第2話

 入社1年目 12月


 毎日 毎日 残業でクタクタだった。

でも、私はまだマシで、沙希ちゃんの部署は特に年末は忙しいところだった。


「中山!あれやって!」

「中山!これやって!」

「中山!まだ出来てないのか!!」


そんな怒鳴り声の中、沙希ちゃんは懸命に働いていた。


「あっ!茜!お疲れさま!」

「ね〜!大丈夫?顔色悪いよ!」

「そう?寝不足だし、休憩時間もないから、化粧直しもできなくて。私の顔 そんなにヒドい?」

「ひどいってゆうか、」

「中山!!!!」

「はい!今行きます!茜ごめん!またね!」


 そんな日が続き、仕事納めの日。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 怒とうの年末、なんとか仕事も片付き仕事納めで、部署の人たちと飲みに行った。

もともと、私はお酒は強くない。

その上、過労と寝不足が重なっていたところに、仕事納めの安堵感で、いつも以上にお酒のまわりが早く、酔いつぶれてしまった。らしい……


気づいたのは、夜中の4時を過ぎた頃。

場所は、ホテルのベッドの上だった。

隣りには裸の男の人が向こうを向いて寝ていた。

え〜〜〜っ!!??なに〜〜!!??

ウソでしょ〜〜〜!!

この状況がのみ込めず、動揺していると、横の男の人がこちらを向いた。

「えっ!!石川さん?」

「あのさ〜、中山〜なんにも覚えてないんだな?

おまえ おぶって大変だったんだぞ!

1人で帰れるって出てったと思ったら倒れ込んでて、タクシーで家まで送ってやるかと思ったけど、いいです いいですって家の場所答えないし。しゃーないから、ホテル入ったんだ。

酩酊状態の女抱えて、だいぶ怪しまれたわ。」

「えっ!すみません!ご迷惑おかけしました!

帰ります!」

「もう、とっくに終電ないし、せっかくホテル代払ってんだから、泊まってけよ!」

「えっ、でも、その……」

「なんもしねーよ!なんかするつもりなら、意識ないうちに脱がしとくよ!靴だけは脱がしたけどな。

まぁ、どっちでもいいけど。俺は寝るから。」

そう言うと、向こうを向いた。

「このベッド デカいから、そっち半分で寝てけよ。さっきまで寝てたんだし。」向こうを向いたまま小さな声で言った。

改めて自分を見てみると、石川さんが言った通り、なにかされたような形跡はなく、コートを着たままだった。

コートぐらい脱がしてもらっても良かったんだけど。

コートとジャケットを脱いでハンガーにかけて、ベッドに横たわって、また眠りについた。



 カーテンの隙間から漏れた光が、眩しく私の顔を照らしていた。

目が覚めた。

「おはようさん!」

石川さんが窓際に立って、タバコを吸っていた。

私はガバッと起き上がって

「おはようございます!昨夜は、大変ご迷惑をおかけしまして、申し訳ありませんでした!」と、頭を下げた。

「ハハハ!声でけーな、おまえ!それだけ元気なら心配ないな。昨日は、なんかヤバかったから。急性アルコール中毒とかで救急車呼ばなきゃなんねーかな〜とか思ったくらいだったけど。」

「全然記憶なくて。本当に、すみませんでした。」

「まっ、新人にとっちゃ、初めての年末でキツかっただろ。おまえ、よく頑張ったと思うよ。

さてと、腹減ったな〜!飯でも食いに行こうぜ!付き合えよ!中山!」

「あっ、はい!お供します!」

ホテルを出たのが9時半。

微妙な時間。

こんな時間だし、ファミレスかファストフード店かと思いながら歩いた。

繁華街から路地裏の狭い道を進んで行く。

どちらかと言うと、住宅街な感じになった。

こんなところに食べ物屋さんあるの?

石川さん、道間違えてんのかな?とか思いながら、石川さんの後ろを歩いた。

お寺か神社みたいな感じの門構え。

松の木が、なんてゆうのか、横に長く長く曲げられている。

玉砂利の上を歩き、建物の入口に、

[料亭 加賀美]と書かれていた。

支度中と看板が出ている。

石川さんは、勝手に中に入ると、

「女将!おはよう!悪いけど、飯食わしてー!なんでもいいや!!」と声をかけた。

奥から、着物を着た40代くらいの女将さんらしき人が出てきた。

綺麗な人だった。

「時間外の割り増し料金いただかないと。朝帰りかしら〜」と、笑い、どうぞ。と部屋に通してくれた。

まだ仕込み中だから、こんなものしか出せなくて。と女将さんは言ったけど、私にしてみれば旅館の夕食並みの豪華な料理といった感じだった。

これ!アワビなの?

朝からアワビって、すごくない?

ってか、柔らかい!!硬くないんだ!!美味しい!!

ホタテと数の子の、この松前漬けみたいなやつも美味しい!

石の上でジュージューいってる状態のお肉。

これ、レアでもいけるやつだから、もういいよ。と石川さんが笑った。

ちょっと!これはいくらなの?

これが朝食ですか?

なんだか、まだ、夢の中なのかな〜なんて思いながら、バクバク食べた。

昨日の夜の飲み会の時に、一体なにを食べただろう。

ろくに、なにも食べないで飲んでしまったから、実際ものすごくお腹がすいていた。

そして、こんな高級な料理で美味しくて、ほんとにバクバク食べてしまった。

「中山!いい食いっぷりだね〜!」

「あっ、すみません。すごく美味しくて。」

「あはは!美味しくて良かったよ。すみませんってことはないな。まっ、ゆっくり食べなよ。」


大人だなぁと思った。

とても仕事が早くて正確。

同じ部署の尊敬できる先輩と思っていたけど、本当に大人の男性なんだと改めて思った。

石川和哉さん

6こ年上の29歳


「おいくらお支払いすればいいですか?」

店を出て石川さんに聞くと

「後輩は、ご馳走さまでしたって言ってりゃいいよ!俺も散々先輩にゴチになってきたしな。

おまえも後輩が出来たら、おごってやれや。」と笑った。

「はい!ご馳走さまでした!とても、おいしかったです!」


最寄りの駅で別れ、マンションへ帰ってきた。










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