黒は胃酸に溶けていく

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黒は胃酸に溶けていく

 席替えというのはいつも少し緊張してしまう。一番前の席になってしまわないだろうか、仲が良い子と離れてしまわないだろうか、あまり得意ではない人ばかりに囲まれてしまわないだろうか━━。ただの席替えでほんの一ヶ月の間のことではあるのだが、教室という閉鎖空間において自分の席がどこにあるのかというのは中々に重要なことだった。

 結果として後ろから二番目、窓から数えて三番目という中途半端な位置という悪くないものになった。悪くないだけ別に良い。仲が良い友人も二つ前の席にいるのだし。

 気がかりは後ろの席の人だった。そこにはあまり話したことのない三雲という女子生徒が座っていた。プリントを回すたびに顔を合わせるから、前と後ろの席に誰が座るのかは大事なのである。

 三雲さんの髪型は肩より少し長いくらいの黒髪ストレートで、癖毛の私にとって少し羨ましい。無口というほどでは無いけれど、必要なこと以外はあまり口にしないタイプで何を考えているのかよく分からない。周りの人がどう思っているかは分からないが、私にとっては少しとっつきにくい人だった。

 席替えが終わるとホームルームは早めに切り上げられた。担任がプリントを取ってくるから待っているように言い、生徒は席に着いたままガヤガヤと話し出した。

 私は天井に腕を伸ばし、伸びをする。肩凝り持ちで、子どもの頃からすぐに肩が凝る方だった。六時間目が終わる頃には肩が重くなってしまうから、少しでも伸ばしておかないと頭痛にまで発展してしまう。

 帰る準備をしようと、掛けていた学生カバンをドンと机に置いて宿題に必要な教科書とノートを放り込んでいく。重いものを持つと余計に肩が重くなるから、嫌だなーと思いつつも、無いと家で困るので仕方がない。資料集くらいなら無くてもどうにかなるだろうかと机に戻そうとしたときのことだった。

 不意に肩が軽くなり、無意識に背筋が伸びた感じがした。念入りにマッサージをされたときのような、そして物理的にどこか軽くなったような感覚だ。

 思わず後ろを振り向くと、三雲さんが私の背中からネギか何かを抜くみたいに手を握っていた。その手を口許に持っていき、空虚にしか見えないそれを口に入れる瞬間目が合って。

「え……?」

「あ」

 一口で食べて、数度慌てたように噛んでゴクリと飲み下す。

 何が起きたのか分からない私の口からはただただ間抜けな声が漏れ、三雲さんは「見られてしまった」とでも言うようにどこかバツの悪い顔をしていた。

 明らかに、私から何かを引き抜いて食べた気がする。けれどそれが何かが分からなくて、お互いに目を合わせたまま次の言葉が続かない。

「……どうかした?」

「あっ、いや、……なんでもないです」

 思わず敬語でそう言って、私は前に向き直る。なんでもなくなんて全然無いのに。

 先生はまだ戻ってきそうにない。教室の喧騒は変わらないけれど、私たちの周りだけ、どこか空気が滞っている。

 ゆっくりと私は振り返る。気付いた三雲さんの毛先が揺れる。

「……何か食べた?」

「肩凝りとかある?」

 聞いたことには答えずに、違うことを聞き返す。その顔が、私を心配している顔だったから三雲さんの質問に答えることにした。

「ある」

「しんどい?」

「しんどい、けど今はちょっとまし」

「なら良かった」

 心底安心したような表情で言うものだから、私は少し驚いてしまう。あんまり今まで話したことすら無かったのに、なぜ……? しかしすぐに先生が帰って来たからこれ以上は聞けず、先生がプリントを配り連絡事項を告げて一日の授業が終わった。

