3ー2

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「ま、魔改造って……」


「褒められてるの? それとも馬鹿にされてるの、私?」


 相棒への微妙な評価になんとも言えない顔をする吹雪と、やや憮然とした表情の叢雲。そんな事は全く気にした様子のない先生は叢雲を吹雪へと手渡してようやくする。


「ま、コイツをカスタムした奴は超絶技巧と技術を持った奴だってことデス。二人共、精々仲良くやるデスよ」


「はい! 私と叢雲ちゃんは相性バッチリのコンビですから!」


「あのねぇアンタ……はぁ、呆れて物が言えないわ」


「ふふ、本当に二人は仲良しさんね〜羨ましいわ〜」


「真理と私も仲良しです! ふんすっ!」


「そうねアルテミス。私達の仲良しさん度も負けてないわね〜」


 いつの間にか出てきていたアルテミスは真理の肩によいしょとよじ登り、両腕を組みつつ頬を膨らませていた。そしてその頬を真理の指先で撫でられ、途端に表情を崩してしまう。


「……マスター……?」


「うん、私とヴェルグも仲良しだよ?」


 その隣では美空とフレイスヴェルグがイチャイチャしている。そんな光景に先生はハイハイお前らお熱い事で、と手をヒラヒラさせた。


「ところで吹雪とやら……お前、全然バトルドール・ガールズについて知識が無いデスね?」


「あっ、いや……まぁ……何せ初めて知ったのがついこの前なもんで……」


 てへへ、とちょっぴり舌を出す吹雪。それを見て先生は物凄く大きなため息を吐きながら、やれやれ仕方ないデスとコメディ映画に出てくる外国人のような大げさなリアクション。


「美空はこの様子だと知識面については恐らく問題無しデスね。もちろん、部長である真理も言わずもがなデス。と、言うわけでこれから特別講義を始めるデス!」


「へ? 特別講義?」


「そうデス。私は仮にもBDG部の顧問デスからね、これくらいは顧問として働いてやるデスよ」


「先生は仮、じゃなくてちゃんとした顧問よ〜」


「ちょうど良いじゃない。あんた、本当にドールについて何も知らないんだもの。仮のマスターだとしても、それじゃあ私のプライドが許さないわ」


「うう、むらくもちゃ〜ん……先生、よろしくお願いします……」




 * * *





「さて、それではドールの簡単な歴史から話すとするデスか」


 部室のホワイトボードの前に立ち、マーカーを手にする先生。その堂々とした立ち振舞と口調は確かに教師のソレであり、彼女が学校の先生だというのは間違いないようだ。


「……っ! ……っ! …………愛宕、例の物を持ってくるデス」


 真理は無言で踏台を持ってくると、ボードの前に置いていった。


(やっぱり届かないんだ……!)


(見た目通り、届かないのね……)


(まぁ、あの身長ですから……)


(計測中……結果:小さい)


「コホン。あー、小さいとか思った奴は今学期の成績をどんどん下げていくデス。データ改竄なんて朝飯前、学校のセキュリティなんて私に掛かればザル同然デス」


「わ、私は思ってませんよ!」


「ハイ吹雪、次の中間テストは現国と英語が10点マイナスになるデス」


「ええっ?!」


「吹雪ちゃん、話が始まらないから静かにね〜?」


「うう、私が悪いの……?」


 理不尽極まりない仕打ちに吹雪は机に突っ伏すが、先生はどこ吹く風。キュッキュとホワイトボードに何かを書き出していく。


「まず、バトルドール・ガールズの始まりは今からおよそ30年前に遡るデス。当時、初めて実用化された全固体電池を搭載し、最新鋭だった人格模倣AIを搭載した小型ロボット……それがバトルドールだったんデス」


「一番最初のモデルは女の子じゃなかったんですよね」


「そうデス。美空の言うとおり、最初期はバトルドール・ガールズという名称も無く、いわゆるアニメみたいなデザインのロボットが主流だったデス。それがいつしか今のような美少女フィギュア系のデザインに装甲や武装を施すように方向転換していったんデス」


「へぇ〜。もしかしたら叢雲ちゃんも今みたいな可愛い見た目じゃなくて、厳つくてトゲトゲした感じのロボットだったかもしれないんだね」


「私は嫌よ、そんなトゲトゲ。今の方が美しいじゃない」


 ふぁさ、と長く綺麗な銀髪をかき上げる叢雲。その姿は澄ました表情もあって、とても画になっている。


「ま、そんな方向転換もあって当初は男性人気が高かったバトルドールも次第に女性人気が高まっていったデス。その背景には女性エンジニアの台頭もあったと言われてるデスが、その根本は着せ替え要素が大きいデスね」


