第30話

 初めて必死に勉強した。

初めて必死に仕事をした。

配置転換の希望を出した。

人事考査の為に、必要な資格を取り、レポートをいっぱい書いた。

この会社でやりたいこと、自分がこの会社にもっと貢献できるということを猛アピールした。

課長職以上の役職の2人から、推薦状をもらわなくてはいけなくて、自分の部署の高野部長にお願いして書いてもらい、もう1人は石川さんにお願いした。

石川さんは、そんなのお安い御用だよって、ものすごい長文の推薦状を送ってくれた。

永瀬さんには借りがあるからねって。


沙希ちゃんが私のことを心配したり、気遣ってくれてた気持ちを、踏みにじらないように、私は自分自身を誇れる人にならなきゃいけない。

ダラダラしていても、それなりにお給料がもらえるから、それでいいって思ってきた。


“やれるのに、やらないのは もったいないよ

やれること 精いっぱいやれば楽しくなるよ!”


小学生の時に沙希ちゃんが友達に言った言葉。


私は、何も頑張ってこなかった。

何も出来ないんじゃなくて、何もしようとしていなかった。

部活もそれほど頑張ってこなかった。

高校受験も、大学入試も、入れそうなところに無難に入っただけ。

就活は何十社も落ちて、この会社は奇跡的に入れたけど、どこでもいいから入りたいって思っていただけ。

この会社にどうしても入りたいって、やりたいことがあったわけじゃない。

だけど、覚醒めた。

今更ながら覚醒めた。

“やれるのに、やらないのはもったいない”

そうだよね!

たった一度の人生。

いつ、終わりがくるかもわからない。

必要ない人じゃなくて、必要とされる人になりたい。

私は、沙希ちゃんとは違う。

沙希ちゃんの代わりにはなれない。

だけど、私は自分自身を好きになりたいし、諒くんに好きになってもらいたい。

だから、とにかく、必死に頑張ってみるよ!!




 

 1年6ヶ月後


 沙希ちゃんの3回忌

美鈴さんと諒くんと3人で、沙希ちゃんのお墓に行った。

今日は、平日でそれぞれ仕事が忙しかったから、

霊園に到着したのは、夕暮れ間近な時間だった。

夕焼けが綺麗だった。


「茜って、朝生まれたの?」

ずっと前に沙希ちゃんに聞かれた光景がフッと頭に浮かんだ。

「そう!早朝だって!なんで?」

「やっぱな! “あかねさす” の茜なんだね?」

私は、自分のことなのに、よくわかっていなかった。

お父さんが茜色が好きだとかなんとかって、聞いていたくらい。

「万葉集とかで言うと、“あかねさす”は 朝日が映えるみたいな感じ。

朝日のオレンジ色を茜色ってゆうのかな〜って思ってて。

希望にあふれる色ってゆうか、みんなに元気を与えられる色だよね〜!

あ、でも、夕焼けも茜色ってゆうよね。

夕焼けの茜色も優しくて温かくて、どっちの感じも茜にぴったりだよ!!いい名前!!」

ミルクティーを飲みながら、アハハって沙希ちゃんは笑った。



風にそよぐ木々も、緑濃いのだろうけど、夕焼けに染まり、あたり一面茜色に包まれた。


沙希ちゃん!!力を貸して!!


私の背中を押すように、一迅の風が吹いた。


「諒くん!!

諒くんのこと、初めて会った時から好きでした!

私と、付き合ってください!!」


諒くんは、ハッとしたように私の顔を見つめた。

その顔は、茜色に染まっていた。

私の顔も、茜色に染まっているだろう。




             

                    完

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茜色に染まる頃 彼方希弓 @kiyumikanata

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