3-1 Ginevra de' Benci
「───西暦1600年、ジパングの中心で風に靡く旗が一振り。その旗にはオールフォーワン、ワンフォーオールが掲げられていた」
暗いステージの下手では、「大一大万大吉」と染め刻まれた垂れ旗が登る。
観衆の中にそのジパング語を理解できる者はいない。
何かが始まった、それが伝わりさえすればそれでいい。
ジジのその語りが始まった瞬間にストリートレースの雑踏は駆逐され、静寂の中でその旗だけがスポットライトを浴びている。
「彼の名はイシダ、ジパングを治める大統領。その大統領に反旗を翻す軍勢が、ジパングの各地で兵を挙げた。彼らの総大将の名は、トクガワ」
大一大万大吉の旗に向かい合うようにして、上手に次々と並び立ついくつもの垂れ旗。
カモン、とかいったか、あのモノクロの模様は。
葵、蛇の目、沢瀉、九曜、下り藤、梅鉢。
そしてそれに呼応するようにして、下手にも旗が上がっていく。
向かい蝶、三つ柏、三つ巴、六文銭、三つ星、丸十、桐。
観衆は緊迫感を覚えた。
その旗の下、暗闇の中にかすかに見える人影たちが、並々ならぬ殺気を放っていたからだ。
「そして、わずかに兵力が劣り尻込み続けるトクガワに援軍が現れる。奥州から降り注ぐ赤い電撃、ダテ・マサムネ!」
仙台笹。
ステージのど真ん中でその家紋が上ると同時に、旗を持つ女がスポットライトを浴びる。
背の高い金髪の女。
胸元で稲妻のネックレスが輝く、欧州最強のインフルエンサー。
ヒューガ・エストラーダ。
彼女はライトとともに大歓声をも浴びながら、仙台笹の旗を担いで上手へと悠々と歩く。
ステージ全体が明るくなった。
ステージ上手、ヒューガを先頭に横並びで踵を揃えるのは、十人のレーサー。
ステージ下手、同じく十人のレーサー。
下手の戦闘で大一大万大吉の旗を持つのは、ストリートレースの王、レオ。
これだけの数の、しかもトップランカーのレーサー達が一斉にステージ上に並ぶのは前代未聞だった。
さらにはレースを知らぬ者でも知るヒューガまでもがそこに立っている。
会場だけでなく、ネット中継のコメント欄のボルテージも、最高潮に達した。
「ダテの参戦宣言で、その法螺貝は咆哮した。題してバトル・オブ・セキガハラ。ジパング史最大のクーデター戦争が、今夜このメディオで再び開戦するぜ!!!!」
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