第3話

やがて五助が手紙の返事を持って帰って来た。

以外にお館様はあっさりと墓を建てるのであれば近いうちに石材屋をやろうという返事だった。

その返事を読むと文之亟は、「向こうも俺が死んでからも一緒の墓に入らずにすっかり分家してくれる事を望んだのだろうネ。」と言った。

かるはその時になって、「旦那様は御両親様や他の方達と御一緒の墓でなくていいんですか?」と聞いた。

すると、「いいんだヨ。ああいうやかましい人達の中に入るのも嫌だし、かるや五助やよし達と一緒に入って桜の花の下で花見が出来る方が余程いいに決まっている。」と清々しい顔で言った。

それから何日もしないうちに石材屋が文之亟を訪ねて来た。

もう墓には一緒に入れると知った五助とよしも大喜びで、皆一緒に立ち会って墓石を建てる場所を決めた。

ぐるりを桜の木で囲み、陽当たりもよく家からも墓を見渡せ、墓からも家の庭の花々が見える良い場所に決めた。

四人の誰もが自分達がやがて安らかに眠る場所が定まると、心まで安心した。

文之亟、かる、五助、よしはもう使用人と主人というよりも今では一つの家族のように自分が持つ心の翼で相手を温め合うように暮らしていた。

文之亟にとってもそうだったろうし、本家からいわば年老いて厄介払いにされて来た五助とよしにとっても辿り着いた安穏の地だったと思う。

やがて、やはり文之亟が一番先にいけなくなった。

足腰は毎日の散歩で丈夫になったかに見えたが、腹の中の何か悪いものが悪化したらしく、急に食欲がなくなったかと思うと口から血を吐き、下からも血便が出るようになった。かるは驚きすぐに医者を呼んだ。

医者は様子を聞き、患者を診、脈をとり薬を渡して帰る時に帰り際、「これは大分前から悪かった筈です。気が付きませんでしたか?」と言った。

かるにはいつものように力のない様子の文之亟の姿しか思い出せない。

「きっと女房殿には解らない所で血を吐いたり、血便が出ていた筈です。もう長くはないと覚悟していて下さい。」

医者はそう言って帰って行った。

かるはその事を五助とよしに話すと、

「実は旦那様から止められていたのですが、かる様が畑に出ている時に何度か血を吐かれました。だけど、これは若い頃から酒の呑み過ぎでよくある事だし、、かるが心配するから黙っているようにときつく止められていたんです。」と言う。

かるは文之亟が寝ている所に行って、熱い湯で絞った手拭いで顔や首や胸元を丁寧に拭いてやった。

戦い疲れたような顔で目を瞑っている文之亟を見ていると、ポロポロと次から次へと涙が溢れて来て止まらなくなった。

文之亟はうっすらと目を開けると、「かる、そう泣くもんじゃじゃないヨ。私は幸せなんだから。だけど自分の為に泣いてくれる人がいるのもいいものだネ。」と言ってニッコリ笑った。

その目はどこまでも優しくてかるを大事にしている人の目だった。

かるは悲しくて悲しくて、この人がいなくなってしまうかと思うと淋しくて、思わず寝ている文之亟の首に取りすがってオイオイ泣いた。

今までだって一度もこうして声を出して泣いた事のないかるが子供のように泣いた。

すると文之亟はかるの頭を撫でながら、「夫婦らしいことをしてくれたのは初めてだネ。重いけれど嬉しいヨ。」と言った。

それからかるは夜寝る時は、もう骨と皮だけになって老いさらばえた文之亟の隣に寄り添って寝た。

母親になったかるがおもこを包んであげたあの時のように。

もうこの世を離れ遠くへ行こうとしている文之亟の手をそっと握り、一日でも引き止めておこうとした。

それでも逝ってしまわねばならないのなら、その時は思いを込めてお別れをしようと思った。

文之亟は手のかからない人だった。いつも静かにニコニコしている。

きっとどこか痛いだろうに苦しいだろうに、その気配を見せずにかるがうとうとして目を覚ますと、いつも父親が幼い我が子を見つめるような眼差しでかるを見つめているのだった。

