Labyrinth ~ side Onda ~

1.きっかけ

最初のきっかけは確か、高校生の時。

いつもツルんでいたグループで、俺だけが誘われないイベントや旅行があることに気付いた時だった。


「俺ら、友達やんなぁ?」

「せやなぁ・・・・」


そいつは俺の問いに、こう答えた。


「お前、金持っとるしな」


多分そいつは、まだイイ奴だったんだと、今なら思う。正直に、答えてくれたのだから。


「お前、なに考えとるかようわからん時あるし、正直時々、怖なんねん。せやけど、お前とおたったら、ええこともぎょうさんあるし。多分みんなも、同じなんちゃうかな」


それでも、まだ高校生の俺には、十分すぎるくらいにショックな言葉で。

それ以来俺は、他人と深い関係を築くことが、怖くなった。

単純に、人をそう簡単には信用できなくなった、とも言えるだろう。


決定的だったのは、親父の会社に就職した数年後。

当時の彼女にプロポーズした時だった。


「ごめん。私、そんなんじゃないから」


彼女は驚きながらも、即答だった。


「えっ・・・・なんで?」


彼女との関係が至極円満だと思っていた俺は、断られる想定は全くしていなかった。

そんな俺に、彼女は言った。


「稔は、さ。癒し、なんだよね。避難場所、って言うか。すごく優しいし、何でもしてくれる。稔は、何でもできるものを、持ってるから。でも、結婚とか、そーゆーのとは、違うの」


ショックだった。

彼女にそんな風に思われていたことが。

でも。


「きっと稔は、そーゆー人なんじゃないかな。その場だけ、一緒にいる間だけ、相手が求めるものを全力で与える。それで、相手の満足感で、稔自身も満たされる。・・・・違う?だって、ほんとは私の事だって、全然知らないでしょ。稔と一緒じゃない時の私に、興味なんか、あった?私、別に彼氏いるんだよ。知らなかったでしょ?」


彼女の言葉を聞きながら、俺は心がどんどん凍り付いていくような気がしていた。

凍り付く、とはまた違うかもしれない。

冷え冷えとした心が、どんどん硬い甲羅で覆われていくような。

傷ついた心が、砕け散ってしまわないように。

これ以上、傷つくことのないように。


人との深い関わりを避けるようになっていた俺は、彼女に対しても、気づかない内に壁を作ってしまっていたんだろう。

確かに彼女の言うとおり、俺といる時以外の彼女の事を、俺は敢えて知ろうとはしなかった。

興味が無かったからじゃない。

自由奔放が魅力の彼女に、束縛と取られて、離れられるのが怖かったから。

いや。

知る事自体が、怖かったのかもしれない。


本当に、彼女のことが好きだったから。


「ごめんね、稔。今までありがと。さよなら」


その言葉を最後に、彼女は俺の前から去っていった。

そして俺は。

それ以来、特定の人間に特別な感情を持つ事を徹底的に避け、ライトな関係のみを楽しむようになったのだった。

男も女も、関係しに。

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