃあよろしく」

「私たち寝る」

「は~いおやすみなさ~い」


 二柱は急に消えていなくなった。

 いつものことながら急に来て急に帰る。わかりましたよ~私が面倒見ればいいんでしょ~。


「はぁ~………10年くらい後でいいかな。そのくらいなら記憶もあるだろうし…ていうかどうすればいいんだろ………とりあえず痩せるかぁ」


 女性は自分の腹の脂肪を掴みながら呟いた。


「まだいいかぁ!」


 ダイエットを後回しにしてワインをがぶ飲みするのだった。

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