第24話

 「今から言うこと、信じてもらえないと思うけど、とりあえず、最後まで聞いてくれないか。

そのあとで たっぷり文句を聞くから。」

そう言うと、石川さんは話し始めた。

「一獲千金ってさ、俺としては、随分と努力もして、コツコツと鉱山掘り進めて、やっとのことで鉱脈見つけ出してさ。

金も地位も名誉も手に入りそう!って感じだった。

婚約した彼女が、結婚前、家族で過ごす最後の年末年始だからって、海外へ家族で旅行に行ってくるって。

いってらっしゃいって送り出して、俺も独身最後の年末年始だ、さぁ〜!パ〜っと羽をのばすぞ!!って思って。

って言っても、あの年の年末は怒涛の忙しさでだいぶ俺もグッタリしてたよ。

で、仕事納めの飲み会。全くそれまで中山の存在を意識したこともなかった。

あの時、ほんとたまたま、店の外に出たら、中山が壁にもたれて座り込んでて、声かけて、タクシーで送ってやろうと思ったけど、家もわからなかったし、答えないし、で、ホテルに入った。

その日は、何もしなかった。ここでやっちゃったら面白くないじゃん!って思って。

彼女が旅行から戻るまでの間、遊ぶのは、この子でいいか!って、ほんと軽くそう思った。

真面目なタイプのこの子を攻略するには、さぁ どうしたらいいかなって戦略を練った。

短期決戦、8日でおとした。

俺は満足だった。あ〜あ。面白かった!って感じだった。

彼女も旅行から帰ってくるし、中山とは何事もなかったかのように、フェードアウトしてこう!って思ってた。

仕事始めから数日の間、会社で仕事をしていて、中山と話すことはなかった。

中山も自分の仕事を今まで通りにこなしていて、俺に近づいてきたり、目を合わせようともしてこない。

えっ?なに?無かったことにしようとしてるの?って。

自分から、フェードアウトしようとしてたのに、逆にフェードアウトされそうな感じにたまらなくなって、メールした。今夜行ってもいい?って。それからは、ほんと頻繁に沙希んちへ行った。

彼女にバレないように細心の注意をはらいながら。

彼女は、いわゆるセレブで、自分で料理なんてしない人で、外食するか、ケータリングか、料理人に作らせるかって感じだけど、沙希は、一人暮らしで自炊していて、家庭的な料理を作ってくれた。

得意料理なんて言えるもの、何もないんだって。

名前のない料理って言っていたけど、ある物で作った鍋とか、ある物で作った煮物とか、そんななんでもないような料理がすごく美味しくて。

食べ終わって、食器を片付けたり、洗い物を手伝うだけでも、ありがとう!って言ってくれて……

あぁ、この子と一緒にいると、なんて心が穏やかになるんだろって。高級な物を食べなくたって、一緒に食べて美味しい!って笑っていられる。

花が好きだって言うから、花を買って行くとすごく喜んで。たった、2、3千円の花なのに。

学生時代、仕送り少なくて、バイトもしてたけど、ボランティア活動とかもやってたから、お金あんまりなくて、パンを買おうか、お花を買おうかって真剣に悩んだって。

長野は、農家さんが育てた花とか安く買えたりするんだけど、東京の花はとにかく高くてって、笑って。

俺がレンタルしてきた映画を観て、一緒に笑ったり、泣いたり、感動したり……


俺が、ずっと手に入れたかった、金や地位や名誉、そんなものどうでもいいって思えた。

婚約者がいながらの、二股の付き合い。

もう無理だと思った。

婚約は、破談にしよう。

会社は、辞めさせられたっていい。

どこでだって、俺は働ける。

沙希と、結婚したい。

そう思った。

ちょうど、そのタイミングで、上海赴任の内示が出た。

同時に、彼女に妊娠したと告げられた。

式を挙げるのは、上海で落ち着いてからということにして、入籍だけすぐにしてくれと彼女の親にも言われた。

俺は、言われた通りにした。

籍を入れ、上海に赴任することにした。

沙希にすべてを打ち明けて、おまえと離れたくないし、続けたいから、俺の愛人として、上海に一緒に行って欲しい。なんの苦労もさせない。贅沢な暮らしをさせてあげる。って、そう言いたかった。

でも、言わなかった。

そんな生活を沙希が望んでいるわけないのがわかってたから。

何も告げず、沙希の前からいなくなることにした。

最低な男だった!ゲス野郎!死ね!!

そう思ってくれればいい。

俺は、上海に行ってから、がむしゃらに働いたよ。

沙希のことを忘れたかったし。

お陰で、超 出世しちゃって、まぁいろんな忖度もされてんだろうけど、永瀬さんとこの高野部長と俺、同格。35でだよ。

こんな若くてこの地位。

願った通りの生活。

だけど俺、沙希に会いたくて会いたくて、なんか理由つけて日本に帰りたいって、ずっと思ってた。

でも俺のことなんか忘れて、別の男と幸せにしてるかもしれない沙希には会いたくないなとか。

別の男と付き合ってんなら、それ、ぶち壊したいなとか。

マジで、性格クソだなって思うけど、そんな風に思ってた。

会いたいけど、実際会ったら どうなってしまうのか、自分自身わからなかった。

だから、日本に戻らない方が、会わない方がいいんだろうなって、ずっとそう思ってたよ。

で、去年、沙希が亡くなったのを知った。

生きてる沙希の前では、ウソを並べてかっこつけたり、言い訳したかもだけど、亡くなった沙希の前では、そんなウソは通用しないと思うから、

ただ素直に愛してたって伝えられると思うから。

亡くなった沙希なら、俺の心の中まで全部お見通しで、わかってくれると思うから。

だから……

だから、君に信じてもらえなくても、とにかく俺は沙希のこと……

大好きだったんだ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る