3-2 Ginevra de' Benci



昨晩ジジがクロノストレージで告知した通りの順でレーサー達が並び立っている。


レオの側は、一番手前にレオ、その次にアレク、そしてその後ろにはポイントのランキングが高い順に、順位が奇数の者、8名。


ヒューガの側は、一番手前にヒューガ、その次にマキシマ、その後ろにはランキング順位が偶数の者、8名。


ヒューガはいまだポイント圏外だが、援軍というゲストポジションならば自然だ。



《コースはこのセンピオーネ公園の外周を、1人2周ずつ全20周のリレー方式だ。勝った側のチームには全員20のランキングポイントが与えられる》



ストリートレースの世界において、ランキングはいわば社会階級。


ランキングが高ければ高いほど多くのガソリンを得られるため、レーサーにとってランキングは死活問題なのだ。


特に下位の者はガソリンが尽きることでストリートレースからのドロップアウトを余儀なくされる。


ジジの言い放った20ポイントに目を爛々を光らせるのは、奥に並ぶ下位のレーサー達。



《現在最もポイント差のあるレオとマキシマでさえも18ポイント差。もしもトクガワ軍が勝てば、一晩でランキングが丸ごとひっくり返るぜ!!》



大歓声が上がる。


レオは舌打ちした。


今晩の観衆の注目を最も集めているのはレオだ。


先週のレースで喫した初敗北。


もしも先週のレースが繰り返されたなら、今度こそ万年独走状態だったレオが首位から陥落する。


観衆はその瞬間を見に来たのだ。


そして相対する《トクガワ軍》とかいう訳の分からない括り方をされた軍勢の最前列にいるマキシマとヒューガは、その瞬間を創り出すために参戦した。


ワイルドウイング筆頭の、あのチビ女。


あのチビ女は、どこまで俺を貶めれば気が済むのだろう。



「レオさん」


「あ?」


「睨む顔も素敵ですね」



ヒューガはステージ上でレオに話しかけるが、マイクを通しておらぬ故に観衆には何を話しているか聞き取れない。


青筋が浮くほどに殺気立ったレオとは対照的に、ヒューガは普段の雑談配信と全く変わらぬ穏やかな表情だ。


2人の間合いは約1メートル。


レオが掴みかかろうと思えば一瞬で詰められる間合いだが、ヒューガは一抹の恐れをも見せない。



「頑張りましょうね、今夜も」


「うるせえよ。テメエを潰す日だって前に言っただろうが」


「確かに。では私も、頑張って潰しますね」


「ああ。やれるならやってみなクソ女」



この女の思考が分からなかった。


そんなものはマイクを通して言ったほうが観衆にウケることくらい、トップインフルエンサーの彼女なら容易に分かるはずだ。


ステージ上での雑談など時間の無駄。


さらに相手はいつにも増して不機嫌なレオ。


それでも好意的に話しかけられる理由が分からない。


自分なら、自分のような友達など絶対に欲しくはない。


この女が何を考えているのか、全く分からない。



《ランキング下位から順にスタートしていく。レースはオーロラビジョンで中継すっから、お前らはステージ前で待機だ! レーサーはチーム別の控室へ。10分後にまた会おうぜ!》



ジジのアナウンスでオープニングが締められる。


レオは舌打ちを一つ挟み、デレクら奇数位のレーサーと共にステージを降りた。


レオは振り返らない。


だからヒューガが同じようにステージを降りる際、一度レオを振り返ったことに、気付くわけもなかった───。



 

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