 部活に向かう人はそそくさと席を立つ。帰宅部の私もさっさと帰ってしまおうと席を立とうとしたところで、斜め前に座っていた二人の会話が耳に入った。

「ごめん、今日も部活休む」

 一つくくりの女の子は、確か吹奏楽部に入っているはずだ。腕に提げている小さい革のケースには楽器が入っている。

「また? コンクール前なのにまたバイト入れたの?」

 ショートカットの女の子が責めるように言う。吹奏楽部は八月頭にコンクールがあると聞いたことがあった。

「もう一ヶ月きってるんだよ?」

「シフト入れてなかったけど、今日入ってた子が手を切ったからどうしてもって言われて……」

 背後から椅子を引く音がした。三雲さんが髪を靡かせて、二人の間に割って入っていく。

「どうしたの?」

「三雲! ちょっと聞いてよこの子がさぁ」

「仕方ないじゃんか!」

「まぁまぁ。それでどういう訳なの━━?」

 そうして二人を宥めて、諌めていく。

 三雲さんはなんていうか、いつも中立にいる人だった。どちらが悪いとかそういうことは断じない。お互いの話を聞いて、なんとなく丸く収めていく。ずっと不思議な人だと思っていた。誕生日が十月ということを知ったとき、確かに天秤座っぽい性格をしているかもしれないと納得したものだ。

「土日は絶対来るんだよね?」

「絶対行く! 家で自主練もするから!」

 話の片が付いて、一人は音楽室へ、一人はバイト先へと向かった。

 三雲さんは「またねー」と言いながら、去り際に二人の背中から何かを抜いていた。踵を返し、あくびをするふりをして食べる。

「何を食べたの?」

「うわ、まだいた! ……バレた」

「魂……?」

「そんな大層なものじゃないよ」

 気付けば教室には私達二人だけになっていた。三雲さんは私の座る席まで来て、顔を寄せる。彼女の髪が私の頬にかかって、肩に手を添える。

 近い、と身をこわばらせた瞬間に━━背中からずるりとまた何かが引き抜かれた。

「いやいやいやいや何なの気持ち悪いんだけど!?」

「今のも貰っちゃったんだね。難儀な体質」

 離れた三雲さんはそれを口に含み、膨らました頬が喉の動きと同時にしぼんでいく。

「楽になった?」

「なったけどさぁ!」

「肩凝りがかなり酷いでしょう? 気分もいつも学校から帰る頃には何かがあったわけでもないのにすごく落ち込んでいることってない?」

「……ある」

「多分、私は力になれると思うよ」

 妖艶に微笑みながら、自分の席に座った。私は椅子を動かして、彼女の方を向く。

「君は良く言えば器が広いんだ。けど広いからか他者からの影響を受けやすくて、すぐに悪い感情を溜め込んでしまうし、他人からいらない分も引き受けてしまう。良くも悪くも人の気分に左右されることが多いんじゃない?」

「ある、かも」

 喧嘩をしているところに遭遇すると、自分も喧嘩に混ざっているかのようにどんどん肩も頭も重くなっていく。そういう日は家に帰ってゆっくりお風呂に入りすぐに寝てしまわないと次の日にまで引きずってしまう。

 逆に楽しく遊んでいると、心から本当に楽しくなってこんな日がずっと続けばいいのにと有頂天になっていく。

「悪い感情が溜まると肩や背中に積もっていく。それは生き物のように蠢いていて、私はそれを見れるし触れるし食べることが出来るんだよ」

「食べるの?」

「食べちゃうよ」

「お腹壊さない?」

「雑菌とかウイルスとかと一緒で、それ自体は悪いものなんだけど消化する分には影響はほとんど受けないみたいでね。むしろちょっとお腹が満たされておやつ代わりになる。失礼━━」

 前を向かされて背中を見せると、次の瞬間ぐっと引っ張られるような感覚がした。それはするりと抜けていき、今彼女の手の中にあるのだろう。振り返ると私の目には見えないが、手が微かに動いていてびちびちと抵抗しているようだった。

