第12話

 大学も都内の大学だったから、家から通った。

そこでも特にやりたいことを見つけられなくて、ひたすらバイトをしていた。

自宅だから、別に食うに困るということでもなかったから、楽しそうと思ったバイトをいろいろやってみて、つまらなかったり、キツかったら辞めたり。

パン屋さん、レンタルショップ、ファミレス、結婚式の巫女さん、洋服屋さん。

そのバイト先の洋服屋さんの、年上の男の人とお酒を飲みに行って、朝 寝覚めたらラブホテルのベッドの上で、真っ裸だった。

初体験は、好きな人とでもなく、全く記憶にもないという始末。

そのあと、その人とお付き合いするということにもならなかった。

私から誘ったんだとか、酔っぱらった勢いで、というようなことを言われた。

で、その洋服屋さんは辞めた。

その後も、何人かと付き合ったような、付き合ってないような感じで大学生活は終わった。

そして、就職。

もう6年目になる。

同期入社の子も、何人か寿退社している。

この会社で、この部署で特に何か成し遂げたと言うこともなく、5年も経ってしまった。

この先長くいても、キャリアアップするわけでもない。

早く寿退職したいなぁ。

相手もいないのに、そんなことを考えてばかりいた。

同じ部署の男性陣は、優しい人が多かった。

だけど、言い変えれば、仕事ができなくてこの部署に流れてきたような、おじさんたちだった。

いい人だけど……って感じの人たち。

たぶん、この先 出世はしないだろう。

独身男性も何人もいたけど、ちょっと年が上過ぎるかな。

社内恋愛が無理なら、出会いを見つけなきゃだけど、積極的に出会いを求めてもいなかった。

恋に恋するみたいに、いいなぁ 結婚したいなぁと思っていた。

私は、新しいことを始めるのが苦手だった。

アルバイトをいろいろ変えてやったりしてたのだから、無理ということではない。

やってみれば、大した事ないけれど、引っ込み思案で、新しいことを始める為に腰をあげるのが、かなりおっくうだ。

だから、現状維持ということが多い。


そんな私とは対象的に、沙希ちゃんは何にでも積極的に取り組む人だった。

仕事も忙しい部署でクタクタになってるのに、日課だからってジョギングしたり、ジムに行ったり。

美術館や展覧会にはよく行っていた。

冬は、スキーにスノボ。

夏は、スポーツ観戦で、野球やサッカーの試合を見に行ったりしていた。

地域のボランティア活動をしたり。

同じ1日24時間なのに、なんでこんなに違うんだろう。

今思えば、短い人生を必死に生きていたようにも感じる。


そんな沙希ちゃんがやり残した後悔……

伝えたかった気持ち……


その思いは、私しっかりと受け取ったから。

絶対絶対伝えるからね!!


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