症候群

 とある診療所。


「はい次の方どうぞ」

「失礼します」


「こんにちは、今日はどうされましたか?」

「こんにちは。あの、最近、動悸と言うか、胸騒ぎがする時がありまして」


「ほう、それはどう言った時に?」

「あのですね、その、低い音、ああ、例えば太鼓のような音を耳にした時、あ、でも逆に高い音でも、風を切る音みたいな」


「笛の音のような?」

「あ、そうです。そう言うのを聞いた時に胸がざわつく感じがすると言うかですね、こう、ドキドキと妙に動悸がするんです」


「んー、なるほど。ちょっと簡単なテストをしてもいいですか」

「テストですか、はい」


「私が言った言葉のあとに続く言葉を答えて下さい。いいですか?」

「はい」


「では行きますよ。まずは、リンゴ」

「アメ」


「キン」

「ギョスクイ」


「エン」

「ニチ」


「はいはいはい、分かりましたよ」

「本当ですか先生」


「これは典型的な祭り症候群ですね」

「祭り症候群!?」

「はい。試しに同じ質問を私にしてみてください」


「え、あ、はい、えと、じゃあ、リンゴ」

「ジュース」


「キン」

「ニクマン」


「エン」

「高ドル安。ね」

「ほ、本当だ……。祭りと関係のない言葉ばかりだ……」


「最近多いんですよね」

「え、せ、先生、僕は大丈夫なんでしょうか?」


「まあ、そんなに心配することはないですよ。恐らく一般的なN型ですしね」

「N型!?」


「ええそうです、夏、祭り症候群です。N型は季節性のものですから」

「はあ、季節性なんですか、あの、ちなみにN型以外にもあるんですか?」


「ええ、色々ありますが、近い物としてはS型ですかね」

「S型?」


「はい、サマーバケーションシンドロームです」

「サマーバケーションシンドローム!? 結構違くありません? これは一体どう言う?」


「大体長期のキャンプに出掛けますね」

「長期のキャンプに……」


「こじらせると旅先で殺人鬼に出会いやすくなります」

「恐くないですかそれ!?」


「あと注意すべきなのはA型ですかね」

「A型? 秋、祭り症候群ですか?」


「いえ、あとの祭り症候群です」

「あとの祭り症候群!?」


「これは恐いですよ。何をやっても手遅れと言うね、致命的です。例えば」

「あ、いいです恐いんで、本当に」


「そうですか」

「はい」


「一度自分が見た患者さんでは合併症になっている方がいまして、夏休み明けにとんでもない格好で学校に……」

「本当にいいです!」


「そーですか……、まあ、じゃあとりあえず祭りばやしのASMR音源処方しておきますね。落ち着かなくなったら聞いてください。あとビタミン剤も出しておきます」

「ビタミン剤もですか?」


「ええ、最近食生活はどうですか?」

「食生活ですか? えーと、コンビニでフランクフルト買ったり、焼きそばとか、たこ焼き、デザートにかき氷とか……、ああ!!」

「ええ、そう言うことです」


「あ、あの、先生、実はあともう一つだけ気になる症状があって」

「なんです?」

「31って言う数字が恐いんです」


「ああ、夏休み症候群ですね。合併症になってるかも知れないですね」

「夏休み症候群と合併症!?」


「夏休み明けにハッピ来て学校に……」

「早く治してください!」

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