夏の日に閉じ込められて。
ななし
夏の日に閉じ込められて
「今日地球最後の日らしいぜ」
「なにお前そんなの信じてんの?だっさ」
「有名な占い師のなんとかさんが言ってたんだって。信じない奴はいいよ、勝手に死んどけ!」
小学生くらいの男の子が家の前を、話しながら走り抜ける。
「もう聞き飽きたよ、それ。信じたらいいのに。」
と、誰にも聞こえないように私は呟いた。
「明日は始業式ね。学校、行きたくないなら行かなくってもいいと思うの。お母さん、別に学校に行くことが正義じゃないと思うわ。」
そんな言葉を口にして家を出て行った母が、本当は私に学校に行って欲しいと思っていることは痛いほどに理解している。それでも私は今日寝て、起きても学校には行けないだろう。
もしも学校に行けることになったら、と壁にかけてある制服のブレザーが、私が学校に行っていない月日の長さを物語っている。しまってしまいたいが、そんなことをして、もう学校に行く気はないのだと思わせてしまうのも面倒だからそのままにしている。
学校に行けなくなった理由は特にない。なんとなーく行きたくなくなって、なんとなーく休んでて気づいたらこの有様だ。
母を見送ってからまた眠りにつき、昼頃に起きて、母の用意した朝ごはんだか昼ごはんだかわからない食事をとって、日の当たらない部屋で過ごして、少しすると母は帰ってくる。
学校にいた頃は1日1日の密度が濃く、忙しかった。それ故にこの生活に慣れてから、1日は何もしない方があっという間に過ぎていくことを学んだ。
それでも夏休み最終日の今日はいやに長い。時間が経つのが遅く、余計なことを考えてしまう。
母が帰ってきて無言で夕食を食べる。小さな机に2人で向き合って夜ご飯なんて気まずくて堪らないのだからやめて仕舞えばいいのに、私と母は必ず夕食を共にする。
「明日、学校は行けそう?」
母が突然口を開く。
「まぁ、明日の朝になったら考えるよ。」
私は突然の母の言葉にゆっくりと答え
「明日に、なったらね。」
と、付け足す。
「そうね、あなたのペースでいいんだから…」
母が早口でそう言い終える前に
「ごちそうさま」
と母の言葉を遮って私は小さな机から離れて部屋に戻る。
部屋に入れば母は入ってこない。
明日が来たら学校に行くかもしれないのだから、と私はいつもより早く布団に入って眠りについた。
そして
案の定、始業式の日は来ない
昨日と同じことを口にして家を出た母を見て、二度寝して、起きて食事を取っているうちに男の子たちの会話を聞く。やはり今日は地球最後の日なのだろうか。母の帰宅を待っている間、怠けて学校に行かない私に対する神様のちょっとした悪戯なのだろうか、これはもしかしたら長い悪夢なのだろうか、と私が何者でどうしてこうなったかを永遠と考えるが答えはもちろん思いつかない。
母が帰宅し夕食をとって、明日が来たら学校に行くかもしれないと伝えれば、長い1日が終わって眠りにつくことができる。
そして、起きるとまた長い1日が始まる。
私はこの夏に閉じ込められたまま、出口を見つけることができない。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ちょっと!仕事はしっかりしなくちゃダメでしょう?」
「げぇ、ママだ。」
「何よその言い方。それより、この子、あなたの担当の子よ。わかってるの?この子の駒だけ進めてないじゃない。周りはしっかり進めてるのに、どういうつもり?」
「もー、ママはほんとにうるさいな。1人だけ日付の駒を進めなかったらどうなるか実験してるだけだよ。1人だけだし、下界にはたくさん人間がいるだろ?1人分の駒くらい動かさなくても平気だよ、多分。それに、今下界では長期休暇が与えられてる時期なんだ。休みが伸びたら誰だって喜ぶよ。」
「仕方ないわね、じゃあその子だけって約束してちょうだい。これ以上下界の生き物に迷惑をかけたらだめよ?まったく、あなたの実験とやらに付き合わされる下界の子が哀れだわ。きっと、1人で何日もずっと同じ日を繰り返しているのよ、可哀想に…」
夏の日に閉じ込められて。 ななし @mana0914
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