「残っているのも取ってみた。見えないんだよね?」

「何も見えない」

 そしてまた、口に入れて食べてしまう。

「どんな見た目?」

「黒い煤で出来たアメーバみたいなやつで、短い手足があるよ」

「味は?」

「あんまりしないね。味のしない水ようかんみたいな感じ」

「美味しいの?」

「まずくはないってくらい。嫌いな味では無いんだよ」

 ごちそうさまを言う代わりに、舌が唇を舐めとった。

「そんな訳で、とてもWin-Winな関係なのでしばらく側に置いときません?」

「側に、置く……?」

「言い方を間違えたかな」

 三雲さんは、困ったようにはにかんで。

「……ちょっと仲良くしませんか」

 照れたようにおずおずと言う。

「こんな私でいいならば」

 改まって言うものだから、私も素直に「仲良くしたい」なんて言えなくて、照れが移ったまま言えば「まずは一緒に帰ろうか」と誘ってくれた。



 三雲さんは自転車を押して、電車通学の私は隣を歩く。一緒に帰るとは言っても学校の最寄り駅までだった。他愛ない話をしている内にすぐに駅に着いてしまう。

「これから時間ある?」

 駅前の時計台で確認すると、まだ時刻は三時半頃だ。

「あるよ」

「甘いものは好き?」

「好き。生クリームとか、チョコレートとか大好き」

「隣の駅のカフェでパフェ食べよう!」

 そう提案したから、私達は一駅分を歩くことにした。

 隣の駅は急行電車も停まる駅で、駅前はそこそこ発展していた。レジに並んで注文して番号札を貰い、窓際の席に並んで座った。

「少し話した方がいいかと思ってね」

 三雲さんはそう切り出した。

「物心付く前から悪い感情が見えてたんだ。それは触ることも出来たし、引き抜くことも出来た。引き抜いた後、その辺に放置していると持ち主に戻っていくからどうしようかと思ってたんだけど、結果的に食べることにしたんだよね」

「食べるという発想になったところがすごい」

「そのときお腹減ってたんだ……」

「腹ペコちゃんだ……」

「それから、悪い感情が見えると食べるようになった。君は同じクラスになったときから、よく溜め込んでいるとは思っていたから、席替えで後ろになってチャンスだったんだ。気付かない内に食べてしまおうと思ってた」

「さっきも言ってたけど、溜め込むのは体質なの?」

「そうだと思うよ。人によっては溜まりにくい人もいる」

 店員さんがやってきて、私達の前にパフェを置いた。私はチョコバナナ、三雲さんは季節のフルーツのパフェだった。

「帰り際みたいに間に入って仲裁するのも、悪い感情が見えるから?」

「そう。食べてしまったらましになるし、どうせなら楽しくやっていたいじゃない。いがみ合うより、仲良く笑っていて欲しいから」

「優しいね」

「そんなことないよ。私は案外自分のことしか考えてない」

 三雲さんは言いながら、一番上に乗っている缶詰の毒々しい色のさくらんぼを食べた。

「悲しんでいるところを見たくないとか、争っているのは嫌だとか、食べたらちょっと小腹が満たされるとか。結構自分本意に生きてるから」

「そうかな? やっぱり優しいよ」

 背後を人が通りすぎていく。レジに近いから、人通りが多いのだ。不意に肩に手を置かれて、三雲さんはまた何かを引きずり出している。

「すぐに溜まるねぇ」

 話ながらそれを口に含んで、咀嚼する。飲み込んだところで、口直しに私のパフェに刺さっていたポッキーを彼女の口に差し出してみる。三雲さんは躊躇わずに歯並びの良い歯でパキリとそれを齧った。

「いいの? 一本しかないのに」

「口直しだよ」

「クリームも付けて?」

「仕方ないなぁ」

 甘えるように言うから、言われるがままに生クリームを付けて三雲さんの口に入れた。

 パフェを食べ終わり他愛ない話をしていると、気付けば日が傾いて辺りは夕焼け色に染まっていた。長い影を連れて、私達は駅へと戻った。

「公園の中通ってもいい?」

 駅の側には公園があった。遊具の無い公園で、もう夕方だから誰もいなかった。公園の端の方、木と雑草が繁茂している場所に私は行く。

 今日はいるだろうか……?

