第2話

『僕もだよ』

不意に文字が目に入った。今まで気にもしなかった付箋の裏側に記された文字に、芳信の意識は一気に覚醒した。

(僕?てか、このってまさか)

慌てて紙を開いてみれば、確かに、昨日芳信が書いた後、あまりの恥ずかしさに丸めてしまった手紙の1つであった。

「おい、これ相当やばくないか」

自分がなにをしでかしたかを理解した芳信は、大慌てで文の後を追う。幸い、芳信は長年の付き合いで、こういう時に文がどこに行くは見当がついている。


「やっぱりここにいた」

芳信がたどり着いたのは屋上であった。芳信は屋上の隅で膝を抱えて座る文を見て、ここがまだ、特別な場所であることに安堵した。

「さっきはすまん。あれが書き損じのラブレターだなんて気づかなかったんだ。あの手紙に書いたように、俺はお前が好きだ!」


「今更なにを。あれはゴミなんだろう?うるさいから何処かに行ってくれないかな。僕は独りになりたいんだ」

叫ぶ芳信を煩わしそうに、少しだけ顔を上げた文が呟く。

「だから違うって。俺はお前、玉梓文が好きだ!わかるまで何べんだって叫んでやる」

「じゃあ、僕にキスをしてごらんよ。出来ないんだろう?ならとっとと去っ…⁉」

叫ぶ芳信につられて、立ち上がって叫ぶ文。その体を抱き寄せて、芳信はキスをした。

「これでわかったか?」

「は?え?なんで?」

突然の出来事に戸惑う文に芳信は、ため息をついて、ゆっくりと諭すように言う。

「お前が好きだからだ。そもそも丸められた紙を見て、その紙の正体なんて普通わっかんねぇんだよ。ごみって言ってわるかったけどさ、もうちょっと普通に返事くれればこんな拗れなかったのによ」

「う、すまない…恥ずかしかさが勝ってしまった。それより、もう一度キスをしてくれないか?その…確証が欲しいんだ」

頬を染めて、少し目線を逸らして言う文。

「ああ、もう。可愛すぎんだろ」

そう言って、芳信はもう一度唇を合わせた。

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