まだ一緒になって三年にもならなかったが、かるは文之亟の人柄、心持ちを充分理解し、文之亟もかるの事を、かる自身気が付かなかった愛らしさを充分解って引き出してくれたのだった。

やがて畑の隅にようやく立派な墓が出来上がった。

後ろには四人の棺桶が十分収まるように余裕を持ち墓石もそれは立派なものだった。

出来上がった時、かるは文之亟の体を支えて家の中から出来上がった墓を見せた。

文之亟はとても嬉しそうに、「これで安心だ。これで安心して逝ける。かるは偉いネ。おかるのお陰で何もかも想像していた何倍もいい人生だったヨ。ありがとう。それから、かるは自分では気が付いていないかも知れないが、すごい人なんだヨ。自分ばかりか周りの人も幸せに出来る人なんだヨ。かるは最高の女だヨ。」そう言って誉めてくれた。

かるは素直に嬉しかった。

次の朝、かるが目が覚めると隣で寝ている文之亟は目を覚まさなかった。

いくら呼んでもピクリともしなかった。

まだ体は温かくて魂はそこにいるようだった。

かるは大急ぎで叫んだ。

「旦那様ありがとう。本当にありがとう。かるは旦那様のお陰で本当に幸せでした。かるは旦那様が大好きでした。かるも死んだら旦那様の所に行きます。きっときっと待っていて下さい。」