 辺りを見回して、姿を探した。

「何かあるの?」

「この時間ならいるはずなんだけど……あ、来た」

 子猫を連れた白猫がやってくる。私の足の間を八の字に歩き、尻尾を絡ませた。

「猫だ……! 君に懐いてるんだね」

 子猫は「ミー」と甲高く鳴いて、三雲さんの足元へとやってくる。

「可愛い……けどちっちゃくて細くて触ったら壊れちゃいそうだな。手の中に収まっちゃうもん。いつも来るの?」

「割と来るかな」

「優しいのは、そっちだよ」

「そんなことないよ。私は何も出来ないもん。エサもあげれないし、飼うことも出来ない。遊んであげるしか出来ない。それも遊んでるのか遊ばれてるのかも分からないし」

「そんなに優しいから、溜め込んじゃうのかもね」

 猫としばらく遊んで、私達はお互いの家へと帰ることにした。



 この日を境に、私達は毎日一緒に帰るようになった。意外にも私と三雲さんは気が合うようで、帰り道にはいつも公園に寄ってたまにカフェに行き、場所を問わずしばしば悪い感情を抜かれている。

 三雲さんの隣は居心地が良くて、普段からずっと一緒に行動するようになった。何かがあるたびに三雲さんはすぐに私から悪い感情を引き抜く。すぐに楽になるから精神衛生が保たれていて、最近はなんだか調子がいい。

 頼りすぎてだんだんダメになっていくような気さえしてくるけれど、三雲さんはこんな私に悪い顔をしたことがない。本当に優しい人なのだ。

「今日も公園に寄っていく?」

「もちろん!」

 いつものように公園に向かっている途中のことだった。

 今日の宿題は多すぎるとか、担任がドジ過ぎるとか、そんな他愛ない話をしているとき、黒い鴉が背後から飛んできた。至近距離の鴉に驚きつつ、向かう先を見ていると、道路の真ん中に落ちている何かの前に降りる。

 それが何かを視認して、視認した瞬間に心臓がバクンバクンとうるさく鳴り始めた。

 嘘。

 嘘でしょ?

 目の前が滲んで、頬に水滴を感じた。

 道路の真ん中には、大きな赤い塊と小さな赤い塊が落ちている。

 三雲さんは私の肩を見て、驚いた顔をした。悪い感情が、あまりに大きくのし掛かっていたからだろう。そして私の視線の先にあるものに気付き、手を引いて歩みを止めた。

「あんまり見ないで」

 見慣れた猫が、車に轢かれて死んでいた。親猫も子猫も死んでいる。その猫を、鴉が啄んでいた。

 崩れ落ちそうになる身体を三雲さんの手の温もりでなんとか支えていて、少しでも風が吹けば倒れてしまいそうだった。

 自転車を止めて、三雲さんが繋いだままの手を引いた。引かれるまま、私は彼女の腕に優しく抱きしめられる。

「悲しむところは見たくないよ」

 ずるりと背中から感情を抜いて、しっかりと咀嚼して耳元で喉が鳴る。

 また、三雲さんを頼ってしまった。頭の芯がどこか冷えて、両足で立てるようになる。

「楽になった?」

「なった……」

 抱きしめたまま、三雲さんが覗き込むように私の顔を窺った。手のひらで、涙を拭ってくれる。

 深く、深く、深呼吸する。

 これなら、大丈夫そうだ。歩ける。

「いつもありがとう」

 私達はそのまま言葉を交わすこともせず、駅へと向かい帰ることにした。



 まさかあんなことになるとは思わなかった。私が飼えれば良かったのにとか、何か出来ることは無かっただろうかと思ったけれどもう遅い。

 家に帰ってから、これまで過ごした猫たちのことを思い出そうとした━━けれど。

「……あれ?」

 おかしい。記憶が色褪せている。

 なんでこんなに悲しくないんだろう。あんなに、可愛がっていたのに、なんで私は悲しめないんだろう。

 この空虚はなんだ?

 空虚に入るものがどこにも無くて、やるせなくて悔しい。思い出そうとしても、幼い時代の写真を見ているときのような、記憶の覚束なさと自分との解離を感じた。

 これは、感情を食べて貰ったせいなのか……?

