第8話

 「もしもし諒くん?リハビリやってる?」

諒くんの携帯に電話した。

「あぁ。……あんま……してない。」

やっと聞きとれるくらいの 小さな声だった。

「諒くん、会えるかな?」

「……家にいるよ。」

「行ってもいい?」

「あぁ。」


諒くんは、とても明るくて快活な男の子だった。

男の子なんて言い方をしてしまうのは、年下だからだ。

って言っても、1つ下なだけだけど。

でも、なんてゆうか、人懐っこい感じでかわいいと思える人だ。


「諒くん、おはよー。」

「おはよ……」

「って、もう昼過ぎだけど、寝てた?」

「……寝てた……」

「ねっ、リハビリしないの?諒くん、もう脚も肩も治ってるんだよ。ただ、4ヶ月ほとんど寝たきりだったから、筋力が落ちちゃってるでしょ!

もともと諒くん体育会系だもん!身体動かしてけば、どんどん元に戻せるよ!」

「……るせーよ……うるせーよ!! 

あんたにそんなこと言われる筋合いねーよ!!

帰ってくれ……」

「……また来るね……」


はぁ……

泣きそうになっちゃった……

諒くんにとっては、4ヶ月経った今も、沙希ちゃんの死を受け入れられないでいるんだな……

そりゃ そうだけど。

でも、このままじゃ 沙希ちゃん悲しいよね……

今の諒くんは、見てるのつらいよ……

もっと輝いてる人なのに……



 沙希ちゃんのお母さんに連絡して、週末 沙希ちゃんの故郷の長野に行った。

新幹線で長野駅まで行き、そこから在来線に乗り換えた。

ここへは、沙希ちゃんと一緒にもう何度も来ていたから、1人でも迷わずに行ける。

私は、生まれも育ちも東京で、両親も東京の人だったから、田舎のおばあちゃんちってゆうのに、すごく憧れていた。

夏休みとか、お正月に帰省する友達が羨ましかった。

そんな話を沙希ちゃんにしたら、じゃ、私が帰省する時は、茜 一緒に帰ろ!!って言ってくれた。

お正月とかお盆休みとか、いつも誘ってくれるようになった。

毎回毎回じゃ、さすがにご迷惑かと思って、3回に1回くらいな感じで一緒に沙希ちゃんちへ行った。


沙希ちゃんちへ行くのは、お葬式以来だ。


「こんにちは!」

「は〜い!!茜ちゃん!いらっしゃい!

あがって!あがって!

疲れたでしょ〜?田舎で遠くて ごめんなさいね〜!!」

沙希ちゃんは、どちらかと言うと、お父さん似かなと思う。

顔がとかじゃなくて、性格というか。

お母さんは、いつも元気でハイテンションで、パワフルな人だ。

あ、でも全然イヤミがなくて、明るくて優しいところは、やっぱり沙希ちゃんもお母さんに似てるのかな。

「茜ちゃん、コーヒーと緑茶とどっちがいい?」

と聞きながら、お盆にコーヒーカップをのせようとしているのが見えたから、

「じゃ、コーヒーで。」と言うと

「やっぱり!そうだと思った!!」って笑った。

本当に可愛い人だ。

お葬式の時は、とても声をかけられる状態ではなかった。

当たり前だけど、突然に一人娘を失った悲しみ、絶望感で、ずっと泣いていた。

それから、4ヶ月経って、お母さんは元の明るいお母さんに戻っていた。

それは、表面上かもしれないけれど。

強いな。


「おばさま、沙希ちゃんにお線香あげさせてもらってもいいですか?」

「あっ!ありがとう!奥の座敷に行って!茜ちゃんわかるわよね〜?」と、キッチンから大きな声で言われた。

「はい!わかります!」私も大きな声で答えた。

奥のお座敷の部屋に入ると、真新しい立派なお仏壇が目に入った。

沙希ちゃん

沙希ちゃんは、花が好きで花の名前をよく知っていた。

そんな沙希ちゃんか好きそうな秋の花が綺麗に飾られていた。

仏壇の前に座り、お線香に火をつけた。

沙希ちゃん 会いに来るの遅くなっちゃって、ごめんね。

ちょっと迷ったけど、沙希ちゃんの最期のことばの、伝えたかった気持ちを、私がちゃんと伝えるから!

だから、力を貸してね。


「茜ちゃ〜ん!!コーヒー入ったから〜!飲みましょー!」

リビングに行くと、お母さんの手作りクッキーにパウンドケーキ、そしてお漬け物が並んでいた。

「甘い物食べると、お漬け物食べたくなるのよね〜。で、お漬け物食べると、また甘い物食べたくなるのよね〜!不思議ね〜!」そう言って笑った。

あぁ、このフレーズはお母さん譲りだったのか。

「ケーキ食べると、しょっぱいお煎餅食べたくなんじゃん!で、お煎餅食べると、またケーキ食べれる!無限ループなんだけど〜!」って、スイーツバイキングで沙希ちゃん言ってたな。

お母さんは、お料理上手で、沙希ちゃんも料理が得意だった。

ひとり暮らしが長いから、普通にできるようになったって言ってたけど、やっぱりお母さんを見習ってたのかな。


「おばさま、電話でも話しましたけど、沙希ちゃんのことで、少しお友達にお話を聞かせてもらったりしたいと思っています。」

「えぇ、いいですよ。みんなに、思い出話でもしてもらえば、沙希も嬉しいと思うし。」


ホテルに泊まるつもりだったけど、そんなのもったいないからって、お母さんのお言葉に甘えて、沙希ちゃんの家にお世話になることにした。

3日もお世話になるのも心苦しいけど。

この3日間でやれるだけのことをやろう。




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