第29話

 キミとか、あの人って書かれているのを、酒井さんを想像して読むと、ピタッと当てはまる気がした。

あの子と言うのは、芳村さんか。

芳村さんに協力してねって言われてしまったから、言い出せなかったんだな。

架空の想い人をつくった、って、これが他校の先輩で医者の息子。

調べても わからないはずだ。

そんなにしてまで、気を遣って、気持ち隠す必要あったのかな。

苦しかったね、沙希ちゃん。

これを読んで想像すると、沙希ちゃんは 酒井さんのことが好きだった。

酒井さんが走っているのを、見ていることが好きだった。

絵を描きながら、いつも酒井さんを応援していた。

酒井さんと話しをすることもなかったけど、なんとなく両思いかもって思っていた。

だけど、芳村さんが酒井さんを好きだって言って、協力してねって言われて、自分の気持ちを隠した。

言いたかったけど、友達を傷つけたくなかった。

恋のライバルになるのが嫌だから、沙希ちゃんは身を引いた。


身を引いた……



一番最後のページをめくり、裏表紙のところに、薄いシャーペンの字で何か書いてあった。

見慣れた沙希ちゃんの字。

さっきまでの中学時代の字とは明らかに違う。

最近書かれたような沙希ちゃんの字。



恋のライバルになるのはイヤだよね。

だから、あなたは身を引いた。

そんな あなたを見ていると、中学の時の自分を見ているようで……ツライ……

私にとって、あなたはとても大切だよ。

あなたに幸せになってほしい。

あなたを傷つけたくない。

でも、どうすればいいのか、私にはわからなくて。

諒くんのことも、あなたのことも、両方大切で、両方失いたくないと思ってしまっている私は、なんてワガママなんだろう……

もしも……

もしも、私が死んだら、2人が付き合って、幸せになってくれたら、本当に本当に嬉しいな。

って、そんな例えばの話を伝えることもできないし……

ごめん……

私……あなたに何をしてあげられるだろう……


大好きな

心から大好きな 茜へ



えっ!!

えーーーーーーーっ!!

なに? これ……

私にあてたメッセージ……

ううん、私に読ませるつもりで書いたわけじゃない、心のつぶやき……

でも、これを?

これを、私に読ませたかったの?


沙希ちゃん、私の気持ちに気づいてた……

諒くんを好きなこと……

それを昔の自分に重ねて悩んでたんだ。


「忘れられない人がいるの……気持ち伝えたかった……」


伝えたかった気持ちは、

【私に】 伝えたかった気持ち


沙希ちゃん!!

この手帳にたどり着いて欲しかったの?

沙希ちゃんが伝えたかった気持ちは、私に幸せになって欲しいって。

私に……私に……

沙希ちゃん!!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 「そうだね。そういうことだと思うよ。

茜ちゃんが諒くんのことを好きなのは、鈍感な私だってわかってたよ。

茜ちゃんは、自分の気持ちを必死に隠してたんだと思うけど。

沙希は、そんな茜ちゃんを見る度に、昔の自分と重ねてたんだね。

諒くんの気持ちもあるから、じゃ〜2人付き合えば〜なんて、沙希の立場じゃ言えないし。

事故の瞬間、意識もうろうとした中で、沙希は死を覚悟したんだよ。

たぶん、沙希のことだから、諒くんは大丈夫ってのも確認したと思うよ。

それで、病院へ真っ先に駆けつけてくれるのは、茜ちゃんだって確信した。 

意識不明になっちゃって、でも最期の最期に出た言葉は、茜ちゃんに伝えたかった気持ち。

忘れられない人を捜して、伝えたかった気持ちを求めて、この手帳にたどり着いて欲しかった。

身を引いて後悔してほしくないって。

って、そうゆうことだね!!

沙希らしい……あはははは!回りくどい!!

でも、良かった〜!!

伝わったよ〜!!沙希!!

じゃ〜、今度は茜ちゃんが気持ちを伝える番だね!遠慮しないでいいんだよ!それが、沙希の遺言なんだからさ。」

「沙希ちゃん……

う……う、えーーーーーーーん!!」

「うえーーーんって、どうゆう泣き方してんのよ!!子供じゃないんだから!!あはは!!

ちょっと、私までつられちゃうじゃん!!

う、う、うえーーーーーーん!!」


美鈴さんと2人で、泣いては笑い、笑っては泣いた。

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