悪魔を拷問する極道
「なにっ、イキって、カッコつけてんだよっ!」
悪魔ドウゲンは、石動に向かって、幻覚術を使った。
「そういう奴は、ウゼエんだよっ、マジでムカつくぜ」
「人間なんざなあ、俺の幻覚術にかかれば、イチコロよ」
そう言うと同時に、悪魔ドウゲンの顔面には、大きな握り拳がぶち当たっていた。あまりにも早過ぎて、フラグにすらなっていない。
二転三転して、ぶっ飛ぶ、悪魔ドウゲン。
「なっ、そんなっ、馬鹿なっ……」
「なっ、なんで、俺の幻覚術が、全く効いてねえんだっ、こいつはっ」
その言葉に、石動は、言い放つ。
「馬鹿野郎っ、こういうのは、気合と根性に、決まってんじゃねえかっ」
石動が言う、気合と根性は、単なる精神論という訳でもない。
極度の興奮状態に達すると、脳内物質や分泌物が大量に出まくって、痛みを全く感じなくなる石動。
それは、起きていながら、麻酔にかかっているようなもので、すでに脳内分泌物という、強力な脳内麻薬に汚染されているようなもの。したがって、これ以上、幻覚術に、かかりようがない。
簡単に言ってしまうと、石動の脳内分泌物が、悪魔の幻覚術を上回っていたということになる。
「パワーだけだろがっ! この脳筋肉がっ!」
猛スピードで、石動の死角へと回り込んだ、悪魔ドウゲンは、背後から拳を放つ。だが、石動は、これを振り向け様に、手で受け止めると、拳を掴んだまま、力を込めて握り、その骨ごと粉砕した。
「いっ、痛てぇっ!」
離せとばかりに、悪魔は蹴りを繰り出したが、これも、石動はその足を掴み、そのまま足を握り潰す。
さらには、悪魔の足を持ったまま横回転をはじめ、しまいには、悪魔を体ごと、投げ飛ばした。
「まさか、ここまで、強かったなんて……」
簡単に悪魔をノックアウトした石動に、人狼のジトウは愕然とした。
-
倒れている、悪魔ドウゲンの首を左手で掴み、そのまま体を持ち上げる石動。悪魔の体は、宙に浮いている。
「まぁっ、お前みたいな、どさんぴんが、黒幕ってことはねえわなっ」
石動は、悪魔を尋問しようというのだ。
「それに、さっき、お前、ノルマって言ったよなっ?」
ノルマということは、それを課した誰かが、上に存在するということになる。
「言えっ」
「お前の元締めは、誰だっ?」
首を強く掴まれ、苦しそうな表情の悪魔。
「いっ、言える訳ねえだろっ、そんなのっ」
「そうかいっ、そうかいっ、そいつは残念だったなっ……お前が、だけどなっ」
石動は、悪魔ドウゲンの左羽根に、空いている右手をかけた。
「お前、いいもん持ってんなぁっ……
羽根かぁっ、羽根、いいよなぁっ
ちょうど、俺も、羽根欲しいと思ってたんだよっ」
その右手で、悪魔の羽根を撫で回す。
「『翼をください』って歌があってなぁっ、
まぁっ、知ってる訳ねえよなっ」
「その羽根、俺にくれよっ」
手をかけていた、悪魔の羽根を、石動は、腕力のみで、引き千切った。
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ」
引き千切った羽根を、石動は、乱雑に放り投げる。
「おうっ、なんだお前、血、赤くないのかぁっ?
これっ、青かっ? それとも黒かっ? 面白れえなっ」
そして、次に、悪魔の左角に手をかける石動。
「お前、いい角、持ってんなぁっ……
角かぁっ、角、いいよなぁっ
「なんか、強そうに見えるもんなぁっ」
「その角、俺にくれよっ」
手をかけていた、悪魔の角を、引っこ抜く。
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ」
「目かぁっ、
もしかして、これ、魔眼とか言うやつかぁっ?」
「ち、違うっ、違うっ、俺のは魔眼じゃねえっ」
「これっ、高く売れんのかぁっ?
