第94話 【断章】菫色の少女
それは、夏の日差しが近づき、少しずつ暑さが気になるようになってきたころ――
「姫。……そろそろ、時間です」
「あら、もうそんな時間だったかしら。……どうも、マクヴィー夫人が定期的に淹れてくれるお茶がないと、つい時間の経過を失念してしまうわ」
そんな小さなことでも、過去の従者のありがたみを感じてしまう。手元の本に没頭していたミレニアは、視線を上げてサッと軽く身なりを整え、黒衣の護衛兵を伴って応接室へと向かった。
今日は、初めての『面接』だ。カルディアス公爵によって選別された、紅玉宮付きの従者候補の一人と面会する。
「えぇと……確か、私と同じ十四歳の少女なのよね」
「はい。……奴隷番号87番。労働奴隷です」
「思い出したわ。奴隷小屋に来たのは十歳の時。読み書きが出来て、知識が豊富、計算も出来る。性格は生真面目かつ大人しく従順。比較的富裕層の家に従事した経験が多いのよね。奴隷の身でありながら、男爵の家や大きな商家にも派遣されたということは、とても優秀なのか、従順なのか――貴族に気に入られるような何かがあるのか」
脳裏に、先日クルサールが紅玉宮に届けに来た”仕様書”を思い浮かべながらミレニアは考える。
「でも、どれも従事期間が短いのよね。長くても三か月程度……カルディアス公爵は、その辺り何も気にしていないようだったけれど」
「……よく覚えていらっしゃいますね」
ロロがぽつり、と感想をこぼす。
ミレニアがここ数日で目を通した”仕様書”はかなりの量だったはずだ。肖像画があるわけでもなく、ただの文字の羅列でしかないそれを、奴隷番号一つ間違えず、どの情報とも混乱させずに、詳細まで思い浮かべられるのは、さすが神童と呼ばれた頭脳を持つ少女だからだろうか。
「昔からなのよ。全部の書物とは言わないけれど――不思議と、一度目を通しただけで、中身をすぐに記憶できるものが多いの。まるで、ずいぶん昔から知っていた知識のように、ね」
「……はぁ……」
慣れた足取りで応接室への廊下を歩む主の後ろに控えながら、ロロは懐から”仕様書”を取り出す。主と違って、凡人の彼は情報を間違わないように確認しないといけない。
「ちなみに、ロロ。――お前は、どう思う?」
「……どう、とは」
「その候補者よ。”経歴書”の記載が正しいとして、どうしてどれもこれも従事期間が短いのかしら」
ミレニアは、決してそれを”仕様書”とは言わない。彼女の譲れぬ拘りなのだろう。
手元の書類に視線を落として少し考えた後、ロロは静かに考えを述べる。
「……あくまで、予想ですが」
「えぇ」
「十歳で奴隷小屋に来た女の奴隷であれば、よほどの難がない限り、まずは性奴隷として従事させられるはずです。それくらいの年齢の女児を性的対象として希望する特異な連中はいつの時代も一定量存在しますが、供給側は殆ど追いつかない。……女児が親に売られることは、少ないからです」
「……なるほど……?」
少し不愉快そうに、ミレニアは眉をしかめる。
人間が奴隷になる大きな理由はだいたい決まっている。そのうち、もっとも大きな理由は、貧困に耐えかねた口減らしだ。次に多いのが、戦争孤児。その次が、商人やその手下による拐かしだ。
ミレニアと年齢が変わらないのであれば、ギュンターがフェリシアを溺愛して戦争を起こさなくなった後に生まれた少女であるはずだ。その上で、十まで市井で暮らしていたところを、奴隷小屋に来たとあれば、大抵は口減らし目的で売られたのだろう。
だが、それを珍しい、とロロは言った。
帝国において、娼館の経営は届出さえあれば合法だ。そしてロロが言う通り、年齢が何歳であっても、女は富裕層の男たちから、性的対象としての一定の需要がある。
