2-6.Madonna of the Carnation



《───やあ。聞こえているであるか?》


「やあ。聞こえてるぜ」



相変わらず、その通話相手のやたらと高い声には慣れない。


独特なその語尾から察するに、昼に話した者と同一人物だろう。


レオはそう答えながらヘッドセットを耳に押し込んだ。


世界が死んで法もモラルも死んでからも、彼は頑なに車内でのスマートフォンの使用を控えている。



《念のため確認するが、今はF40の車内であるな?》


「勿論。場所もテメエの言った通りの座標に来てる」


《それは確認済みである。F40の底面にGPSを付けているである》


「は? それなら車の確認もいらなかっただろ」


《貴様が程良い馬鹿であるかの確認であるよ》




メディオが活気付くのは週末のストリートレースだけ。


それは単なる通説であって、こうしてわざわざ平日の夜に出歩いて体感までするのは馬鹿か、またはワイルドウイングの開拓部門の勇者のみだ。


レオは前者ではなく、後者の自負を持つ。


なぜなら彼がいるのは、ガイアゲートの前だからだ。


膨張した強化スチロールを掘り抜き、ビルの廃材の鉄骨で枠を作り、同じ鉄骨で作った骨に鉄板をビス留めして扉とした、頑丈過ぎて無骨過ぎる巨大な門。


だが施錠機構は複雑らしく、「WW」の紋章が入った純白のボックスが門の心臓部として中央部に取り付けられ、白く眩いLEDが呼吸するように明暗を繰り返している。



「ガイア・ゲート……実物を見るのは初めてだ」


《そうなのであるあか? 貴様ほどのインフルエンサーであれば一度は来たことがあると思っていたのであるがな》


「俺はクリーンなレーサーなのさ」


《相対的に見れば、であろう?》



街灯も機能しない今は暗闇に包まれ、人も寄り付かない、それでいてガイアの中で最も危険な場所。


ガイアが確立されて間もなくはレア・ド・ライブの過激系ライバーがこのゲートに近付くという企画はもはや定番だった。


しかしその度にワイルドウイングからの制裁が過剰なまでに入り込み、今ではそれも終わりを迎えたコンテンツだ。


来るべくして来るタイミングにようやくここに来れたと、現在になってようやくメディオでのインフルエンサーの地位を得たレオは思っていた。



 

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