極道と幽霊(ゴースト)の売人
「ドウゲンッ!!」
『
一早くニオイを察知した、人狼のジトウは、焦って、一人で先走り、石動達は、完全にジトウの姿を見失っていた。
路地裏にドウゲンの姿を見つけた、ジトウは叫ぶ。
「よもや、忘れたとは言わせねえっ」
「ラクサハとラヒリカの
不敵な笑みを浮かべているドウゲン。
「うちの連中、殺しまくってる『売人狩り』って野郎は、どこのどいつだと思ってたけどよお……」
「誰かと思えば、てめえは、あの時の、マヌケな人狼じゃねえか」
「ああっ、よく覚えてるぜ、てめえのマヌケっぷりはよおっ」
「怪しい人間、助けておいて、女ども、さらわれてんだから、てめえの馬鹿さ加減には、ホントッ、笑いが止まらなかったぜ」
「そんな馬鹿、忘れようたって、忘れられねえに、決まってんだろっ?」
神経を逆撫でするような挑発行為に、ジトウは、我を忘れて飛びかかった。
長く伸ばした鋭利な爪で、何度も切りかかるジトウだが、
「ほらほらっ、ワンちゃん、そんなに遊んで欲しいのかっ?」
「ウオォォォォォッ!!」
ジトウの気合により、さらに長く伸びた、執念の爪が、ドウゲンの頬をわずかにかすった。
頬からは、ドウゲンの血がわずかに流れる、だが、その色は赤くはない。
「てめえっ、よくも、俺に、血を、流させてくれたな」
ドウゲンは、その赤くない血を、指で拭って、舌で舐めた。
「てめえはっ、絶対、許さねえからなっ」
自らの血が流れてしまったことで、ドウゲンの擬態が解けはじめる。
「おっ、お前は……」
頭から、何かが顔を出し、それは次第に大きくなって行く。
さらに、背中からは、蝙蝠の羽根が、広がって行く。
「
「……まさか……悪魔だったのかっ」
それは、すでに、人間領からはいなくなっていたと思われていた、悪魔の姿。
頭に大きな角を持ち、口には鋭い牙、尖った尻尾、そして、背中に蝙蝠の羽根。
「こっちこそ、まさか、だ」
「まさか、てめえみてえな、マヌケ相手に、この正体を
悪魔の姿となったドウゲンに、飛びかかろうとするジトウ、だが、どうにも思うように体が動かない。
「クソッ、どういうことだっ……」
次第に、集中力が失われて行き、世界が、極色彩へと変貌し、妹と許嫁の、幻すら見えはじめる。
「まるで、あの時、みたいじゃないか……」
集落で、ドラッグ入りの食べ物を口にしたあの日、その時の体験が、再びジトウの脳裏に
もしかしたら、今目の前に居る悪魔もまた、実在していない、幻なのではないかとすら、ジトウには思えて来た。
「いやあっ、まぁっ、俺自身は、ドラッグなんてもん使わなくても、幻覚術ぐらい、いくらでも使えるんだけどよおっ」
「新しく出来た、試作品のドラッグを、お前達の集落で試させてもらったって訳よ」
「『あの人』がさあ、こういうのは、人間に試す前に、動物実験するもんだって言うからさあ」
「半分人間で、半分動物のお前等には、ピッタリじゃねえかっと思ったのよ」
「実験動物とか、
「お前等の実験以降も、ドラッグは改良され続けてな……」
「中毒性が抜群で、人体への悪影響も半端ない、一度ハマれば、人間廃業、廃人、間違いなしって、極上のドラッグが誕生したって訳よ」
「これもみんな、実験動物ちゃん達のお陰よ、サンキュウなあっ、マヌケな人狼のみなさん」
「クソッ、こっ、こんなことで……」
「俺の、怒りも、憎しみも、悲しみも……すべてが……幻の訳がねえっ」
「転げ回って、泣き喚いた、あの血の涙が……喉を潰して、血反吐を吐くまで叫び続けた、あの
「あの時の、怒りも、憎しみも、悲しみも……すべて、俺は、この体に刻み込んで来たんだっ」
「そうだっ、ジリジリと、俺の身を焦がし、焼き尽くす、この復讐の炎こそが、本物だっ」
人狼のジトウは、自らの鋭い牙で、自分の左腕に嚙みつくと、そのまま、腕の肉を噛みちぎった。
「……そうだよっ、これだよっ」
血にまみれた、自分の肉を、吐き捨てるジトウ。
左腕は
「この痛みこそが、正真正銘の真実だっ」
痛みで、正気を取り戻したジトウは、再び、悪魔ドウゲンに飛びかかる。
「ウオォォォォォッ!!」
その長く伸びた鋭利な爪は、悪魔ドウゲンの顔に、もう一度、傷をつけた。
「チッ」
「てめえっ、マジで、ウゼエなっ」
だが、その戦闘力には、圧倒的な差があった。