貧困に喘ぐなら、わざわざ奴隷小屋に売らずとも、娼館に売り払えば良い。娼館であれば、金がたまれば買い戻すことも出来る。少なくとも二の腕に生涯消えぬ焼き印を押されて、”口を利く道具”として扱われるようなことはない。子への愛情を捨てきれず、卑しい仕事と蔑まれることはあっても『人間』として扱ってもらえる娼婦に身を窶す方を選ぶ親の方が圧倒的に多いのだ。
故に、貧困を目的として女児が奴隷商人に売られることは、滅多にない。だからこそ、女児が手に入れば商品価値が薄れぬうちに、と、特殊性癖の上流階級相手の見世物を担当する性奴隷として働かせるのだ。
「ですが、この紙には、性奴隷に従事したことを匂わせるような記載は一切ない。――不気味なまでに、不自然に、ひと欠片も」
「……そうね」
「意図的に、商人が隠したと思われます。……そのあたりに、何か要因があるのでは」
「ふぅん……貴重な意見をありがとう。参考にするわ」
十歳前後の女児はまずは性奴隷として扱われるのが普通である、などという慣習は、ロロがいなければ予想もしなかっただろう。
素直に感謝の意を示して、ミレニアは辿り着いた応接室の扉を開ける。
「ぁ――……」
中には、既に一人の少女が腰掛けることもなく呆然と立ちすくむようにして待っていた。
身に纏っているのは、襤褸といって差し支えないほどの心許ない布切れのワンピース。そこから覗く四肢は、がりがりに痩せ細っていて、健康的とはお世辞にも言い難い。嵌っている枷は、女性用か子供用なのか、ロロやディオに付けられていたものよりも小ぶりだが、少女の手足が細すぎて、鍵など無くてもすっぽり抜けてしまうのではないか、と思えるほどだ。
「……お前が、紅玉宮に仕えるようにと言われた者かしら」
こんなにも痛ましい姿の少女を番号で呼びたくない。
ミレニアは、切なく眉根を寄せて、呻くようにポツリと尋ねた。
「ぁ……は、はぃ……」
少女は健康的とは程遠い蒼白な顔で、ぼろきれのようなワンピースの裾を軽く摘まむ。ジャラ……と硬質的で耳障りな音が響いた。
「は……87番、です……」
それは、帝国式の貴婦人の礼だった。カタカタと震え、消え入りそうな声で、少女は重たそうな鉄の枷を嵌めたまま、皇女への敬意を示した。
じっと何かを考えるように黙っていたミレニアは、ゆっくりと少女が待つ部屋の中央へと歩き出す。
近づいてきたミレニアの気配に、ビクッと頭を下げたままの少女が肩を揺らした。
「とりあえず、頭を上げなさい。貴女の話をゆっくり聞かせて」
本当は、今すぐにも彼女の枷を外してやりたい。
仕様書が入っていた封筒に、鍵が入っていたのだ。つまり彼女は、少なくとも仕様書が送付されてからの数日、枷を一度も外していないと言うことになる。
(でも……一応、万が一を考えないと)
奴隷が反抗的ではない保証はない。枷を外した瞬間、ミレニアに危害を加えて逃走を図ろうとする可能性もある。
勿論、ミレニアに危害が加わることなど、ロロがすぐ後ろに控えているこの状況で、あるはずがない。だが、ミレニアに危害を加えようとした瞬間、ロロは目の前の痩せ細った奴隷を表情一つ変えずに葬り去るだろう。
それがわかっているから、少女の悲惨な現状を目にしてもぐっと耐える。
(枷を外すのは、話を聞いて、紅玉宮に迎え入れる人材に相応しいと判断してから……)
痛ましい姿の少女を前に、手を伸ばすことが出来ないもどかしさに歯噛みしていると――
「っ……」
「……?」
頭を下げている少女の様子がおかしいことに気が付き、疑問符を上げる。
ミレニアが部屋に入ってきた時から、ずっと小さく震えているのは、視界に入ったら極刑も当然と言われる皇族を前にしているせいだと思っていた。
しかし今、少女は、カタカタ、などという可愛い震え方を通り越し、文字通りガタガタと身体全体を震わせ、必死に息を詰めていた。
「ちょっと……?お前、どうし――」
「ヒッ――!」
