3-15 Ginevra de' Benci
「───悪いニュースと、悪いニュースがある。どちらから聞きたい?」
「じゃあ、悪いニュースから聞こうかな」
レーサー控室。
各陣営のコンテナハウスの中央に、次にバトンを受けるレーサーが待機するコンテナがもう一つ設けられている。
内部は絨毯式の質素なワンルームで、1.5人掛けのソファーが二つと、ジジの配信を垂れ流す27インチのモニターが1台。
アンカーが走っている今、このレーサー控室は医務室へと役割を変えた。
片方のソファーには、血の滲むガーゼを咥えたまま仰向けに寝そべるマキシマ。
そしてもう片方のソファーには、1.5人掛けでも狭そうなほどの巨体をねじ込む、アレク。
マキシマは額に冷えたタオルを乗せており、モニターもアレクのことも見ていない。
彼の耳が全てを掴み、そして思考を口から垂れ流している。
いまだ頭の回るような状況ではない。
「出血が酷いらしい。特に口内」
「知ってる」
「あばらは無事だとよ」
「それならむしろ良いニュースだったね。もう一つの悪いニュースは?」
「君のインプレッサは、もう終いだ」
「……そうかい」
アレクはモニターから伸びるマウスを操作し、配信画面のウィンドウを左側へ。
新規でもう一窓ブラウザを開き、右側に寄せ、今度はヒューガの配信を開いた。
ジジの配信の音を消し、部屋にはあの金髪の女がコメントを読み上げる声だけが流れる。
ジジの配信では2台ともコーナーセクションに入っており、双方が恐ろしいほどのスピードで複合コーナーを次々とクリアしていく。
対照的に、ヒューガのコメントの読み上げは穏やかな口調だ。
だだしインカメラの端に映る彼女の手元はジジの実況画面のムルシエラゴの動きと完全にリンクしており、まるで口と手で人格が分かれているかのようにも見えた。
「マキシマ、お前がここに運ばれた後すぐにオレがインプレッサを診たんだ。あの状況でエンジンが生きてたのは奇跡的だった。だがフレームが死んでた」
「どれくらい歪んでたんだい?」
「折れたよ、ジャッキアップしたら」
「…………」
「……オレが着地時にヴィリスを轢いたのは事故だった。許せとは言わない。ただ」
「ただ?」
「あの事故ががなくても、オレが勝っていた」
「君を潰す理由が増えたってことだね」
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