だったら、お宝じゃねえかっ
ちょっと、店に持ってて、鑑定してもらうからよおっ」
「その目、俺にくれよっ」
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ」
体のパーツ引き裂かれ、血を流し、ぐったりしている悪魔。
「どうしたぁっ?
お前等、拷問とか好きなんだろっ?」
「だから、拷問ごっこして、遊んでやってんじゃねえかっ」
「こんなに、泣いて喜んでくれるとは、思ってなかったけどよぉっ」
その一部始終を、離れていたところで見ているマサと人狼のジトウ。
「どうやら、若頭の拷問モードが発動したみたいですね」
ジトウは、ゴクリと唾を飲み込む。
「悪魔を拷問する人間なんて、はじめて聞いたぜ……」
-
「牙かぁっ、牙、いいよなぁっ……」
思わずジトウは、口をつぐんで手を当てて、自分の牙を隠す。
「わ、分かったっ」
「いっ、言うっ、言うっ」
ついに観念した悪魔。
「俺等の元締めは、クレイジーデーモンってんだっ」
――ちっ、またっ、クレイジーデーモンかっ
「おいっ、クレイジーデーモンって野郎は、人身売買の元締めじゃあねえのかっ?」
「りょっ、両方、あいつも、両方やってんだっ」
「両方で、シノギやってんのかっ、
またっ、随分と、欲張りな野郎だなあっ」
「でっ、どんな奴なんだっ?」
「あっ、会ったことはねえっ」
「いつも、イリサって魔女の使い魔が、連絡係やってんだっ」
「だが、お前等と同じ、異世界から来た人間って話だっ……なんでも、五年前に、こっちに来たとか、そんな噂だっ……俺も噂でしか知らねえけどよっ」
「そいつが、今ばら撒いてる、ドラッグつくったのかっ?」
「くっ、詳しくは分からねが、クレイジーデーモンが指示して、マッドな研究者につくらせたって噂だっ……」
「他に知ってることはっ?」
「ねっ、ねえっ」
「そうかっ」
石動は、悪魔の体を、ジトウに向かって放り投げた。
「おうっ、後はっ、好きにしなっ」
「まったくよぉっ、旦那のお陰で、復讐の興が削がれちまったぜ」
立ち上がった人狼のジトウ。
「でも、ここで、逃しちまったら、また復活するかもしれねえからな」
「これ以上、こいつの被害者を出さないためにも、こいつは、ここできちんと始末しておかねえとな」
長く伸びた鋭い爪で、ジトウは悪魔ドウゲンの体を切り裂いた。
赤くない、悪魔の返り血を、全身に浴びるジトウ。
そして、ジトウは、ドウゲンの絶命を確認する。
「……ラクサハ……ラヒリカ……」
今は亡き、妹と許嫁が、安らかに眠れるように、ジトウは思いをはせる。
そして、石動には、また腑に落ちないことが、一つだけ残った。
――五年前かっ……
おかしいっ、それだと、辻褄が合わねえ……
-
コツコツコツコツ……
ヒールの音と共に、部屋に入って来たのは、黒いスーツ姿の魔女、イリサ。
そして、部屋には、テーブルの上に足を組んで乗せ、ソファに座っているクレイジーデーモンの姿が。
イリサが履いているミニのタイトスカートからは、細くて白い、美しい脚が覗いており、扇情的なその姿を、クレイジーデーモンは、いやらしい顔で、ジロジロと眺め続ける。
「イリサよおっ、そろそろ、やらせろよっ」
いきなりのセクハラに、魔女イリサはブチ切れる。
「はあっ?」
「何言ってんの? 今すぐ死ねっ」
「悪かねえっ、悪かねえよっ、イリサのそういうところっ、悪くはねえけどよっ」
「人身売買の元締めと、ドラッグ売買の元締めやって、すげえっ、多忙なこの俺に、もうちょっと、優しくしてくれてもいいんじゃねえかっ? ついでに、やらせてくれるとかよおっ」
