3-14 Ginevra de' Benci
エクステンドはおよそ5秒。
前を走ることになるが、レオは誰よりもヒューガの走り方が気がかりだった。
そもそも、先週のレースがマグレだった可能性もある。
それかあのコースだけやたらと走り込んだりとか。
なんにせよ、ストリートレースに颯爽と現れて初出走で王者のレオをも圧倒したのだ。
あれが夢だったのか現実なのかを、レオは確かめなければならない。
F40のダッシュボードに後付けされた7インチの液晶端末に向かって、レオは話しかけた。
「やあセナ」
《はい》
「ジジの配信を見せろ」
《かしこまりました。@GiGiさんの配信を表示します》
液晶画面が切り替わる。
テロップ、「レース・オブ・セキガハラ-ラストレース」。
配信者名、「GiGi@ストリートレース主宰」。
実際に配信を行なっているのはジジではなく、バックステージの配信スタジオだ。
コース各所に配置されたカメラと、マシンを後追いするドローンの映像、そしてそれらを横切りながら流れるコメントが、ピクチャーインピクチャーで多角的な配信画面を成している。
音声もおそらくミキサーを雇っているのだろう。
エンジン音にパーチェ広場の歓声、ジジの実況が非常にバランス良く聞こえる。
《さぁ、もうすぐカマロの帰還だ! キングのフェラーリが走り出すぜ!》
首を鳴らす。
いつも通りだ、いつも通りでいい。
あとは画面の端に映る自分の車、ではない。
クソ女のムルシエラゴを観察しつつ、いつも通り走ればいい。
マグレだ、あのレースはマグレに決まっている。
今からそれを、完膚なきまでに証明する。
クラッチを踏みギアをファーストに入れ、レオはF40のアクセルを煽った。
来い、デレク。
《F40、ゴーーーーッ!!!!!!》
背後のカマロがリレーゾーンに入ると同時に、F40のクラッチを繋ぐ。
咆哮を上げ、コースに飛び出す。
スタートは悪くない。
レオは再びジジの配信に目を向けた。
……違和感。
配信映像ではない。
同時接続閲覧人数。
これが最終レースだというのに、先程のヴィリスの襲撃時よりも減っている。
いいや、違う。
回復していない、という表現のほうが正しいだろうか。
《エクステンドは4秒に縮まった。ムルシエラゴもすぐにスタートするぜ! ヒューガちゃんはいつまで配信してんだ!?》
(は……!?)
緩い右のオーバルコーナーをクリアしながら、レオは舌打ちした。
苛立った。
あのクソ女、まさか配信しながらレースするつもりか。
《ムルシエラゴ、ゴーーーーッ!!!!》
閲覧数の少なさは、あの女が同時配信しているために視聴者が行き来しているからだ。
画面内のムルシエラゴが走り出したが、それでも数は伸び悩んでいる。
レオは再び画面に話しかける。
「やぁセナ! クソ女の配信を二窓しろ!」
《かしこまりました。@GiGiさんの配信と、@Hyugaさんの配信をマルチウィンドウで表示します───》
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