近づいて顔を覗き込もうとすると、ガバッと顔を上げて、真っ青な顔で悲鳴を上げる。
印象的な菫色の瞳が、大きく見開かれていた。
「ぁ……ぁあ……ぁぁぁ……」
「落ち着いて。お前を酷い目に遭わせようなんて思っていないわ」
「ひっ……ひぅ……」
ガタガタと歯の根が合わない口からは、意味のある言葉は紡がれない。
とにかく落ち着かせようと、なるべく柔らかな表情を浮かべて手を伸ばすと、すぃっと黒いマントに身体ごと遮られた。
「姫、お下がりください。様子が変です。薬でもやっているのかもしれません」
「ロロ……」
いくら何でも、そんなことは――と、言おうとして。
「っ――ぃゃあああああああああああああ!!!!」
「「――!?」」
少女は金切り声を上げて、頭を抱えてその場に泣きながら崩れ落ちる。ジャラッ……と不快な音が鼓膜を揺らした。
「来ないで――来ないで――!」
「貴様、何を――」
「嫌っ……いやぁあああっ!!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!許してっ……許して許して許してっ!!!」
まるで小さな子供のように、床に蹲って頭を抱え、震えながらみっともなく泣き叫ぶ少女を前に、思わずミレニアもロロも面食らう。
(もしかして、これが原因……?人に近寄られるのが駄目、ということ……?)
確かに、これでは労働奴隷として長く勤めることは出来ないだろう。人が近づくだけで泣き叫ぶ少女など、すぐさま返品対象だ。
(でも、待って……?最長で三か月という記録があったはず――いくら何でも、この様子で三か月は無理じゃないかしら)
泣き止まずにうるさく叫ぶ少女を前に、ミレニアはどこか冷静に考える。
きっと、何か、理由があるのだ。
その家では、三か月は耐えられたのだ。三か月経って、耐えられない何かが起きて、こうして泣き叫んでしまったのだろう。
(思い出すのよ、ミレニア。彼女が三か月従事した家は、確かエラルド男爵邸。それ以外の従事先との違いは――)
少女の”仕様書”に書かれていた経歴を思い出しながら、共通項と相違点を考える。
エラルド男爵といえば、確か、先代の当主が無類の女好きだったはずだ。家に、何人もの妻と愛人を囲って暮らしていた。当主の寵愛を得るための女同士の醜い争いが絶えぬ苛烈な環境に、普通の感覚では耐えられず、従者たちがどんどんとやめていくというのは有名な話だった。そして、当主が流行病で倒れてからは、血で血を洗う醜い跡目争いが勃発し、女の園は蠱毒のように苛烈さを増したと聞いている。
鼓膜を突き刺すような叫び声に、しびれを切らしたのだろう。忌々し気にチッと鋭い舌打ちをしたロロが、少女へと手を伸ばす。
「いい加減に――」
「いやぁああああああああっっ!!!」
「待ちなさい、ロロ!」
断末魔と聞き間違えるほどの大絶叫に負けぬよう、ミレニアは必死に叫んでロロを引き留める。
「ロロ、お前、部屋を出て行きなさい」
「な――!?」
「早く!」
「出来ません!」
主の乱心ともいえる指示に、間髪入れず反発する。
今、この紅玉宮でミレニアの身を守れるのはロロしかいない。それを、得体のしれない、薬をやっているとしか思えぬほど錯乱した奴隷と二人きりにして部屋を離れろなど、正気の沙汰とは思えぬ指示だ。
「では、部屋の隅に行きなさい!」
「は――!?」
「絶対にこの子の視界に入らないで!」
「何を――」
「いいから!!!私の命令が聞けないの!!!?」
ミレニアが、ここまでの強権を振りかざすのは初めてだ。ロロは困惑して一瞬未だに泣き叫んでいる少女に一瞥をくれる。
「っ……チッ……!クソが――!」
「ありがとう、ロロ」
これ以上なく大きな舌打ちを残し、素の口調で少女に向かって口汚く悪態をついてから指示に従ったロロに、ほっと安堵のため息を漏らすと、ミレニアは躊躇することなく少女の前にしゃがみこみ、膝をついた。