そう叫んでオイオイ泣いた。

五助とよしが、かるの泣き声に気付いて駆け寄って来て一緒にオイオイ泣いた。


文之亟の葬儀は立派にとり行われた。

集まった香典はこれからの暮らしに使うようにとお館様がそれに足した大層な金額のお金をかるに手渡してくれた。

これからも何か困った事があったら何でも相談に来るからと言ってくれたが、これはきっと最後の手切れのお金なのだと思ってかるは素直に受け取った。

これからは五助とよしとかるの三人でどうにかこの金で食べて行かなければならない。

かるは覚悟を決めた。

それにしても墓を建てておいて本当に良かった。心からそう思った。

文之亟を安心させて送る事が出来て本当に良かったと思った。

だが文之亟がいなくなると、家の中が急にガランとしてその年の冬は特に心の中まで凍るような寒さが身に沁みた。

かるも五助もよしも、朝と昼と夕暮れ、気が付くと墓の所へ行って手を合わせた。

かるは手を合わせながら、こちらはとっても寒いですけどそちらはどうですか?私達を守って下さいねと話しかけた。


その冬をどうにか切り抜けると、ようやく春の日差しが戻って来た。

かるは畑に出る事が多くなった。

そして畑仕事をしながら墓に向かって話しかけた。

「そこの居心地はどうですか?私達を応援していて下さいね。」

文之亟の面影に向かって話しかけると心が安らいだ。とにかくこれからは本家をあてにしないで食べて行く事を考えなければならない。

庭の花を植える所も出来るだけ少なくして、いろんな作物を植えよう。

三人が食べて行けるかどうかは自分の肩にかかっているのだからとかるか考えていたが、お館様の方では文之亟が亡くなったからと言って急に縁を切る事も出来ないのだろう。

本家から使いの者が来て、米や味噌・醤油等と共にいくらかのお金を持って来た。

かるは米、味噌・醤油は有難く頂戴したがお金は丁重にお返しした。

そしてくれぐれもお館様にお礼を伝えてくれるようにとお願いした。

こうしてかるの新しい生活が始まった。

もう人には頼ってはならない。畑で野菜や豆、芋等は作れるが、米・味噌・醤油まではどんなに切り詰めても買って食べなければならない。

このままではどうしてもいつか行き詰ってしまうだろう。

しかし考えてばかりいても始まらない。

今、自分に出来る事を一生懸命するだけだ。そう考え畑仕事に精を出した。

暫らく経ったある日、頭領が久しぶりに訪ねて来た。

手には豆だの小豆だの農園で採れた物を持って来た。

仏壇に手を合わせて畑を眺め、畑の隅の墓にもお参りをすると、

「かるももう立派な分家の奥様だナ。安心したヨ。」と言った。

「これも全て頭領のお陰です。頭領がお世話して下さったお陰でこのような立派な家に住む事が出来ました。墓まで建てていただきました。これから先は五助さんとよしさんを自分の親と思って最後まで一緒にここにいていただきます。」と言うと、

「それにしてもこの先どうして食べて行くつもりだ?」と聞いた。

「この間お金を返してよこしたとお館が言っていたぞ。かる一人なら良いが、五助夫婦も一緒となるとこの先大変だろう。かるがどういう心づもりをしているのか気になって顔を見に来たんだ。」と言った。

かるはどこまでも自分の事を心配してくれる頭領の気持ちが有難くて涙が出そうになった。

「頭領はどうしてそこまで親切にしてくれるんですか?」

かるが泣き顔で聞くと、「かるのおっかさんとは小さい頃からの知り合いでネ。かるのおっかさんはそれは若い頃はきれいだった。今だから言えるが、俺は心の中で嫁にしようと決めていたんだ。相手も気持ちは解っていると思っていたんだが。先のお館に言われて都の方に勉強がてらに修行に行って帰って来たら、かるのおっかさんはもう人の嫁になっていたヨ。俺はがっかりしたヨ。少しも俺の気持ちは相手に伝わっていなかったんだナ。それから一度やけになって誰でもいいと女房を貰おうと思ったんだが、なかなかかるのおっかさんのような人とは巡り会わなくってネ。それに忙しいのも手伝って、とうとうこの年になってしまったヨ。だからかるを見ていると放っておけなくてネ。もしかしたら、かるは自分の娘だったのかも知れないと思ったりしたんだヨ。」と言った。

かるはそれを聞いて合点がいった。

おっかさんだってきっと頭領の事は好きだったろう。

だけど頭領の本当の心が解らずにあきらめておっとうの嫁になったんだろう。

人生なんてちょっと食い違うとそうなってしまうんだ。

だけどおとうもおかあものどかに暮らしていたっけ。少なくともおとうは幸せだったろう。両親の顔を思い浮かべて今はこの世から旅立ってしまった人達の事をしばし思ったりした。その時急にかるは思いついて、「頭領、変な事を聞きますけど。もしも頭領がいつか死んだらお墓はどこに入るつもりですか?」とかるは聞いていた。

「どこって、そんな事決まっていないヨ。誰かがどこかに埋めてくれるだろう。今や身寄りのない身だからネ。」と淋しそうに笑った。

「そしたら頭領、頭領もうちの墓に入りませんか?五助さんもよしさんも入る事になっています。頭領だって私にとっては大切なお父さんのような人です。嫌じゃないならうちの墓に入って皆で桜が咲く頃にはお花見しましょう。」とかるが言うと、

頭領はいきなりハッハッハと大笑いした。

「かる。とっても有難い話だがそれは出来ないヨ。第一文之亟様に断りもなく俺のようなよそ者が入る訳にはいかないヨ。」と言った。

「頭領、あの人はそんな了見の狭い人じゃないですヨ。私は頭領からお話があった時、将来の事を考え計算づくでこの家に入りました。あの時は鬼の住む洞窟にでも向かうように恐ろしくてガタガタ震えていました。でもあの人は全く違う人でした。気持ちの優しいおおらかな人でした。結局、形ばかりの夫婦でしたがいつも私の事を大切にしてくれて、私の事を誉めて自信をつけてくれました。ですから頭領の事もその時は喜んで迎えてくれると思います。きっとそうです。頭領がそんな面倒臭い所が嫌だと言うなら別ですが、私はあの世に行っても頭領と一緒に仲良く暮らしたい。優しい人達に囲まれてあの世でも楽しく暮らしたいと思います。」