 悲しみは思い出せず、代わりに疑問ばかりが浮かんでいく。

 ここままじゃダメだと私は悟った。やっぱり、あんなに頼っちゃダメだったんだ。

 私はすぐに三雲さんと連絡を取り、会うことにした。

 三雲さんの家の近くの道で私達は会うことにする。三雲さんは制服から部屋着に着替えていた。

「またなんか溜めてるねぇ。大丈夫?」

 三雲さんはおもむろに私から感情を引き抜こうとする。

「止めて」

 その腕を掴み、拒否をした。

「ごめん、もうしなくていいって言いに来た」

「なんで……?」

「悪い感情の全てが悪いものじゃないみたいなんだ。多分、三雲さんには黒く見える感情を全部食べたいるだけなんだよね? 少なくとも猫が死んで悲しかった感情は、食べて貰ってはいけないものだった。私が自分で消化すべき感情だった。悪いかどうかは、当事者の主観でしか分からないもので、他人が決めるものじゃない。そもそも自分の感情を他人に消化させること自体いけないことだったんだ」

 三雲さんは黒髪が目にかかり、悲しげな表情をしていた。そういえば、悲しそうな顔をしているのは初めて見たな。

「ごめん、今までありがとう。これまで食べて貰っていて都合がいいって思うかもしれないけれど、ごめん。今まで本当に助かってた。けどこれは私のものだから。返してって言うのは無理なんだよね?」

「無理……だね」

「じゃあ、もう食べなくて良いや。本当にごめん。また明日……学校でね」

 そもそも、今までが歪だったんだ。三雲さんがいないとまともに立てなくなるほどに、本当にダメになりかけていた。私は地を踏みしめて、これからは自分の足で立たないと。

「待って」

 背を向けようとした私を、三雲さんが引き留めた。

「友達が悲しんでいるところを見たくなかっただけなんだけど、余計に悲しませちゃったかな」

 三雲さんが私を抱きしめる。優しくて、切なくて、泣きそうになる。

「ごめん、本当にごめんね。最後に私のエゴで、これだけちょっと食べさせて」

 ずるりと何かが引き抜かれた。肩が軽くなって、反動でカクンと三雲さんの肩に顎を乗せる。

「あ、れ?」

「私はまだ、仲良くしていたいんだよ」

 纏わり付くような声音で彼女が言い、ゴクリと耳元で飲み込む音がする。

 今、私は何の感情を食べられた……?

 肩が軽くなり、胸の内のわだかまりが消えていく。スッと軽くなったけれど、何かが無くなった。

「ねぇ明日学校が終わったら、パフェを食べに行こうよ」

 素敵な友達が私を誘った。



 帰り道、日は山の向こうに落ちていて、夜闇が夕焼けを飲み込んでいく。切れかけの街灯が点き始め、薄っぺらい影を作っている。

 三雲さんはいい人だ。側にいるだけで心が晴れていってとても居心地がいい。残念ながら猫は死んでしまったけれど、仕方ない。だって私は何も出来ないんだから。最初から分かっていたじゃないか。

 三雲さんがいれば、私は私でいられる。だって、悪い感情を食べてくれるから、何かあっても彼女に食べて貰えばいいんだ。

 そういえば、なんで私は三雲さんの家に行ったんだっけ?

 一瞬疑問が浮かんだけれど、考えても何も出てくる気配がない。まぁいいか。忘れるくらいなら、大したことじゃないんだろう。

「おはよう、三雲さん。今日はパフェを食べに行くんだよね?」

 次の日の朝、席に着く前に私は三雲さんに今日の予定を確認した。

「そう、今日はパフェを食べに行く日だよ。もう大丈夫?」

「なんのこと?」

「それならいいんだ」

 何のことだろうかと疑問が浮かんだが、次の瞬間三雲さんが私の背中から何かを引き抜いて食べてしまう。

 ━━あれ? 今何を考えていたっけ。

「放課後、楽しみだね」

 素敵な友達は黒髪を揺らして、美しく笑っていた。

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