「落ち着きなさい。――もう、”男”はお前の傍にいないわ」
「ひっ……ふ、ぅぅっ……ぐすっ……」
過呼吸に似た症状を起こしかけている少女を抱きしめるようにして背中をさすり、落ち着かせる。
「大丈夫。大丈夫よ。私は第六皇女ミレニア。お前に危害を加えるつもりはないわ。安心して」
「ぅっ……ぐすっ……も……申し訳、ござ……ま、せ……」
「ゆっくり、息を吸って、吐きなさい。――そう。いい子ね。よく出来ているわよ」
しゃくりあげて不規則になった呼吸をなだめるのを手伝いながら、優しい声で囁く。
「怖かったわね。ここに来るまでも、きっと、怖くて仕方なかったでしょう。……大丈夫よ。ここの主は私なの。お前を権力や暴力で押さえつける者はいないわ」
「み、ミレニア様っ……申し訳ございませんっ……ぁ、私っ……お、お召し物を――」
「いいの。……いいのよ。泣きたいだけ、泣きなさい」
少女を抱き寄せ、背中をさする体勢のせいで、肩口をしとどに濡らしてしまったことに気づいたのだろう。涙にぬれた声で、慌てて身体を離そうとする少女をさらにぐっと抱き寄せ、慈愛に満ちた声で囁く。
(こんな、年端もいかない少女が、こんなになるまで、傷ついて――……)
改めて、奴隷の待遇に胸を痛める。
すぐに気づけたのは、ここに来るまでのロロとの会話だ。
供給側が圧倒的に少ない女児の性奴隷の見世物は、高値で取引されるだろう。商人も、わざわざ労働奴隷にする必要などないはずだ。
にもかかわらず、彼女は労働奴隷として従事した記録がある。何らかの理由があって、性奴隷として見世物小屋に立つことが出来なくなったため、労働奴隷になったのだろう。
最初は顔や体に、酷い傷でもつけられたのかと思ったが、そうではない。涙にくれる少女の顔は、やせ細って顔色は悪いが、確かに綺麗なままだった。
そこで、女ばかりのエラルド男爵の家で三か月従事出来たという話が繋がった。
何ということはない。――少女は、性奴隷として従事させられ、男性恐怖症になってしまったのだろう。
ミレニアが近づいたから泣き叫んだわけではない。その後ろにぴったりと寄り添うようにして近づいてきたロロが怖くて、叫んだのだ。
(十歳で奴隷小屋に入れられた少女が、金に目がくらんだ商人の元で、どんな過激な見世物を強要されたのか――考えるのも、おぞましいわね……)
ぎゅっとまだ少し震えが残る少女を抱きしめ、優しく頭を撫でる。少女の藍色の髪が、滑らかな手触りを返してきた。
「お前は、優秀ね」
「ぇ――?」
「とても綺麗な言葉遣いだわ。それに、礼の仕方も完璧だった。読み書きも計算も出来るのよね?とても素晴らしいことよ。誰かに教わったのかしら。それとも、自分で覚えたの?」
奴隷は教育を受けることなど出来ない。
自分は敵ではない、ということを伝えるように頭を撫でながら、ミレニアは少女の瞳を覗き込むようにして問いかける。菫色が、惑うように揺れた。
「は……母が……亡くなる前に、教えて――くれ、たの……です」
「そう。……いいお母様ね。きっと、お前に似て賢い頭脳と美しい言葉と優雅な所作を持つ、素敵な女性だったのでしょう」
高い教養を施してくれた母親が亡くなった――それだけで、少女が奴隷小屋に入れられることになった経緯が、いくつか透けて見えるようだった。
男児ならともかく、女児を口減らし目的で奴隷小屋に売る家庭は少ない。貧困による口減らしでないなら――他の、理由なのだろう。
後妻に気に入られなかったせいで、厄介払いに売られてしまったのかもしれない。あるいは、母子二人で暮らしてきて、独り路頭に迷っていたところを拐かされたのかもしれない。
どちらにせよ、幼い少女の心を抉るような、哀しい哀しい記憶に違いなかった。
「……はい。……っ、はい――!」
