第10話 『なりそこない』の彼女たち
――すべての光を呑み込んでしまうような、暗い暗い夜。
王都から離れたシエンナの森では、『なりそこない』と呼ばれる異形の女たちが、ゆらゆらと身体を揺らしながら彷徨っている。
オオォ………オオォ……と、木枯らしのような声で呻きながら、視線を宙にただよわせて、亡霊のように歩いている。
そんな彼女たちの群れを、遠くから見つめるこどもが一人いた。まだ年端もいかぬ小さな少年だ。
「……母さま!」
少年の声に、ひとりの「なりそこない」が振り返る。
「ア……ア……!!」
少年を見た途端、彼女の目には涙が溢れ、異形の手を伸ばして、彼を抱きしめようとした。
……だが、彼女の手が少年に触れようとしたまさにその時。突然、飛んできた矢が、彼女の心臓を貫いた。
「アァ……??? ギャアアアアアア!!」
仲間を撃たれた『なりそこない』たちが矢の飛んできた方を振り返ると、神官戦士団が並んで弓を構えていた。
闇を斬り裂くような悲鳴をあげて、倒れる『なりそこない』に、少年は心配そうに駆け寄った。
「母さま……? 母さま!!」
「……ニ、ニゲ……」
「い、いやだよ! 母さまを置いてなんか行くもんか」
少年がしがみつくのを、『なりそこない』は突き飛ばした。少年が突き飛ばされた瞬間に、『なりそこない』の彼女に雨のように矢が降り注ぎ、黒い身体を蜂の巣にしたのだった。
「アギャアアアアア!!」
怒った『なりそこない』たちが腕を振り上げ、突進して神官戦士団たちに反撃しようとするが。遠距離からの弓矢の一斉攻撃に成すすべもなかった。
「撃て!!撃て!! 醜悪な『なりそこない』たちを殲滅するのだ! 聖女様を煩わせないようにな!」
「あの時はよくもやってくれたな。だが本物の聖女様のおかげで、我々はこの通りピンピンしている」
「おとなしく死ね、バケモノどもめ!」
「これも、女神ユーフェリア様の思し召しよ!」
神官戦士たちは、自分たちの正義に酔いしれながら、弓矢を撃ちまくった。彼女たちがバタバタと倒れていく様が痛快で仕方がない。
「ウギャアアアアア!!」
『なりそこない』たちの断末魔の叫びが、夜のしじまに響いた。
「おい、こどもが一人逃げたんじゃないのか」
「構わんだろう。これを人に話したところで夢だと思われておしまいだ」
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