第10話

 夜になって、今日の話を美鈴さんに電話した。

「まじで〜?そんな病弱ちゃんだったんだ〜?

ウケる!

でも、高校の頃の沙希は、私が知ってる大学の頃の沙希と同じような感じだなぁ。

高校卒業して大学入ってんだから、当たり前だけどさ。

元陸上部だからって、ハーフマラソン大会とかよく出てたし、山育ちだからって、スキーもスノボも出来たよ〜。

でも、初恋の人らしき人物の名前がイマイチ出てこないね!

他校の先輩で医者の息子と、他校の陸上部の人?」

「そうなんだよ〜。もうちょっと調べてみるね。明日、沙希ちゃんの中学へ行ってみようかと思ってるよ。」

「うん!よろしく!

あっ、沙希のお墓も行く?沙希によろしく伝えといて!」

「了解!」


 

 次の朝、沙希ちゃんのお父さんとお母さんと3人で朝ごはんを食べた。

沙希ちゃんの病気のことを聞いてみた。

「あれっ!茜ちゃん知らなかったっけ?

心臓の手術をしたのよ。小学校4年の時に。」

「えっ!心臓ですか?」

「そう!小さい時から調子悪くてね〜。

右心室から左心室とかに流れるじゃない?あれ?逆かしら?右心房から??

まぁ、それがうまくいかなくてね。弁が悪かったんだけど、その手術をしてね〜。5年間は運動禁止って言われて、あの子 元々は活発な子だったから、かわいそうだったわ。

手術は成功だったから、普通に生活する分には全く支障なかったんだけどね。

体育も運動会もずーっと見学だったの。

それなのに、ね〜〜お父さん!びっくりしたわよね!高校で陸上部だってゆうんだもの!マネージャーだって言ってたのよ。

マネージャーもこんなに靴下汚れるんだ〜なんて思ってたら、走ってたなんて、もう!!腰抜けそうになったわよ!

反対したけど、聞かなかったのよ、あの子。

なんだか、走らなければならない!みたいな強い意志があって、私達が折れたんだけど。

でも、やらせてあげて良かったって思うわ〜。

打ち込めるものを、自分で見つけられたんだから。

身体も強くなって、本当に普通の人と同じ生活ができるようになったのよ。」

お母さんは、そこまで一気に話すと、お茶を飲んだ。

「そうだったんですか。

遊びにきた時に、沙希ちゃんに絵を見せてもらって、美術部だったってのは聞いてたんですけど、運動禁止だったからってことだったんですね。」

「うん、そう!

でもね、これ言うと、親バカっぽいけど、絵も上手だったのよ〜!」

「あ、はい!すごい うまいって思いました。

あの絵をまた見たいんですが、いいですか?」

「どうぞ!沙希の部屋、手付かずで そのままなの。押入れにあるから、出して見てちょうだい。」


2階の一番東の部屋

朝日が眩しいんだよ!この部屋!って、沙希ちゃん言ってたな。

本当にそのままだ……

お母さん明るくしてるけど、ここを片付けることはできないんだな……

押し入れを開けて出してみると、たくさんの絵があった。

ピカソっぽい抽象画の野菜の絵とかもたくさんあったけど、一番多いのは風景画。

四季折々の桜の並木道。

沙希ちゃんは、いつも外で日焼けして描いてたって言ってたよね。

じゃ、この場所は学校の近くかな。

沙希ちゃんの絵を、携帯で撮って、中学校へ行くことにした。


中学校に来てみたら、あの絵を描いた場所がどこなのか、すぐにわかった。

学校の横には川が流れていて、土手になっていた。

その土手が桜の木の並木道になっていた。

校舎の1階の端が、美術室らしい。

あの位置なら、美術室からでもこの並木道は見えそうだけど。

沙希ちゃんは外に出て、暑い日も寒い日も描いていたってことか。

今日は、休日だけど部活はあるみたいで、生徒たちが集まってきた。

その中で、運動部らしい人たちが、この土手を走り始めた。

「ちょっと、ごめんね。何部?」

「陸上部です!」


陸上部……

この土手を、陸上部の人たちが走っていた……

ね、沙希ちゃん、沙希ちゃんが誰にも話してない忘れられない人は、ここを走っていたの?

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