スカーレット、日本の小学生と入れ替わる
第22話 スカーレット、小学校へ行く
2018年の日本人の少女、後藤明日香と入れ替わってしまった、スカーレット・バイルシュミット。
どうやらここは、フェトラ王国とはまったく異なる文明をもつ、異世界というものらしい。何故か言葉はわかる(文字が違うことはわかるが、何故か読めるし相手の言葉もわかるのだ)ので不自由はしないが。
そして自分の身体は今、ゴトー・アスカという12歳の少女のものになっている。ずっと心臓の病気で入院していたが、身体が回復したので退院し、小学校に行く、ということだそうだ。
馬無しで走り回る鉄の塊、乱立する、空まで届きそうな建物、年頃の女性が護衛もつけずに、身軽な服装で楽しそうに歩いている光景にスカーレットは驚きの連続だった。
頑なに自分はバイルシュミット宰相の娘だと訴えても、この世界では頭がおかしいと思われるだけだと初日に悟ったスカーレットは、病気のショックで記憶がなくなったということにして、帰還のチャンスを伺うことにした。
アスカの姉、エリは、馬のない鉄の塊……ジドーシャに轢かれてからまだ目覚めないようで、病室でずっと眠っている。退院して3日間、父と母と交代でエリのお見舞いに行った。病院勤めの看護師や医師の話では、エリはアスカが病気がちのため、アスカのために放課後に遊ぶことも課外活動に勤しむこともせずに、献身的にアスカの世話にあたっていたらしい。
ゴトー家は貧しそうには見えないが、アスカの世話をする女中の類、もっといえば執事や給仕係などもおらず、仕事で忙しい両親にかわり、アスカの世話はエリがほとんど担っていたようだ。
スカーレットはエリを気の毒に思ったが、赤の他人なので涙までは出てこない。そんな自分を、看護師たちが「あんなに尽くしてくれたエリちゃんが重体になっても泣きもしないなんて……」「本当に自分のことしか考えてないのね」「まだこどもだって言うけどもう小学六年生なのに、ねえ……」と影で眉をひそめて話しているのを聞いてしまったが、スカーレットは困惑するばかりだった。
まさかエリの魂がフェトラ王国に召喚され、聖女としてハロルドと婚約しているなど夢にも思っていない。
アスカはこの国で学校に通っていたらしく、今日は退院後初の登校日だ。
「明日香、ひとりで大丈夫?」
アスカの母は心配そうに尋ねてきた。
「心配いりませんわ、お母様。学校までの道筋は何度も歩いて覚えましたし、ジドーシャにも慣れましたもの」
フェトラでは、貴族の子女が送迎もなしに学園にひとりで通うなどあり得ない話だったが、アスカの国ではこどもはひとりで歩いて学校に行くものらしい。ならばその国の風習に自分も合わせるべきだろう。
「じゃあ、本当に気をつけてね」
そう言うとアスカの両親は仕事に出掛けていった。父だけでなく、女性である母も医師というのには驚いたが、様々なことが何もかもフェトラとは異なるこの国では、これもきっと普通のことなのだろう。
無事に学校にたどり着くと、教室に通された。生徒が40人ほど、こじんまりした部屋の中で、小さな机に1人ずつ座ってこちらを見ている。フェトラ王国のアカデミーとはかなり趣が異なる。
「今日から後藤さんが久しぶりの登校になります。後藤さん、挨拶を」
クラス担任の若い女性教師に促されて、スカーレットは教壇に上がった。
「はい。皆様……わたくし、実は病気のショックなのか、記憶喪失になってしまったようなのです。皆様のお顔とお名前は、家族にアルバムを見せてもらいながらなんとか全員覚えてまいりました。しかし知らない……覚えていないことばかりなので、ご迷惑をおかけすることと思います。よろしくお願い致しますわ」
そう言ってスカーレットは優雅に一礼した。粗相はなく完璧な挨拶だったが、それ故に教室がざわついた。
「アスカちゃん、大丈夫? なんか性格まで変わっちゃったんじゃない!?」
「記憶喪失ってどんな感じなの!?」
「俺のこと覚えてるー!?」
「アンタは後藤さん休んでる間に転校してきたでしょうが!」
小さな学友たちは好奇心旺盛で微笑ましかった。
異世界の小学校の授業内容は、スカーレットにとっては驚きの連続であり、かつ教師たちはこどもに向けて教えているのでわかりやすかった。
スカーレットは、フェトラ王国への帰還に備えて新たな知識を学ぶため、休み時間になると図書室へ向かい、本を読み漁った。
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