第一章 ツンデレメカ少女はポジティブ能天気マスターの夢を見るか?
第一話「あんたが私のマスター?」
第一話
桜の季節。薄いピンク色の花びらが風に舞い散る。
ちょうど入学式と桜の開花が重なった四月の初め。
「ふわぁぁぁ……」
桜並木から見える桜が丘第一高等学校、その校舎を見ながら目を輝かせているブレザー姿の少女が。あまりに感動しているせいか、大きな口を開けたまま。キラキラとした眼差し、真新しい制服とまだ少し硬いスクールバッグ。
「今日から私も……高校生だ!」
教室では落ち着かない様子の新入生らが電子黒板のディスプレイに表示された自分の席に着いている。辺りをソワソワと見渡す者、同じ出身中学で運よく近い席になった者、すでに共通の話題で友達を作っている者……さながらピカピカの高校一年生、といった所か。
そんな中、窓際の席に座る一人の少女は外の景色を見つめていた。先ほどの大きな口を開けて校舎を見ていた少女だ。明るい茶色の髪は少し癖っ毛なセミロング。髪と同じ茶色の瞳は映るものがなんでも新鮮に見えるのか、放っておけば一日中外を眺めていそうだった。
「あの」
突然声を掛けられ、ビクリと肩を震わせる。声の主は隣の席に座っている少女からだった。少し小柄で可愛らしく、ツインテールにした濃い黒髪はツヤツヤのサラサラ。それでいてクールな表情と佇まいが良いギャップを生み出していた。
「お隣、よろしくお願いします。私は
「あっ! はい! こちらこそよろしくお願い
茶髪の少女は思い切り噛んだ勢いそのままに、ペコリと頭を下げる。
「あわわ、えっと、私は
「神代さんは面白い人ですね?」
「あはは……よくおっちょこちょいって言われるよ……私のことは吹雪って呼んで、葛城さん」
「こちらこそ、美空と呼んでください。吹雪さん」
ちょっとした緊張もほぐれ、柔らかい雰囲気に包まれる。
「ところで、何を見ていたのですか?」
「え? ああ、外の桜をね」
そう言うと吹雪はもう一度校庭の向こうに連なる桜へと視線を向けた。
「いやぁ私ってば、まともに学校通うの久しぶりなもんで……こういうドラマのワンシーンみたいな、入学式に桜が満開って本当にあるんだって思っちゃって」
「もしかして吹雪さん、中学まではオンラインスクールですか?」
「そうそう、両親の仕事の都合で。だから高校はちゃんと通いたかったんだ~」
と、その時。教室の戸が開き、担任教諭らしき若い女性が入ってきた。
「皆さん、初めまして。私が担任の――――」
* * *
二十一世紀も半ばを過ぎたが、それでも校長先生の話というものはいつの時代も退屈で眠くなる。あっという間に入学式は終わり、再度教室に戻って担任教諭から各種説明を受ければあっという間に夕方だ。
茜色に染まる廊下、吹雪と美空は配布されたプリント類がぎっちり詰まったスクールバッグを手に、下駄箱へと向かう所だった。
「ねぇ、そういえば美空は部活動ってもう決めた?」
「いえ、まだです。一通り部活紹介を見てから決めようかと」
「うーん、私はどうしようかな~。部活って初めてだから、何を基準に決めていいのか分かんなくってさ」
すっかり吹雪と美空は打ち解け、気軽に会話できる仲になっていた。美空の丁寧な口調は生来のものであり、雰囲気は友人と話すそれ。
「吹雪さんは何か運動が得意ですか? それとも楽器が弾けるとか、何か特技があればそういう部活に所属するのが一番だと思いますよ」
「う、運動はちょっと……楽器も全然やったことないしな~特技……特技?」
吹雪は腕を組みながら思考を巡らせる。自慢ではないが、吹雪には特技と胸を張って言えるようなものが特にない。そんな彼女の分かりやすい表情を見て、そのように想像してしまった美空は思わず笑みがこぼれそうになった。
「それでしたら、やっぱり部活紹介を見てから自分に合いそうなものに決めては?」
「うーん、そうだね~……って、アレ?」
ふと吹雪は廊下の外へ視線を移す。
「どうしました?」
「うん、あれって部室棟だよね? 今日は入学式だけだから、一年生以外は登校してないはずなのに……」
吹雪が指さした方向、部室棟の一階にある部屋の窓が何やら色とりどりにチカチカと明滅している。入学したばかりの一年生には用がない場所であり、いくら顧問の先生でも今日ばかりは立ち寄る筈がない。
「照明の消し忘れかな?」
「まさか……」
「念のため、行ってみよ!」
言うが早いか、吹雪は廊下を走りだす。それを慌てて追いかける美空は思わず大きな声を出してしまった。
「吹雪さん、そっちは行き止まりです!」
* * *
