第15話
中学の時に、沙希ちゃんが通っていた塾へ美鈴さんと行った。
15年前、当時の沙希ちゃんのことを知っている講師の方に話を聞くことができた。
「渡辺です。中山さん、中山沙希さん。
えぇ、覚えていますよ。優秀な生徒さんでしたね〜。
確か、○○高校へ入られたと思いますが。あそこは、当時もですが、かなり偏差値の高い高校ですから。」
50代くらいの小太りの先生は、首からさげたタオルでおでこを撫でながら笑った。
「中山さんが、亡くなられたのはご存知ではないですか?」
「えっ!亡くなられた……中山さんが?」
「はい。去年の夏に、交通事故で。」
「そうだったんですか……それは、何も知らなかったとはいえ……すみません。」そう言うと、タオルをはずして、私達に頭をさげた。
「いえ、亡くなられたのは東京でしたし、ご存知なくても仕方ありません。お気遣いなく。
私達は、昔の中山さんのことを知りたくて、少しお話を聞かせていただきたいのですが。」
美鈴さんは、アナウンサーさんみたいな、リポーターの人が取材してるみたいに、淡々と丁寧に話した。
「その当時、沙希さんと同じ時期にこちらに通っていた人で、沙希さんが通っていた○○中学とは違う他校の先輩で仲良くしていた、お医者さんの息子さんて方に心当たりはないですか?」
先生は不思議そうな顔をして、手を顎にあてて少し考えていた。
「当時、この建物では、1年生と2年生のクラスがあったんですが、1年が月水金、2年が火木土というように曜日で分けられていたので、それ逆だったかもしれませんが。そんな感じで分かれていて……
3年生は、別館の建物でしたし、中山さんが他校の先輩とかかわることはなかったと思いますね。
お医者さんの息子さん……。いたのかもしれないですが、すみません、思い当たらないです。」
「そうですか。」
「中山さんのお家は確かちょっと遠かったと記憶しているのですが、親御さんが送り迎えをしていたと思いますし、塾では、私語禁止だったので、他校の同学年の女子とでさえも、世間話もしていなかったんじゃないかと思いますが。」
「えっ!厳しい塾ですね!!」と私が言うと、申し訳なさそうに、先生はタオルを手に取って汗を拭って、
「えぇ、当時の経営方針はそんな感じでした。
今は、方針転換してアットホームな感じを全面的に出してますよ。」と、照れたように笑った。
「ありがとうございました。」
駅前の通りを歩きながら、先に口を開いたのは美鈴さんだった。
「なんだろう……なんか、しっくりこないね。」
「うん……」
「同じ塾で他校の仲良い先輩。医者の息子の。
そんなの、あぁ○○君ですね!って言われると思ってたのに……」
「うん。」
「そもそも、この塾じゃなくて、夏期講習とか、冬期講習とか、別のところも行ってたのかな。
じゃなきゃ、あり得ないじゃん!ここでどうやって他校の先輩と知り合いになれんのよ!」
「うん……そうだよね……」
それから、美鈴さんも黙り込んだままだった。
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