第2話 覚悟はいいか
久しぶりの親子丼は堪らなく美味しかったわね。奈良では食べてたけどね、ふふ。お、突然、慧仁が話し出したぞ。
「ちょっと皆に聞いて欲しい。これから姉様と今後について打ち合わせをするんだけど、俺も姉様も天照大御神様に天啓を賜っているよね。天啓の中には知らない方が良かったって思う様な天啓も含まれているんだ。俺も姉様も、そんな天啓は2人が背負えば良いと思っているんだけど。……だから、2人だけで打ち合わせをするんだ。それは決して皆を信じてないからって訳じゃ無い事を分かっていて欲しい」
うんうん、後で尚子達に話そうとしてた通りだ。
さて、
「ではっと、私と慧仁は離れで話しをして来るから、皆は各々、休んでいて。慧仁行くよ。キヨはお茶をお願いね」
部屋に着くと同時くらいに、お茶を持ったキヨが入って来て、お茶をお盆ごと置いて出て行く。お腹が一杯、ゴロゴロした〜い。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。
「直座りの生活って疲れない?椅子とテーブルが欲しいわよね。あんたもゴロゴロしなさいよ、誰も見てないんだから」
「良いですね」
私だけゴロゴロしてたら、姉の威厳台無しよね。苺食らわば皿までよ。
「じゃあ、ゴロゴロしながら、まずは慧仁のゴールを教えて。最終的にどうなって欲しいの?」
慧仁は、今後の落とし所と言うか、未来像を語った。
「ふふ、私が予々考えてた落とし所と一緒だ。お互いに平凡だけど、先人の知恵は生かさなきゃね。先人で良いのか?うん、明治維新と戦後のGHQの政策を今の時代に落とし込む感じで、徐々にやって行こう。まずは、今の価値観を壊す所からだ。慧仁はあと1・2年我慢して。2歳児の行動範囲は限界が有るから、8歳児に任せて。ふふふふふ」
これこそ、姉の威厳なのだ!
「動ける私が東日本をどうにかしなきゃだわね」
「そうして貰えると助かるよ。西日本は俺の口先でどうにか出来そうだし」
「そうなると、まず必要なのは……秘密基地よ!秘密基地を作らねば!」
起き上がり、口を噤み、空を見上げ、拳を握る私。
「姉様~!」
と腰に抱きつく慧仁。おい、何だ、ノリ良いな。ふふ。
「お茶の交換に参りました」
スーッと襖を開ける尚子は、そんな私達の姿を見て破顔する。
「あら、可愛い、ふふふふ」
お茶を交換して、何事も無かった様に出て行く尚子。絶対に裏で噂するぞ、あれ。
「慧仁、どこが良いかしら。秘密基地に相応しい所って何処かある?」
私は再びゴロゴロしながら、慧仁に聞いてみる。
「そうだね、秘密は別として、堺をベース基地にすると、俺も動きやすいかな」
慧仁も上向きに寝転がって、足をバタバタさせながら答えた。
「堺なら大名達を呼び寄せるのに便利で申し分ないしね」
「堺ね。そうなると日本海側は後回しになるね」
「貨幣の発行を考えると、佐渡の銀が欲しい所なんだよね。あと、北陸の一向宗、特に下間をどうにかしたい」
「分かるわ~、下間。下間と蓮如のバカ一族の所為で、どれだけの人々が亡くなったと思ってるんだか。今のうちに絶対に潰して置きたいよね」
「俺もそう思っての先日の陛下の宣下なんだけどね」
「ああ、あれはナイスだったね」
グッジョブ。
「じゃあ、ひとまず、慧仁は堺に秘密基地をお願いね。私はひと仕事してから、堺に向かうから」
「分かった、堺は任せて」
〜・〜
尚子、キヨ、ユキ、ユリ、カエデ、フブキ、セト。私を育ててくれたメンバー。心の底から信頼しているメンバーだ。そして、作兵衛にも来て貰った。
「まず、次の手について説明します。良いわね。先ずは作兵衛、明日、志能備を30人用意できますか?」
「仰せのままに」
「ありがとう。当てにしてますよ」
「勿体ないお言葉です」
よし、ずっと暖めていた作戦が遂に決行出来るね。
「では、作戦の概要及び各自への詳細な指示を出します……」
〜・〜
さて、早めに大原を出発しようかしらね。ふふふ、馬上の巫女姿の女8人、格好良いわね。良いでしょ?
