第6話

 そんな秘密の恋は、3ヶ月続き、突然終わりがきた。


毎週、月曜日には朝礼があったけど、その日は金曜日。

人事異動があるということで、臨時に朝礼があった。

部長が部署の全員を見渡して口を開いた。

「今日発表の人事で、前々からの希望が通り、石川が上海に赴任することになった。」

えっ!?上海!!うそ!!

「じゃ、石川!一言!」

「はい。こちらの部署では、丸5年間お世話なりました。鍛えていただき、大変勉強になりました。上海に行っても、皆さんのお役に立てるように頑張りたいと思います。

それと、わたくし事ですが、かねてより婚約しておりました彼女と、この度 籍を入れました。初めての土地での慣れない生活になりますが、夫婦で助け合っていきたいと思っております。ありがとうございました。」


青天の霹靂……ってこうゆうことを言うのかな。

なにがなんだか、わからなかった……


婚約者って……

それって、わたしじゃないんだよね?

婚約者がいたの?

婚約者がいて、私と付き合ってたの?

私のことを抱きながら、婚約者と入籍してたの?

なんで……

なんで、そんなこと……


……ただの遊びだったんだ 私のことは……




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 私が沙希ちゃんからこの話を聞いたのは、5月の、入社2年目研修の、泊まりのホテルの部屋でだった。

4月の頭ごろ、体調を崩して何日か会社を休んでいたけれど、これが原因だったんだと思った。

「バカみたいでしょ。遊びだったなんて、全然気づかなかったの。婚約者がいるなんてことも、全然知らなかったし……

ほんとにバカみたい。本当に、バカみたい……」

そう言って泣いていた。


 それから、1ヶ月くらい経って、

「なんか、キツかったけど、イタかったけど、いい社会勉強だったなと思うよ。

私って、こんなにも簡単に騙されちゃう人だったんだなって、反省した。

結婚詐欺師とかじゃなくて、まだマシだったよ〜!

アリ金全部とられるところだった!あはは!

ってゆうか、私 石川さんに好きだって言われてないんだよな〜

だから実際は、勝手に付き合ってるような気がしてただけで、騙された訳でもなかったのかもな〜

簡単にヤラせてくれる尻軽女に見えたってことなのかな。

これからは、気をつけなきゃって思ったよ。

あ〜あ。

ちょっと、恋するのは 遠分いいや……

疲れた。」そう言って笑った。


 後々からわかったことだけど、石川さんの女ったらしは、有名みたいだった。

特に、まだ右も左も分からないような新人がターゲットで、どのくらいで落とせるか同僚と賭けをしていた時もあったらしい。

今回の沙希ちゃんとのことは、自分の結婚話も進行中で重なってたからか、誰にも秘密で内緒にしていたみたいだった。

だから、全く社内で噂になることもなかった。

「俺は根っからのバイヤーなんだよな!いいブツがあったら、手に入れたいと思う。で、それをいかに早く、効率良く手に入れるかにこだわりたい。

1度手に入れたモノには、もうあんまり興味がなくなるんだよな〜」

お酒が入ると、そんな風に同僚に話していたということだ。

最低な男!!

でも、仕事が出来るから、社内での評価は高かった。

海外赴任してくれてホント良かった!!

沙希ちゃんの前から消えてくれて。

沙希ちゃんの傷が、深手になる前で。


会社に入ってからの交際は、この石川さんとの付き合いと、その1年半後に出会った諒くんとの付き合いだけだ。



忘れられない人……


石川さんではないと思う。


きっと、もっと前。

大学、高校、中学……さかのぼって調べよう。




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