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「あの……結局、ドールとかBDGって、なんですか?」
吹雪の質問に愛宕はコホンと小さく咳払いし、手のひらにアルテミスを乗せた。
「
「あはは……その、両親の仕事の都合で日本と海外を行ったり来たりでして……」
「あら、そうなの。最近になって海外版がリリースしたらしいから仕方ないわね~」
「バトルドール・ガールズとは、全長15cmの小型ロボット……ドールをカスタマイズしたりバトルさせたりする次世代型eスポーツの事です、吹雪さん」
「eスポーツ? あれって、ゲームとかそういうのじゃないの?」
「そう、eスポーツが生まれた頃はテレビゲームなどに一定のレギュレーションを設けた競技を差していました。現在ではロボコンやドローンレースなども広義のeスポーツに含まれ、それに加えてAIを組み込んだ競技も該当しますね」
「あらあら、葛城さんは詳しいわね。もしかしてBDG経験者かしら?」
「そうなの? 美空?」
と、ここまで淀みなく解説をしていた美空だが少し言葉に詰まり、さらに頬が赤く染まる。
「そ、その……少しだけ、です」
「あら~可愛らしい! もしかして、今日も一緒に連れてきてたりする?」
「……じつは」
少しもじもじした後、美空はスクールバッグの中から厳ついミリタリーデザインのケースを取り出す。蓋を開けるとそこにはウレタンフォームに包まれ、静かに眠っている人形が。アルテミスと同じサイズだが、顔つきや髪型、体型や来ている服などは異なっている。
「ふわぁ、かわいい!」
「まぁまぁ! 素敵な娘、なんていう名前なの〜?」
「……フレイスヴェルグです。ヴェルグ、起きてちょうだい?」
美空はフレイスヴェルグを手のひらに乗せると、頬の辺りをチョイチョイとつつく。すると、小さな目がパチリと開き、素早い動作で立ち上がった。
「スリープモード解除。フレイスヴェルグ、ただいま起床」
「ん、おはよ」
美空の顔を見つめるフレイスヴェルグ。その横顔は美空とどことなく似ているような気がする。腰まで届きそうな黒く長い髪の毛を美空とお揃いのツインテールにし、黒と銀を基調としたピッチリしたスーツを着ている。まるで競泳水着みたいなデザインがアルテミスと同様なのは、そういう仕様か何かなのか。
そのキリっとした目元や口調からもクールな雰囲気が漂う。顔立ちだけでなく性格も美空に似ているのかもしれないと吹雪が密かに思ってしまうほどだ。
「おお……! 動いた!」
「見慣れない人物を認識。マスターの友達?」
「そう。こっちが同級生の神代吹雪さん。こちらが愛宕真理先輩と、そのドールのアルテミスさん」
「どうも初めまして。マスター美空のドール、フレイスヴェルグです。ヴェルグちゃんの事は気さくにヴェルグちゃんと呼んで」
「可愛らしい娘ね~! それにかなりカスタマイズされてるようだし……元のキットが何か分からないわ」
「よろしく、ヴェルグちゃん!」
吹雪が人差し指を差し出すと、ヴェルグはすぐに意図を理解して小さな手で握手する。
「この娘は……兄から貰ったドール一式を私がずっとカスタムしてるんです。今日は持ってきてないんですが、武装も一から全部」
「まぁ、武器も? フルスクラッチは大変でしょう~? 私はあんまり得意じゃないから羨ましいわ〜」
「武装? フルスクラッチ?」
「あ、ごめんね。その辺も説明しなきゃ〜」
そう言うと真理はアルテミスを近くの机の上に降ろす。美空もフレイスヴェルグを机に降ろすと、二体のドールは互いに握手を交わし挨拶をしている。
「バトルドール・ガールズはさっきも言ったようにeスポーツの競技なの〜。その基本は彼女たちのAIと武装をカスタマイズすることね。バトル中、私達マスターはドールたちへ指示することしか出来なくて、その都度に彼女たちが自分自身で考えて行動するの。そういう競技形式だから、ロボコンなんかが近いかしら〜?」
「AIは市販のものに各種
「そうね~。今ではAIエンジニアの基礎学習に用いられているわ。例えば、機械学習やデータ解析の初歩なんかも勉強できるわね。難易度が上がっちゃうけど、感情や性格を司る人格アルゴリズムなんかも弄れちゃうわ~」
「おお! 人工知能! ……なんか、私には難しそうです……しょぼん」
「大丈夫。今は学習用に簡易化されたり、スマホアプリでも組めるようにモジュール化されているのが特徴ですね。それにBDGの公式WEBページにアップされているフォーラムを読めば一通り組めるようになっています」
「へ、へぇ……なんだかややこしい単語がたくさん……」
「まぁ、ドールのAI関連は本格的にやり出すと『沼』って言われるくらいに奥が深いからね~。でも、弄り方によっては目に見えて性能に影響が出るのよ?」
聞き慣れない単語を立て続けに聞きすぎて、少々グロッキー気味の吹雪。そこへアルテミスが机の上をトコトコ歩いて近づいてくる。
「それからドールの武装も大事です。私の武器はマスターである真理が一つ一つ丁寧に作ってくれたものなんですよ? ほら、このミサイルコンテナも」