かるは真剣に言った。

頭領は暫らく自分の手元を見て黙っていたが、「かる、ありがとうヨ。実の娘でも出来ない親孝行をしてくれてありがとうヨ。俺ももう年だ。あの世に行くのもそう遠い話でもないだろう。かるがそう言ってくれるならかるの墓に入れて貰おうかナ。何と言ったって俺の方が先なんだし。後の事は頼むしかないしナ。」と言った。

かるは若い娘のように、良かった、良かったと喜んだ。

頭領も安心したような顔をして帰って行った。

その数日後、頭領がまた訪ねて来て、これから一緒に行って欲しい所があると言う。

かるは頭領と長い事歩き、町中の豆腐屋に連れて行かれた。

頭領はどこの店でも顔が利くらしく、店の亭主は腰を低くして話を聞いて盛んに頷いている。

それからかるを呼ぶと、「かる、ここでは豆腐や油揚げ等を作っている。お前に豆腐の作り方を見せたかったんだ。この先、お前が五助夫婦と自分の口をどう養って行くか俺は俺なりに考えてみた。かるがその気なら豆腐作りはどうかと思ったんだ。幸いここの豆腐屋とかるの所はかなり場所が離れているから商売敵になる事もない。そこで農園から大豆を卸しているここの御亭主に話をしてみたんだ。俺の娘がかなり離れた農園の向こう側の土地に住んでいる。もしも豆腐を作るにしてもかなり離れた場所だからと言ったら、御亭主は豆腐作りを教えてくれるという。かるどうだ?やってみる気はないか?豆腐は人がよく食べる物だし必要とされる食べ物だ。売れ残ったとしても揚げにしたり自分達で食べたり無駄にはならない。俺は俺なりに色々考えてこれが一番いいと思ったんだが。かるは他に何か考えてることがあるか?」と聞く。

かるは驚いた。頭領がここまで考えてくれているとは思わなかった。

死んだおとう以上に本当のおとうのように私の事を考えてくれている。

かるは感激して、「頭領、本当にありがとうございます。あそこは沢に近いし、うまい具合に水を引けば良い場所です。頭領、力を貸してくれますか?」と言うと、

「オーッ、もちろん。そのつもりだ。」と心強く受け合ってくれた。



頭領がお館様に話をつけたのだろう。亡くなった文之亟の女房がお館の力を借りずに自分達が食べて行く道を探して豆腐屋をやろうとしていると。

その為の作業場や道具作りの費用を貸してやってくれないかとでも頼んだのだろう。

お館の方でも年老いた五助夫婦と老いぼれた病人の文之亟をかるに押し付けたという思いがあったのだろう。

作業場を作るのと水を引く事等、仕事が出来るまでの費用を見てくれると約束してくれた。豆腐作りの大豆も農園の方から安く分けてやると言ってくれたらしい。

また、頭領もそっちを手伝っていいと言ってくれた。

長年、農園の為に力を尽くして来て老いた頭領の行く末を、これまたかるに預ける事で安心したいらしかった。

そういう訳で、とんとん拍子に話が進み、かるの家の横には豆腐を作る作業場が建ち始めた。

将来どういう使い道があるか解らないので、とりあえず大きながっしりした者を作って貰う事にし、その作業場の中に中二階の小部屋を作って貰って、そこは頭領が住めるようにして貰った。

その普請が進む中、かるはまだ暗いうちから起きて遠い距離を毎日豆腐作りを習いに通った。

五助夫婦も自分達の為でもあるこの商売を二人共、元気なうちは精一杯応援しようとしているようであった。

かるに恐いものはなかった。これから私はこの人達を幸せにするのだ。その為にはいくらでも力が湧いてくるような気がした。

朝暗い中を行く時は無我夢中だったが、豆腐を作り終えて帰る時は明るい町中をいつも老女様の家の近くを通る。

その時はおもこの知らせのない事が気になった。

おもこと別れてからかるの身にも文之亟と一緒になったり、また文之亟を亡くしたりで色々な事がありいつの間にか時

が過ぎていた。

おもこは幸せにしているだろうか?