「もう、行かれるのですか?」
「疾 きこと風の如くだよ、ハハハ。東に行く前に、宗滴と会って置きたいからね」
「あ〜、分かります、羨ましいな」
「宗滴と話をして、詰まらない爺さんだったら、朝倉は潰すからね、良いかな?潰すって言っても、おいおいだけど」
「報告だけはしてね」
「承知した。じゃあ、私達は越前に向かうね。またね〜」
「またね〜って、姉様!その白いのは?それ、ヤクーだよね、当たり前の様に乗ってるけ・ど・も」
「ヤクー?」
「キョトン、じゃないよ、ヤクーって、姉様が乗ってる、その白い鹿だよ」
「ヤックル?」
「イヤイヤイヤイヤ、2歳児が諸事情を鑑みて、ネーミングし直したんですけど、ヤクーです、ヤクー」
「ふ〜ん、じゃあ、ヤクーで良いよ。ヤクー、行くよ!それじゃ、堺でね」
作兵衛に目をやり、出発の合図をする。志能備30人は影になり警備もしてくれる。暫く行って皆んなに声をかける。
「じゃあ、行くわよ!いざ小浜の武田館。作戦通りにね。作兵衛!先触れ出して」
若狭武田家、若狭の守護職なのかな。昨年後瀬山に立派なお城を築いたと聞く。でも、山の上は不便だからね。城下町に政を執り仕切る館を構えている。私達はその館を目指している。若狭を返して貰いに行くのだ。
「我が名は聖良女王、陛下の名代で来ました。案内を頼みます」
「畏まりました」
評定の間かな?広間に大勢の人が平伏して待っている。私と尚子、キヨが上座へと座る。他の者は広間の外に控える。
「面を上げて下さい」
「本日は拝謁仕り恐悦至極に存じます。私、若狭をお預かりしております、武田元光に御座います」
「ほう、お預かりしておるとな。ここ小浜は禁裏御料所に違いないか?」
「……」
「禁裏御料所に違いないかと聞いています。元光、違いないですね?」
「……違いありません」
「違いないと申しましたね。では御料金が送られて来ていない様ですが、まさか横領している訳ではないですよね。それですと朝敵と見做されても仕方ないのですが、如何ですか?」
「……」
「如何かと聞いてるのですが。返事が無いと言う事は認めたと思って宜しいですか?他の者は如何か?」
「……」
「さて、どうしたものかの」
水を打った様に静まりかえる評定の間。
「では、若狭国を陛下に献上してください。さもなくば若狭武田家は取り潰します。今、この場でどちらか選んで。献上すれば家臣は赦しましょう」
「……献上させて頂きます」
「分かりました。元光他武田縁者は甲斐でも安芸でも行って貰おうかな。同行を希望する者は同行を許します。それでは即刻立ち去って貰おうかしら」
まあ、言い訳しないだけ潔いね。がっくりと肩を落として広間から退く元光と縁者らしき数名。
「他の者は残ってくれると思って良いのかな?」
若狭武田家は仲が良くないのよね。
「はっ、残りの家臣、全て陛下に臣従を誓います」
「うん、では、明後日、午の刻、この館に集まる様に国中の国人領主に触れを出して。そうね、武藤!」
「はっ」
「お前が責任を持って当たって。代理人さえ来ない者は根切りすると伝えて下さい。分かった?さて、他の者はいつも通り仕事して下さい。後は、粟屋!ここに残って」
「はっ」
「以上です」
〜・〜
「その方が粟屋か?」
「はっ、粟屋勝春に御座います。お見知り置きを」
「うん、その勝春に頼みたい事が有るのだけど」
「はっ、ご指示頂ければ、何なりと」
「勝春に、この辺りの漁師を纏めて貰いたいのだけど、如何か」
「承知致しました」
たぶん、毛利水軍の粟屋の縁者だろう。ダメ元だ。水軍作っちゃおう。
「それで勝春は、私の直臣で良いかな?」
「御意」
「じゃあ、信用するから、後瀬山城使って良いから、明日から城代ね」
「え?」
「え?無理かな?」
「ご指示でしたら、承りますが」
「じゃあ、命令です。明日から若狭を仕切って下さい。横領したら凄い事になるからね」
「凄い事ですか?」
「凄い事ですよ。それはもう凄い事です。信用してるからね、ね」
「ハハハ、重々承知致しました」
これで丸投げOKね。次はっと。
「キヨ!作兵衛呼んで」
「こちらに」
「へっ!お、おう」
怖い、忍者怖い。ホントに忍びなのね。
「作兵衛、ちょっと待ってて。尚子、代筆お願い」
尚子に書いて貰った書状を作兵衛に渡して、
「この鉄扇も預けるから、ほら、ここに菊の紋が入ってるからね。この書状を宗滴に。朝倉宗滴に作兵衛が持って行って」
「御意」
宗滴に会えるかも。まあ、来なかったら朝倉潰すけどね。
今回の作戦は、半兵衛の稲葉山城乗っ取り大作戦をパクった積りだったんだけど、似ても似つかなかったよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます