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「あとは武装や装甲についてデスかね?」


 そういうと先生はドールの武器や各種装甲が収められた箱を持ってくる。その中からいくつか取り出すと、叢雲へと持たせた。


「んー、私は射撃武器ってどうも趣味じゃないのよね。別に嫌いってわけじゃないけれど」


「その辺の好みはAIのセッティングや経験値による傾向のバラつきデスね。とまぁ、そういった話は置いといて……バトルドール・ガールズはこうやって武器を持たせて戦わせるのが一つの遊び方デス」


 叢雲は渡されたメカメカしいライフル銃のような武器を構えてポーズを取っている。趣味ではないと言っているが、その射撃姿勢はなかなか堂に入っていて様になっていた。


「はいはい! バトルだと本物みたいな音と光が出て凄かったです!」


「あ~、そうデスね。あのバトルフィールドの映像と音響効果はちょっとしたものデス。あれだけの臨場感を演出できる機材はそうそうないデスね」


「それがBDGの流行った原因でもあります」


「そうね~私も昔、初めて見た時はあまりの迫力にビックリしちゃったわ~」


「フィールドに搭載されている高性能コンピュータのお陰デスね。各ドールと無線通信で情報をやり取りし、リアルタイムで映像投影する技術デス。最近だと美術館や博物館なんかでも同じ技術を使って世界遺産とかの普段は見れない内部を覗けるイベントやってたりするデスね」


「はぇ〜すっごい技術なんですね〜」


「と、話が脱線したデス。ドールの武装は基本的にBDプラと呼ばれるプラスチック材料で作られてるデス。これはドールの素体にも使われてるエンジニアリング特殊なプラスチックの一種デスね」


「比較的、工作性と強度が良いんですが……お値段が高いんですよね。私のお小遣いじゃあ沢山買えない……ごめんね、ヴェルグ」


「そんな、マスターが謝る事じゃない」


「そうよ〜普通のプラスチックで試作してからBDプラで本番を作るのが主流ね〜」


「愛宕の言うとおりデス。普通のプラ製武器もそこそこ使えるデス。ところで、コイツらの武装はもう作製してあるんデスか?」


 先生が叢雲とフレイスヴェルグの方を見る。今は二人共、通常の衣装……叢雲はいつもの巫女装束、フレイスヴェルグはピッタリとした水着のようなバトルスーツだ。


「ふふふ……実はようやくヴェルグの装備が完成しまして……!」


 美空のいつもは涼やかな目元が急に鋭くなり、まるで漫画かアニメのようにキラリと光る。そして流れるような動きでスクールバッグの中から別のケースを取り出した。


「ヴェルグ、ちょっとこっちに来て」


「了解、マスター」


 美空とフレイスヴェルグは部室の隅に行くと、何やらゴソゴソしている。どうやら完成したという装備を取りつけているのだろう。


「これが私のフレイスヴェルグ・バトルモードです」


「装着。ふんす!」


 美空の手のひらに乗っているのは、先ほどまでとは見た目が全く変わったフレイスヴェルグだった。


 大きな特徴はその背後に背負ったメカメカしい翼で、今は鳥がするように折り畳んではいるが広げればかなりの翼面積になりそうだ。頭部にも鋭いくちばしを模したヘルム状の装甲が取り付けられ、全体的に力強い猛禽類を思わせるシルエットだ。そしてブラックとシルバーをメインにしたカラーリングはその鋭利さと孤高の雰囲気を醸し出す。


「わぁー! ヴェルグちゃん、カッコいい! 強そう!」


「凄いわ~! 飛行型は上級者向けのカスタムだけど美空ちゃんとヴェルグちゃんなら上手く扱えそうね~」


「ふむふむ。フレイスヴェルグとは北欧神話で鷲の姿をした巨人と言い伝えられてるデス。その名前の通りのカスタムを施したデスね!」


「そう、マスター美空は凄い。もっと褒めてあげて」


 美空が褒められるとまるで自分の事のように嬉しいのか、フレイスヴェルグは誇らしげに胸を張る。その表情は殆ど変わらないが、よくよく見れば口角がやや上がっていた。


「ヴェルグはその素早い動きと様々な戦局への適応力を重視しています。メインウエポンはこの二丁のマシンピストル、フギンとムニンを駆使しつつ、空からの中距離支援を軸に戦うスタイルを目指しました」


 腰のホルスターに納まっていた二丁拳銃、『フギン』と『ムニン』をさっと抜き、まるで映画に出てくるカウボーイのようにくるくると指で回してみせた。ハンドガン、にしてはやや大きいソレは見た目に反して取り回しが良さそうで、ドールにしてはやや細身のフレイスヴェルグでも難なく扱えている。


「他にも色んな武器を収納できるウェポンベイを備えています。上空からの爆撃や弾薬などの補給物資を搭載する予定です」


 フギンとムニンのホルスターの下部、腰を取り囲むようにして少々大きめの箱が取り付けられている。どうやらスラスターユニットも兼ねているようで、見ようによってはドレスのようなスカートにも見えた。


