6.望んだ温もり

意識を無くし、横たわる奴の顔をじっと見つめる。


『俺でええなら、いつでもお付き合いしまっせ』


温かみを感じさせる笑顔でそう奴に言われて、俺の中で何かが弾けた。

気づいたら、体が動いていて。

奴が足下に崩れ落ちていた。

ベッドの上に投げ出された奴の手に、体中が騒ぎ出すのを感じる。

この手が。

俺が心の底から求めていた物を、与えたのだ。

俺はずっと、愛されたかった。

あの人に-光石さんに。

ずっと、恋い焦がれていた。狂おしいほどに、求めていた。

でも、俺が求めているものは、決して手に入る事はない。

この先、どれほど想い続けても。どれほど待ち続けても。

あの人の幸せを願うなら、俺のこの想いは邪魔な物でしかなく、だからこそ、押しとどめておくしか無かった。

想いだけでなく、淫らなこの欲望も。

愛されたい。

あの人の愛を、全身で感じたい。

だが。

ようやくの思いで押し込めていたこの想いを、奴の手が解き放ってしまったのだ。

あの夜。

不覚にも、奴と差しで飲んで酔い潰れたあの夜に。


(お前が悪いんだぜ。恨むなら、自分を恨めよ)


微かな身じろぎの後、奴がうっすらと目を開けた。


「やっと気づいたか。あれでも、手加減はしたつもりだったんだがな」

「・・・・な、なん、で・・・・?」


いきなり殴られた事に動転しているのか、両手の自由を奪われている事に動揺しているのか。

震える声で、奴は俺に問いかける。


「何の冗談や?」

「冗談?俺は本気だぜ?」


じりじりと後ずさる奴を追いかけ、ベッド際に追いつめる。


「本気て・・・・せやかて、あんたほんまは」

「知りたいんだ」


その先を言わせまいと、被せるように言葉を放つ。

実際、俺も真剣だった。

どうしても、欲しかった。

あの夜の、温もりが。


「知りたいんだ。俺も、愛される事ができるのか。男として、愛を受けられるだけの魅力が、この俺にもあるのか。なぁ、恩田、教えてくれ。こんな事を頼めるのは、お前しかいない。・・・・だいたい、お前が悪いんだぜ?この俺の寝込みを襲おうとしたりするんだからな」

「いや、それは・・・・んっ」


言葉を挟む隙を与えず、キスで奴の唇を塞ぐ。

行き場のない想いを、全身で奴に全て、ぶつけるように。

最初こそ拒んでいた奴だったが、力を抜くのにそう時間はかからなかった。

唇を離し、奴の様子を窺おうと見下ろした俺に、奴は微笑みかけながら口を開く。


「一之瀬さん・・・・手、解いてもらえます?」


(恩田・・・・?)


もはや、奴が拒否するとは思えなかった。

それでも躊躇っている俺に、奴は言った。


「そやないと、十分にあんたの魅力、味わえなくなってしまいますやん」


(恩田・・・・)


言われるままに、奴の手の自由を奪っている紐を解く。


「くぅ・・・・さすがに痺れてしもたわ。こっちの方は、手加減してくれへんかったんやなぁ」


苦笑混じりに両手首を振る恩田。


「すまない。だが・・・・っ!」


不意に、俺を包み込む奴の胸。


「まぁ、ええわ。この借りは、きっちり体で返してもらいますよって」

「おん・・・・んっ・・・・」


言い返そうと顔を上げて見上げると、口を開く間も無く、奴の唇に塞がれて。

俺は瞳を閉じて、奴の熱に全てを委ねた。

奴の温もりに、優しさに。

奴の与える愛情の波に。

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