「いつも、連絡は、あたしの使い魔がやってるんですけどねっ」
「こう見えても俺、魔王軍の幹部よっ?」
クレイジーデーモンは、そこでため息をつく。
「まさか、幹部になると、こんなに、魔王軍のノルマが厳しいとは、思ってなかったわっ」
「お陰で、こっちで、シノギをいくつもする羽目になっちまったっ」
「だからよおっ、俺を
しつこいセクハラに、終始ブチ切れている魔女イリサ。
「あぁ、もうっ、うるさいっ」
「うるさいからっ、いいこと教えてあげるわっ」
「ドラッグの売人、ドウゲンが殺されたそうよっ」
「おいおいっ、それの、どこがいいことなんだよっ?」
「まあまあの売人幹部じゃねえかっ、それも魔族の……いやっ、あいつって、悪魔じゃなかったかっ?」
「悪魔が、その辺の奴に、
「
「!」
勇者と聞いて、身を乗り出して、態度を豹変させるクレイジーデーモン。
「おいおいおいっ! また、勇者かよっ!」
「いいじゃねえかっ、いいじゃねえかっ」
「いや、よくねえのかっ、まあたっ、邪魔しやがってっ」
勇者の話になると、性欲もどこへやら、ただただ、勇者への熱い想いを語り続ける、クレイジーデーモン。
「もうこりゃっ、俺と勇者は、運命の赤い糸で結ばれてんなっ」
「やっぱ、俺の欲望を満たせるのは、お前だけだぜっ、勇者よおっ」
そして、やはり、悪そうな笑みを浮かべる。
「じゃあっ、そろそろ、こっちからも、ちょっと、仕掛けさせてもらうとするかなっ」
「近い内に、また会えるのを、楽しみにしてるぜっ、勇者よおっ」
-
「あなたも、結構、無茶しますね」
アイテムボックスから取り出した、超高級ポーションで、ジトウの腕を治療しているマサ。
「せっかくのモフモフが、台無しになるところだったじゃないですか」
「マサさん、あんま余計なとこ、触らないでもらっていいですか?」
公言通り、街の売人達を一掃した石動。
「旦那達のおかけで、復讐を果たすことが出来た、改めて、礼を言わせてもらうぜ」
改まって、ジトウは打ち明ける。
「なあっ、旦那、俺も一緒に、連れて行ってくれねえか?」
「この恩を、俺に返させてくれ、
きっと、役に立ってみせるぜ」
「そんなことっ、気にする必要はねえっ」
「こちらも、道中、助けられたことですしね」
そこで、ジトウの顔が曇る。
「そう、言わないでくれよ……」
「復讐を達成しちまって、どうにも、喪失感が酷くてな」
「旦那が言ってた通り、生きる目的を無くしちまったんだろうな」
「正直なところ、今の俺には、旦那達に恩を返すぐらいしか、生き続けて行く理由が、見当らねえんだ……」
「…………」
「……そうかいっ、じゃあっ、お前の、好きにしなっ」
街で、もう一頭、馬を調達した石動達は、ジトウを正式にメンバーに加えて、次の、本来の目的地へと旅立つ。
荒野を駆けて行く三頭の馬、そして、それに騎乗する三人の男達。
「なあっ、旦那、あの街は、この後一体どうなっちまうんだ?」
「まぁっ、街にあんだけ、ヤク中がいんのに、突然、ドラッグの供給が一切断たれたんだっ」
「ドラッグが切れて、中毒症状起こしてる連中が、頭おかしくなって、街中で暴れまくるだろうなっ」
「そういう連中同士で、殺し合いでも、起こるんじゃねえかなっ」
「旦那、そりゃ、また、随分と、酷え結末だな」
「そういう連中は、殺してやったほうが、あいつら自身のためなのかもしれねえがっ……」
石動は、一旦、間を置く。
「俺の両親も、ヤク中だったからなっ……」
「まぁっ、そういう、気分にはならねえかなっ」
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