「着せ替え、ですか?」


「その叢雲が着てる巫女服がそうデス。要するに、ミカちゃん人形みたいに色んな服装をさせたりするのが女の子は好きだって事デスね」


「確かに叢雲ちゃんは何着ても似合いそうだよねっ!」


「ふ、ふん! 当然でしょ? 私クラスになると例え芋っぽい服装でも完璧に着こなしてみせるわ!」


「疑問を提示。いくら叢雲でも限界はある」


 叢雲は自信満々に言ってのけるが、フレイスヴェルグが冷静にツッコむ。そしてその横では何故かアルテミスがモジモジとしていた。


「着せ替えもそうですけど、私はヴェルグと色々お話するのが好きです。たぶん、そういう所も受け入れられた要因ではないでしょうか?」


「ふむ、美空の言う事も当たっているとされているデス。ドールは初期設定のままでもほとんど人間に近い受け答えが可能デスからね、バトルをせずに友達としてドールと接するマスターもかなり多くいるというデータもあるデス」


「そうね~私とアルテミスはバトルもするけど、昔から姉妹みたいに遊んでたわね~! どちらかというと家族みたいな感じよね~?」


「はいっ! 私と真理は家族同然です! 一緒にオフロだって入りますしっ!」


「えっ?! ドールってオフロ入れるの?! 水とか、大丈夫なんですか?!」


「何言ってるデス。ドールは高規格防水、例え間違えて洗濯機で洗っても水が内部に侵入することはないデスよ」


「うっ……! 洗濯機……何故かその単語は嫌いだわ……」


「だ、大丈夫?! 叢雲ちゃん?!」


「……もしかして叢雲の前のマスターは洗濯機で洗ったことがあるんデスか……?」


「いや、そんなまさか……とは言い切れない反応ですね」


「記憶は無い筈なのにね~。もしかしてAIに刻み込まれてしまってるのかしら?」


 その頭を抱える叢雲の仕草は人間と変わらない。こんな動作まで彼女のAIは再現してしまうのだろうか。


「ついでにドールの構造もレクチャーするデスかね。ハイ吹雪、ドールを構成する三要素、知ってるデスか?」


「ふぇっ?! か、可愛い! 強い! カッコいい!」


「……次のテスト、数学と理科基礎の点数が10点下がるデス」


「ガーン!」


「プロセッサー、固体電池、それとアクチュエータですね」


「んー、美空は優秀デスねー! 花丸をあげちゃうデス。この三つはそれぞれが頭脳プロセッサー心臓固体電池筋肉アクチュエータの役割を果たしているデス」


「えーと、つまり……?」


「つまりデスね、プロセッサーはドールのAIが考えたり経験を蓄積する機能そのものデス。高度な半導体技術によってこの小さな体に搭載できるほど小型化されたハイスペックパソコンみたいなもんデス」


「そして全固体電池は従来のリチウムイオン電池よりも高出力で高い安全性、そして高い形状自由度を持っているのが特徴ですよね」


「その通りデス。ドールの腹部に収められている全固体電池はその高い性能により、今や日常生活のあらゆる所に使われているデス。お前達が持ってるスマホも随分軽くなってるデスが、それも全固体電池のお陰デスよ」


「そして~、ドールたちが縦横無尽にバトルフィールドを駆け回れるのは人工筋肉とも呼ばれる有機ポリマー繊維で出来たアクチュエータによるものなのよ~?」


「えっと、そのアクチュエータって何ですか……?」


「アクチュエータとは、信号やエネルギーを機械的な運動に変換する機構の総称デス。つまりショベルカーの腕を動かす油圧シリンダーが分かりやすい例デスかね? もちろん、人間の筋肉も広い意味ではアクチュエータの一種と言えるデス」


「ははぁ、なるほど。で、なんで有機ポリマー繊維?が関係してくるんでしょうか!」


「ドールの小さな体には油圧ポンプは不適切。小型化しにくい上に出力特性の相性が悪いんです。しかし、高機能有機ポリマーとエンジニア特殊プラスチックの複合材で出来た人工筋肉は生物のように素早く、そして強い力を発揮できるため、ドールのアクチュエータとしては最適なんですよ」


「な、なんだか難しい話……!」


「あー、美空。吹雪にはもう少し簡単に説明してやった方が良いデス。要するに、人工的に作った人間みたいな筋肉をドールたちは持ってるデス」


「なるほど! 多分、分かりました! だから叢雲ちゃんはいつも柔らかくて可愛いんですね!」


「あんた、本当に理解してるんでしょうね……?」


 元気よく手を挙げて分かったとアピールする吹雪。それを見て苦笑いする一同。叢雲の言うように、本当に理解しているかは甚だ疑問だ。



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