亡き母を褒められ、ぽろぽろぽろっと少女の菫色の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
花弁のようなそれをそっと指で拭って、ミレニアはふわりと笑った。
「――”ヴァイオレット”」
「……ぇ……」
「お前の名前よ。――とても可憐な瞳をしているから。ふふ。素敵な色ね」
藍色の睫毛に縁どられた菫色の瞳を間近で覗き込み、ゆっくりと噛みしめるように伝える。
「ヴァイオレット。――今日からお前は、ヴァイオレットよ」
「ぁ……ぇ、わ、私……?私、の――?」
「そうよ。涙がこぼれる様が、美しい花弁を想わせて、一層美しいわ。泣き顔まで美しいなんて、罪な女ね、ヴァイオレット。――レティ、と呼ぼうかしら」
額を合わせるようにして囁いてから、クスクス、と至近距離から笑みをこぼす。
さっ……とヴァイオレットと名付けられた少女の頬が上気する。
「もう、こんなものは要らないわね」
懐から金の鍵を取り出し、ミレニアはそっと少女の枷へと差し込む。
カチンッ……
小さな音を立てて、鉄の輪が外れた。
不意に軽くなった手足に、一度波が引いたと思った涙が、再びじわじわと菫色の瞳に滲んでくる。
「教養高いお前は、この紅玉宮に相応しいわ。ぜひともここで働いて頂戴」
「よ……よろしい、のですか……?こんな私が――」
「ふふ。私、同い年の女の子と会話をする機会に、昔からあまり恵まれていないの。お茶を淹れてくれる時は、一緒に飲んでくれると嬉しいわ」
「そ、そんな――」
「駄目よ。もう、優秀で奥ゆかしく可憐なお前が気に入ってしまったの。必ず傍に置くわ。これから、私の身の回りのことを手伝って頂戴。一人では、ドレスも着られず困っていたのよ」
「は、はい……っ!勿論……!」
涙を拭ってさっと立ち上がって礼を取る少女に、笑みを返してチラリと部屋の隅へと視線をやる。
律儀に言われた通り視界から外れたところで、気配を消して控えていたロロは、ミレニアの視線に気づいて怪訝な顔をした。
「ねぇ、レティ」
「はい、ミレニア様」
「怖かったら、私の手を握っていいから――あの男を、視界に入れてくれないかしら」
「っ――!」
さぁっとレティの顔色が青ざめる。ひゅ――と喉の奥が変な音を立てた。
ミレニアは苦笑して、そっと軽くなった少女の手を取り、優しく伝える。
「近づけ、なんて無理なことは言わないわ。でも――ごめんなさい。私、あの男を、傍から離すことが出来ないの」
「ぁ……は、い……」
「身の回りの世話をしてくれるなら、どうしてもロロと顔を合わせることが多くなるわ。叫んでもいいし、泣いてもいいけれど――でも、出来れば、たまには少し、視界に入れてあげて」
「っ……」
「大丈夫。あの男ほど人畜無害な男はいないわ。――無防備な寝間着姿で書斎で寝落ちた私を寝台に運んでも、涼しい顔をしているような男よ?全く……これでも昔は、”第二の傾国”と呼ばれていたのに。自信を無くすわ」
「……姫」
クスクス、と軽口を叩くミレニアに、ロロが静かに渋面を作って呻く。
ミレニアはレティを振り返り、女神のような笑みを浮かべた。
「ロロは、私にとって、大切な男なの。同じく大事なお前にも、ゆっくりでいいから、慣れてほしい。……ゆっくりでいいの。無理はしないで」
「は、はい……よ、よろしく……お願いします……!」
ガタガタと震えながらも、今度は叫ぶことなく、レティは頭を下げる。
何やら嬉しそうなミレニアを見て、ロロは小さく嘆息した。
(全く――本当に、奴隷を心酔させるのが得意なお方だ……)
残っている奴隷の面接も、きっとこんな調子なんだろう、とロロは瞳を伏せて想いを馳せた。
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