ブチ切れた悪魔は、次に襲い掛かって来る爪をかわすと、ジトウの腹に、膝蹴りを入れる。
その重い一撃を受け、前屈みになったジトウ、その顔を、悪魔は蹴り飛ばした。
転がって、倒れるジトウ。その体を何度も蹴飛ばし続ける悪魔。
「ああっ、お前の名前、なんだったけかな……」
「……確か、ジトウとか、言ったかな」
「そういやっ、お前の名前、ずっと叫んでる女が、二人いたなぁっ」
「あれ、お前の女と妹だろっ?」
「『ジトウお兄ちゃん、助けて』とか、『ジトウ、助けて』とか、すげえ、うるさくって、たまんなかったぜ、思い出したわ」
倒れて動けなくなった人狼のジトウの顔を、足の裏で踏みつける、悪魔ドウゲン。
「だから、すげえムカついたからよお、ドラッグ漬けにしてやって、一番ヤベエ、変態紳士に売ってやったのよお」
「そしたら、毎晩、拷問ごっこされて、すぐに死んじまったなあっ、あいつら」
「俺は、悪魔だからよお、人間の絶望が大好物なんだけどなあ」
「まぁっ、それでも、お前等も、半分人間みてえなもんだしぃ」
「美味しくいただちまったよ、お前の妹と、お前の女の、絶望の極みをなあ」
悪魔ドウゲンの足の裏で、頭と顔を踏みつけにされ、身動きが取れないジトウ。
悪魔の圧倒的な戦闘力を前には、復讐の執念も、屈するしかない。
「クソッ、クソッ、クソッ、」
悔しさのあまり、血の涙を流すジトウ。
-
パァン
銃声と共に、悪魔の足が撃ち抜かれる。
「馬鹿野郎っ、お前、一人で先に行くから、完全に見失っちまったじゃねえかっ」
悪魔に向け、銃を構えている石動。そして、例によって、後方待機のマサ。
「なっ、なんだっ!? てめえらはっ!?」
「さすがにっ、極道みたいな稼業してる俺でも、てめえっ、みてえなっ、真正のド
倒れている人狼のジトウは、必死に叫ぶ。
「旦那、こいつは、悪魔だっ!!」
「これはっ、俺の復讐だっ、旦那達には関係ねえっ、ここからっ、逃げてくれっ!!」
いくら、強い石動でも、さすがに悪魔には勝てない、ジトウはそう思っていたのだろう。
「馬鹿野郎っ、そうはいかねえっ」
「俺は、
「お前かっ、
悪魔ドウゲンは、不敵な笑みを浮かべる。
「おいおいっ、妙な言いがかりだったら、よしてくれよ」
「なんだっ?
「俺は、
「なんてったって、俺は優しいからな、いい子にしてたお子ちゃまには、もれなく無料でプレゼントしてあげちゃうんだからよおっ」
「死にたくなるような現実世界、目の前にある辛く悲しい出来事、逃げられない世の中、そんなものから、子供達を逃避させてやってんだから……」
「むしろ、感謝されてもいいぐらいなんじゃあねえのっ?」
「それとも何か? この馬鹿みてえに、痛みこそが真実だとか、本気で、
「
「まぁっ、もちろん、俺にもいい事があるんだぜ……いい事をしてもらったら、いい事を返してあげる、人間なら、それが当然だからなあ」
「ほらっ、
「ほらっ、なんてえのっ? 顧客育成? それとも青田刈り?」
「中毒になるとよおっ、ドラッグ欲しさに、何でも言うこと聞いてくれるようになってなあっ」
「自分から進んで、人身売買に、売られに行ってくれるんだぜ」
「そんで、売られた先の金持ちの家で、金銀財宝を盗んで来てくれたり、商売の邪魔になった連中は、一家惨殺して来てくれたりもするんだぜえ」
「それで、ノルマも回収出来て、悪魔の俺的には、人間の絶望も、腹一杯になるまで、たらふく喰えて、まさにウィンウィンの関係ってことよっ」
――いやあっ、こいつ、見事に地雷踏みまくってますね
もう、見事過ぎて、むしろ、芸術性すら感じてしまいますよ
マサには、この後の展開が、だいたい察せられた。
-
石動は、悪魔に向かって、力強く、
「俺は、
「俺の親は、両親、揃いも揃って、ヤク中だったっ」
「だがっ、それでも、なんとか、生きていられたのは」
「
「分別もつかねえ
「そいつ等に、言われるがまま、ヤクに
「さすがに、俺も、本当に、詰んでただろうなっ」
「そうなりゃっ、とっくの昔に、俺は死んでたっ、今の俺はなかったっ」
「まぁっ、それでもっ、一度死んだから、ここに居るんだけどよっ」
再び、力強く、断言する石動。
「だからなっ、俺は、
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