「少し拝見……ふむ。搭載量と重量バランスがよく取られている。良いカスタム」
フレイスヴェルグがアルテミスのコンテナを観察する。吹雪にはそのバランスというものがよく分からなかったが、嬉しそうな真理とアルテミスの反応を見るにこだわりポイントを見抜いたのだろう。
「ちなみに私ことヴェルグちゃんの武装は全て美空が作ってくれた。フルスクラッチという、プラ板やパテと呼ばれる樹脂を工作してオリジナルの武器や装甲を製作する方法」
「へぇー! 美空ちゃん、手先が器用なんだね! 羨ましいなぁー、私ってば細かい作業が苦手で……」
「大丈夫、市販のパーツでも使いこなせば強力ですし、バトルで一番重要なのはマスターとの信頼関係です! その点でいえば私と真理はとっても強いですよ!」
えっへん、と大きな胸を張るアルテミス。その自信の裏には彼女が言うようにマスターである真理との絆はとても固いようで、二人は顔を合わせて頷き合う。
「あの、そもそもの質問なんですけど……なんでこの娘たち、ドールを戦わせるんですか? 危なくありません? ミサイルとか、ビームとか当たったら痛そうですし」
吹雪の質問に思わず美空と真理は顔を見合わせる。
「う〜ん、改めて言われると答えに困るわね……バトルドール、って言うくらいだから、戦闘させるのが当たり前なところがあるわね」
「私はカスタムしかやった事ないです。バトルは未経験者なのでなんとも言えない……」
「あら、そうなの? それじゃあ百聞は一見にしかず、言葉で説明するよりも二人共、実際にバトルしてみない?」
両手をポンと合わせ真理が提案する。思わぬ展開に吹雪と美空は思わず目が点になってしまった。
「へ? いやいやいや、私、そのドールっての持ってませんよ真理センパイ?!」
「あの、ヴェルグの武装は家に……」
「大丈夫、部のを貸してあげるわ〜! それと、今回は初めてさんが二人ですからね〜アルテミス、手加減してあげてね?」
「了解です、真理っ!」
見た目とは裏腹になかなか強引に話を進めていく真理。アルテミスもやる気十分といった様子で、これでは断るに断れない雰囲気が出来上がっていた。だが、吹雪の心の内ではすでにバトルドール・ガールズへの興味が沸いており、ここまできたらやらなきゃ損だと即座に判断する。
「それじゃあ……お願いします! 真理センパイ! ね、美空もやってみよう!」
「そう……そうですね。分かりました、私もよろしくお願いします」
「あらあら、それじゃあ早速準備に取り掛かりましょう~!」
「マスター、見て。ここのパーツはなかなか良い物だと判断する」
そうと決まれば話は早い。フレイスヴェルグは真理に出してもらった装甲パーツや各種武装が収められているプラケースの中を吟味している。
「……そうね、これなら十分に戦えるかもしれない。愛宕先輩、いくつかパーツをお借りします」
「どれでも好きなの使ってね〜。それから吹雪ちゃんにもドールを貸してあげないとね。ちょっとこっちに来て頂戴〜」
そう言うと真理は部室の奥へと歩いていくので、吹雪は彼女の後ろをついていきながら部室を眺める。全体的に掃除がされてはいるものの、並べられた作業机の上には工具や作りかけのパーツらしき物体、戦車や戦闘機、車にバイク、それからロボット?のプラモデルなどが飾られていた。壁の方にはドールらしき少女のポスターが貼ってあったり、少し秘密基地のような独特の雰囲気が漂ってくる。
「今、うちの部にあるのはこの三体よ。基本的な設定は済んでいるし、BDGのバトルを理解するには十分な性能を持っているわ〜」
愛宕が取り出したのは、フレイスヴェルグが入っていたのと似たようなケースが三つ。蓋を開けてみると、それぞれ特徴が異なるドールが。
「うーん、選ぶとなると迷っちゃうなぁ……どの娘がいいのかな?」
「それぞれ近接格闘、中距離支援、長距離射撃が得意なの。初心者なら近距離のこの娘がオススメかしら?」
「へ〜なんだかよく分からないですけど、どの娘もかわいいですね〜。……あれ?」
と、吹雪の視界にはもう一つ、ドールが納められていると思しきケースが。長い間、放置されていたのか薄っすらとホコリを被っている。
「先輩、こっちのケースは?」
「ああ、それね。それにもドールが眠ってはいるのだけれど……」
微妙に歯切れの悪い真理を不思議に思いつつ、吹雪はそのケースを取り出し蓋を開けてみた。
「……わぁ!」
そこにはやはり、ドールが静かに眠っていた。
青みがかった銀髪と、気の強そうな整った顔立ちが特徴的なドール。そしてアルテミスやフレイスヴェルグとは異なり、青い袴が特徴的な巫女装束を着ている。装束は布製で非常に細かく作られており、本当に着せ替え人形のようにも見えてしまう。
吹雪は何故か、このドールから目が離せなくなってしまった。初めて見るはずなのにどこか懐かしいような、奇妙な感覚。
「あの、先輩! この娘……!」
「うーん……この娘はね、起動出来ないのよ〜」
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