「はぁ、はぁ、ようやくたどり着いた……!」
「もう、吹雪さん……まだ校舎の配置を覚えてないのに走り出すんですから……」
「あはは、ごめんごめん。つい身体が動き出しちゃって」
二人は人気のないの校舎を右往左往し、どうにか目的の部室棟へと着いた。例の部屋からは何かの騒がしい音と、やはり何か照明のような光が漏れていた。
「やっぱり誰かいる……よね?」
「他の部室は無人のようです。いったい何故……?」
美空は顎に手をやり、コクンと小さな顔を傾げる。吹雪はそんな彼女を見て、まるでお人形さんみたい、という言い回しはこんな感じなのかな、と思いつつ。
「考えても仕方ないし、とりあえず開けてみよう! 失礼しまーす!」
「あっ、吹雪さん!」
勢いよく扉を開き、吹雪は部室へと足を踏み入れた。すると……。
「ふわぁぁぁ……凄い!」
部屋の中央には大きな円形をした台座が鎮座しており、その上に大小様々なブロックが積まれ、さらにはいくつものレーザー光線が飛び交っていた。赤や緑、青色といった派手なエフェクトがあちこちで弾け、吹雪の目にはさながら花火のようにも映った。
「ちょっと吹雪さん、勝手に……あれ? これってBDGの……?」
「え? びーでぃーじー?」
聞き慣れない単語に思わず吹雪は我に返る。と、部屋の中にいた人物が吹雪と美空にようやく気が付いた。
「あらあら? お客さんかしら?」
台座の向こうから現れたのはおっとりとした雰囲気を纏った、いかにも年上のお姉さんといった女性だった。
二人と同じブレザーを着ていることから同じ学校の生徒だと分かるが、胸元の赤いタイが示すのは彼女が二年生だという事。ちなみに一年生は青で、もちろん吹雪と美空はそれを結んでいる。
その二年生はゆるふわボブカットの濃い茶髪が女性らしさを醸し出し……いや、胸のふくらみなど含めて全体的に女性らしい身体つきで、思わず吹雪と美空が見惚れてしまうほどだった。赤いセルロースアセテートの眼鏡を掛けた日本人らしい顔立ちだが、よく見れば瞳はキレイなグリーンをしている。ひょっとしてハーフか何かだろうか。
「あ、あの! 勝手に入ってごめんなさい! その、この部屋で照明か何かが光ってるのが見えて、ちょっと気になって……」
「先輩、申し訳ありません。すぐ出ていきますので……」
吹雪と美空がペコリと頭を下げると、おっとりお姉さんはふんわりとした笑顔を二人に向ける。
「いえいえ、別に問題ないわよ~。むしろ私が謝らないといけないわ、ごめんなさいね~。……もしかしてあなた達、一年生? 入学式はもう終わったハズだけれど……?」
「はい、さっきまで教室でお話していて、これから帰る所でした」
「あのう……コレ、一体なんですか?」
吹雪はさっきから台座の方をチラチラ見ており、あれが何なのか気になるようだった。
「あら~? あなた、もしかしてBDGを知らないの?」
「あはは……」
「あれはバトルフィールドですね。最新鋭のプロジェクションマッピングと物理演算処理で、現実さながらの空間を再現できる装置です」
「あら詳しいのね。そうよ、あそこでドールたちを戦わせるの。私もついさっきまでトレーニングしてたのよ、おいでアルテミス~」
戦う? どーる? あるてみす? 吹雪の頭上にはクエスチョンマークがいくつも渦巻いている。
「……どうしました真理? 早く訓練の続きをしたいのですがっ!」
と、どこからか女の子の声がする。しかし吹雪がいくら探しても、少し広めなこの部室にどこにも人影は見えない。一体どこから……?
「あ、こっちこっち。紹介するわね、この娘がアルテミス。私のドールよ」
そう言って台座……バトルフィールドに積まれたブロックの向こうから
目の前のお姉さんと同様のグラマラス体型が窮屈そうなぴっちりスーツを纏っており、それは濃いグリーンの競泳水着を着ているようにも見える。その上にはやたらゴテゴテした装甲のような物や何かのコンテナがくっついていた。背中には大きな箱のような物を背負っており、何やら大きな銃や砲身も見えるのが少女とのアンバランスさとギャップを感じさせた。
「初めまして、私がアルテミスです! それから真理、貴女も自己紹介した方が良いですよっ」
「あらあら、すっかり忘れていたわ~! えっと、改めまして。私は
「私は神代吹雪です!」
「葛城美空です。よろしくお願いします」
「さて、お互いに自己紹介も済んだことだし……まずはドールの説明をした方がいいかしら~?」
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