第24話 幸せ者と爆発
帰りは転移魔法でひとっ飛びだ!
このタロン村から、東都行きと西都行きに分かれる。
東都行きのグルキューンと僕たちをまとめて送ってくれるのは、ジェイクの仲間の女魔術師で転移魔法を使えるマーシィだ。
それから彼女はまた魔法でタロン村に戻り、ジェイクと竜の子、僧侶とともに西都へ向かう……という手筈なっている。
そんな話をして、結婚式の前祝いのような会食をお開きにするころ。
ボガァァーーーーン
ものすごい音を聞いて外に出た。
白竜山の中腹から土煙がたちのぼる。たしか残雪が竜の形になるあたりだ。
「財宝が……!」
「ひどい……!」
ジェイクたちは口々に嘆く。
やっぱりあったんだ、隠し場所。
「賊を追わなくては!」
「なんて事! あれだけ強かった魔力反応が一瞬で消えてる! 転移魔法で逃げたのね、あの女……!!」
あの女って誰だ?
転移魔法を得意とし、かつ魔法で大爆発を引き起こすことも出来そうな女性……僕も心当たりがある。マーシィは僕の欲しい情報を持っているかもしれない。
が、今は言うなと直感が告げている。
「悪いけど、先約が優先だ。キミたちには竜の内臓はナシだ。竜の目玉は必ず安く譲るから……」
「マーシィ、深追いするな。西都行きをこれ以上遅らせる訳には……」
「ホルヘ、竜の子の封印に魔力供給を頼んだわよ」
僧侶の名前を覚えた。それにしてもマーシィが興奮して早口になって怖いな。
「任されますが、貴方はどこへ?!」
「東都に決まってるでしょう! 予定どおりの行き先だけど、まったく嫌な用事が増えたわ」
「待って! オレを運んでくれる約束だろ!」
グルキューンは夏場に竜の生首を抱えているのだから、急ぎたくなって当然だ。
それが僕らの分け前にもなる。
「僕たちも!」
「まとめて付いてきなさい。円陣の中に入って」
マーシィが杖を地面に一突きすると、足元に円形の魔法陣が広がる。
僕たちが足を踏み入れると、光と浮遊感に包まれ……着地した。
「熱っ!」
と、地面に手をついたロムさん。
レンガ敷の道で、顔を上げれば穿月塔が眩しい。東都に戻ったのだ。
「ねえ……ラケル様は?」
シンディの顔は夏の日の下と思えないほど青白い。
そういえば見当たらない。
「……帰りは別かも、って言ってたし、北都へどうにかして行けるだろ」
「私が言ってるのはぁ、転送中の事故のおそれです!」
「心配しても仕方ないわ。円陣に収まるのはこの人数で精一杯だと気づいて諦めたんじゃないかしら。あの金髪の……北都の元王子と同じ名前の子……彼ほどの魔法戦士なら、無理な転送の危険性を分かっているはずよ。でなければ冒険者を続ける価値もないし」
たんなる同名ではなく同一人物だという点を除けば、マーシィの言うことは正しい。しかしシンディは明らかに納得していない。
「見たよ。ジェイクがラケル君を引き止めるところ」
グルキューンの言葉に、やっとシンディは安堵のため息をついた。
ラケルにとっても、無理に急ぐより憧れの人と過ごす時間が増えるほうが嬉しいだろう。
「何でよ! あの女、穿月塔にもいないっていうの! せっかく急いだのに」
マーシィは遠魔鏡を見て途方にくれている。僕はローラのことを言うべきではないと確信した。
「でもまあ、今は深追いする場合じゃないわ。グルキューン、幸せになるのよ。また何処かでね」
彼女は気持ちを切り替えて、若い仲間に晴れやかな笑顔を見せた。ジェイクのところへ転送魔法で戻って行く。
「オレはもう行くよ。ここまでありがとう。モロー君、近々また連絡するから。魔人相談所に行けば良いんだね」
グルキューンも歩き出す。
もう夕方だ。いろいろあって疲れた。
ロムさん、シンディ、僕は申し合わせて、上司への報告は翌日にすることにしてそれぞれ帰った。
ロムさん曰く
「クビだと脅せば仕事を早くする奴だと思われては堪りませんからね」
……といっても僕の自宅はグルキューンの訪問先である「きじとら堂」の壁一枚隔てた隣。それも以前は店の倉庫だった場所だ。
ローラの姿を思い浮かべながらベッドに寝転がっている間も、隣の話し声が聞こえるたびに現実に引き戻されるのだった。今のところ求婚者が追い返される気配はない。
上手くいくといいな、エレンたちのために。
そしてもちろん僕の休暇。
ローラ……。
(続く)
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