第25話

 意外だった。


婚約者がいながら、遊びのつもりの軽い気持ちで沙希ちゃんと付き合った。

結婚が決まって、上海赴任が決まって、じゃ、そうゆうことで!って、沙希ちゃんを捨てた。

それは、確かにそうだったけど、そこに愛はあったんだって話。


私に信じてもらえなくても、亡くなってる沙希ちゃんなら、わかってくれる。わかってもらいたいってことを涙ながらに語った。

演技しているようには思えなかった。

心の中を、さらけ出したって感じがした。


「そうですか。わかりました。」と、静かに私は言った。

石川さんは、えっ?って、真っ赤な目で私の顔を見た。

「最低な男だった!ゲス野郎!死ね!!って思ってたのは、私だけです。

沙希ちゃんは、たぶんそんな風には思ってなかったと思う。

好きだなんて、言われてもいないのに、ホイホイ家にあげて、簡単にヤラせてくれそうな尻軽女に見えたんだろうね、遊ぶには丁度いいって。反省しなくちゃ!

って、自分のことは責めてたけど、石川さんのことを悪くは言ってなかった。

あんなに傷ついてたのに……

なんか、一緒にいて、楽しかったんだよな……って言ってましたよ。」

「はぁ…………ありがとう。

沙希の話は、誰にも言えなかったから、君に聞いてもらえて、有り難かったよ。」

「いえ、私も……沙希ちゃんの話聞けて嬉しかったです。」



沙希ちゃんのお墓は、新幹線で長野まで行き、在来線に乗り換えて5駅、そこからバスか、タクシーで……と話したら、じゃ、レンタカーで行こうと言われた。

私は免許も持ってなかったから、その発想がなかった。

その前に花を買いたいって、花屋さんに寄った。

お墓にお供えしたいので、丈をこのくらいにしてください。とか、包装は簡素でいいです。とか、アルストロメリアは今は時期ではないですか?とか店員さんと話していた。

花を買い、レンタカーを借りて、ナビで検索し、大体わかったよと発進させた。


石川さんの行動にはムダがない。

仕事ができる人って、こうゆうところかと思った。

「お花詳しいんですか?」

「えっ?俺?詳しくないよ。」と笑った。

「さっき、いろいろ名前言ってたじゃないですか?」

「あぁ、沙希の受けうりだな。花を買ってくと喜んだって、言ったでしょ。買ってく花の名前をほとんど知ってて、これは何何、これは何何って、教えてくれて。ほとんど覚えられなかったけど、そのアルストロメリアって花が、長野県が全国トップシェアだって教えてもらってさ。あと、長野県の県の花はリンドウです!ってさ。県の花なんて物があるのも知らなかったし。俺、神奈川県なんだけど、やまゆりだって!知らね〜!!ってさ。あはは!」

「私も、東京は、ソメイヨシノだよって、教えてもらいました。」

「そうなんだ!他の県までなんで知ってんだよ!って感じだよな。」

「沙希ちゃんは、いろんなこと知ってて、ほんと頭も良くて、しかも努力家だった。」

「あぁ。そうなんだな。あはははは!

あっ、いやっ、ごめん。笑うとこじゃないんだけど。

沙希のことを話せることが、すげー嬉しい。」

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