「これ、全部美空が作ったの? 一人で?!」


「う、うん。時間は掛かりましたけど、ようやく納得のいく出来に……」


「凄いよ、凄いよ! こんなに凄いの初めて見たよ!」


 美空の手を取り、キラキラとした顔を見せる吹雪。少し面食らってしまった美空も、少し照れた表情になる。


「ふーん? 確かに良さそうな装備ね。空を飛べるのはちょっとだけ羨ましいかも」


「私は重武装なので飛んだり跳ねたり出来ないから素直に羨ましいです! 真理?!」


 叢雲とアルテミスもフレイスヴェルグの武装をまじまじと見つつ、それぞれの感想を述べる。


「そうね〜? 私も市販のパーツで飛行ユニットを組んでみようかしら〜?」


「と、そろそろ話を纏めるデスよ。バトルドール・ガールズの武装は大きく分けて二種類の作り方があるデス。一つは市販のパーツを買ってきて組み立てる方法デスが、汎用性と拡張性が良く、丁寧に作るだけでかなりの戦力になるデス。その反面、ワンオフ一点物のフルスクラッチには性能が及ばないデスね」


 キュッキュと先生がマーカーでホワイトボードに書き込んでいく。こういう姿は本当に先生らしい。


「そしてもう一つがこのヴェルグちゃんのようにフルスクラッチ武装デス。これは高い工作技術、時間と費用も掛かるデスが、極まれば強力な武装が出来上がるデス。世の中にはこれを専門とするネット業者もあるくらいデスねー。欠点はドールのAIが武装の習熟に時間が掛かるのと、製作者の腕が如実に現れる点デスかねー」


「それに加えて中級者は市販パーツを自分好みに改造したり~、複数のキットをミキシングしたりするわね~」


「真理センパイ! ミキシングってなんですか?!」


「ミキシングっていうのはね、色んな汎用パーツから自分とドールに合ったパーツを抜き出してまぜこぜに装備させる事なの~。キメラ装備って言ったりもするわね〜」


「ははぁ……なるほど。私はぶきっちょだし、こういう工作はやったことないからなー。もう初めて聞く単語ばっかりだよ」


 先生や真理の解説にうんうんと素直に聞いている吹雪。その人懐っこい様子はまるで可愛らしい子犬のようで見ていて飽きない。


「大丈夫ですよ、最初は誰でも初心者。吹雪さんにやる気さえあればすぐに上達します。私もそうでしたから」


「うん、そうだねっ! 美空、真理センパイ! 私にもっと、バトルドール・ガールズの事を教えて下さい!」


「あらあら、これは気合が入ってるわね〜」


「張り切るのは良いデスけど、もうそろそろ下校時間デスよ。戸締まりなんかは私がやっておくデスから、お前らはもう帰るデス」


 先生に言われて外を見ると、既に夕日が真っ赤な街並みに沈みかけていた。先生の解説に夢中になっていた為か、あれからだいぶ時間が経っていた事にようやく三人は気づく。


「わわっ、もうこんな時間?!」


「いつの間に……ヴェルグ、そろそろ帰ろう?」


「早くしないと暗くなっちゃうわね〜。みんな、忘れ物はなーい?」


 それぞれは自身のドールにケースの中に入って貰うと、一旦スリープモードになってもらう。ドールに傷が付かないようクッションが敷かれているケース内だが、本人たち曰く真っ暗な所で目を覚ましたままだと退屈らしい。かといってそのまま外に出したまま道を歩いていては落としたりして危ないので、多くのマスターはこうして専用ケースを用意している。


「お疲れ様でーす! それじゃあまた明日!」


「吹雪さん、先輩、先生、それでは失礼します」


「それじゃあね〜、気をつけて帰るのよ〜?」


「お前ら、ちゃんと宿題はやるデスよ! 特に吹雪、お前は今度のテストで謎の減点があるんデスから、少しでも勉強しとかないと赤点確定デス!」


「うぇえ?! あれって有効だったんですか?!」






 * * *





 夕暮れの赤から、夜の青黒い空に変わる。しんと静まり返ったBDG部の部室には、先生が一人作業机に座って何かの書類を眺めていた。部屋の照明は消してあり、今は机に備え付けられている作業灯のいやに白いLEDが先生の顔を照らす。


「はぁ、これも時代の流れってやつなんデスかねぇ……」


 そう呟いて机に投げた何枚かの書類。そこには「部外秘」の大きな文字が。


「ま、私にはどーする事も出来ないデス。大人しく教師を続けるか……それとも大学の研究室にでも戻るとするデスかね? 身の振り方は早いうちに決めるが得策デス。……大人は別にいいデスけど、生徒らはどういう反応を示すデスかね……」


 諦めとも、憐憫ともつかない目。その視線の先には先程の書類が。


「……まさか、この学校がの対象になるとはデス」





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