第26話

 沙希ちゃんのお墓は、小高い丘の上にある霊園。

とても景色がいい。

ちょうど、紅葉が見ごろという感じだった。

一周忌で夏にきた時には、蝉の声がうるさいくらいだったけど、今日は、とても静かだった。

花をいけて、お線香に火をつけた。

手を合わせて、石川さんは沙希ちゃんに話し始めた。


「沙希、久しぶり。

永瀬さんは いい友達だね。

沙希の代わりにいっぱい怒ってくれたよ。

俺はひどい男だったね。

ごめんな。

沙希のこと、簡単にヤラせてくれそうな尻軽女なんて思ったこと1度もないよ。

逆に真面目で、カタい子だって思っていた。

いっぱい、いっぱい 後悔したよ。

沙希、もう1度会いたかった。

また、話がしたかったよ。

長野は、良い所だね。こんな綺麗な紅葉は初めて見たよ。

沙希に教えてもらった、アルストロメリア買ってきた。いろんな色があるんだな。迷った。

あとね、ダリアとスターチス。俺が選んだんだけど、やっぱ組み合わせセンスないかな?

今日は、これで勘弁しといてね。

沙希、

沙希の手料理、おいしかったよ。ほんとだって。

名前のない料理ってやつ、あはは、ほんと おいしかったよ。

……いっぱい 言いたいことはあるんだけど……

わかってくれてるよね。

沙希、ありがとう。楽しかった。」


石川さんは、「愛してた」も「大好きだった」も言わなかった。

「わかってくれてるよね」って。

沙希ちゃんは、わかってくれてる

私もそう思った。


私は、声には出さずに、手を合わせて心の中で、沙希ちゃんに話した。


沙希ちゃん、石川さん連れてきちゃって、ごめん。

嫌だったかな?

思ってたより、悪い人じゃなかった。

沙希ちゃんを裏切ったのは許せないけどね。

ほんとに、好きだったんだってさ!

新幹線で、ずっと、語ってたよ!!

沙希ちゃんの話できて、私も少し嬉しかった。

あと、報告遅くなっちゃってごめん。

沙希ちゃんが忘れられない人って、酒井俊平くんでいいんだよね?

美鈴さんと、会ってきたよ。

沙希ちゃんの気持ち伝えようと思ったけど、わかってたよ。

両思いだと思ってましたって。

会いたかったなって言ってたよ。



 霊園をあとにして、石川さんが善光寺に行きたいと言った。

「永瀬さんは行ったことあるの?」

「はい。沙希ちゃんと、3回くらい。」

「へぇ〜。初詣?」

「あ、初詣もありますよ。沙希ちゃんち、ご両親も一緒に行きました。」

「初詣も ってことは、初詣じゃなくても行ったんだね。」

「はい。御開帳って知ってますか?7年に1度の大きなお祭り?みたいなのに行きましたよ。」

「7年に1度って、オリンピックよりも長いね!次はいつなの?」

「たぶん、3年後?くらいかな?あ、テキトーですよ!!詳しくは、ご自身で調べて下さい。」

「あはははは!永瀬さんは、おもしろいね。」

なにが おもしろいんだろう。

でも、イヤな気はしなかった。

「そう言えば、今日って、視察ってことですけど、善光寺のあと、どこかに行くんですか?」

「視察ね!!俺、テキトーに報告書作成するから大丈夫だよ。永瀬さんは、同行しましたってハンコだけ押してくれれば。」

「テキトーに報告書なんて作成できるんですか?」

「俺、仕事できちゃう人だから。あはは。」

「お墓参りは、内緒ですよね。」

「そりゃ、そうだよ!!えっ?バラす?

お墓参りの為に帰国してきたなんて、ヤバいって!あはは!」


信州蕎麦を食べて、善光寺を参拝して帰ってきた。


「永瀬さん、今日は、1日ありがとうございました。」そう言って、石川さんは私に頭をさげた。

「こちらこそ、ありがとうございました。

沙希ちゃんの話 したくなったら、連絡してください。」

「あはははは!朝は、めっちゃ にらんでたのに、優しくなったじゃん!!」

「石川さんが、悪い人ではないってわかったので、とりあえず、けんか腰はやめときます。」

「ありがとう。

沙希は、いい友達と出会えたな。」

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