まだお子は授からないのだろうか?

何も知らせがないのはどういう訳だろう。やはり御殿づとめは大変なのだろうか。

だけど、あの賢いおもこの事だ。きっと頑張っているのだろう。

それにしても何か連絡の一つもあって良いのではないか。

頭領も気にして老女様を訪ねたが、「おもこは御殿で皆から大事にされているから安心だと知らせがあったきりで、その後は私にもはっきりとした知らせはないのですヨ。きっと何かあったら手紙が来るでしょう。」

そう言いながらも、老女様も心配しているようだったという。




かるは一生懸命頑張った甲斐があって、とうとう自分の所で豆腐を作れるようになった。

教えてくれた亭主に心から礼を言って、少しばかりのお金を包んで渡したが、

「頭領からは随分良くして貰ったし、この先も農園から大豆を卸して貰うから、礼のお金など貰う訳には行かない。」と言ってどうしても受け取らなかった。

お館様がかるの費用を全部出してくれたので、立派な豆腐作りの作業場も出来、沢の方から水を引く事も出来、万端整った。

全て頭領が先に立って采配してここまでにしてくれたのだ。

こうしてかるは豆腐を作り始めた。

山裾の豆腐屋であるから町中のように多勢の人達が通りかかって買いに来る訳でもない。

その点についても頭領は、自分の知る限りの人達を訪ねたり、お館様や若い頭領となった運の丞に相談を持ち掛けたりして、豆腐の卸先を何軒か探し出してくれた。

大きな先は農園だった。

毎日とは言わないが、三日に一度や四日に一度は中で働いている人達の為に豆腐や

油揚げを大量に買ってくれると言う。

その代わり豆腐の搾りかすのおからをその都度、大量に只で分けてやる事にした。

これからは農園で働く人達の食生活も良くなるだろう。その他にも何カ所か食べ物屋の得意先を見つけてくれた。

また、山寺に向かう道の途中なので、山寺にも豆腐や油揚げを買って貰えるようにお館様の口添えで決まった。

かるだけなら何も出来なかったろう。

全て頭領が何から何まで考え奔走してくれて商売が成り立つように話をつけてくれたのだ。

安心していると更に頭領は、沢向こうに橋を架けると言い出した。

その橋が出来たなら、向こう側からの人の行き来も出来るし、客も通るだろうというのだ。

実際、この沢があるばかりに向こう側の人達はずっと下の方に下がってからでないとこちら側には渡れないという不自由さがあった。

だけど橋を渡すとなると大ごとだ。

かるは話が次から次へと大きくなるので内心ハラハラして話を聞いていたが、この問題も山寺の住職やお館様、運の丞をも巻き込んで荷車は通れなくても、人が通れる程のつり橋ならという事で、とうとうかるの家の前を通る道の少し下った所が一番川幅が狭い所があり、そこにつり橋が架けられた。

すると人の流れが急に出来た。

かるの豆腐屋はもちろんだが、山寺に参拝する人々や、こちら側に用事がある人達、あるいは向こう側に行きたい人達が次々に利用する人の数は想像以上に増えた。

当然かるの豆腐屋も繁盛して来た。

来る客の中に、ここいら辺に食べ物やがあると便利なんだがといった一言で、かるは作業場の半分を思い切ってうどん、そばを食べさせる店をやってみた。

すると、あっという間に物珍しさも手伝って次から次へと客が来る。

面白いように客が来る。

かるはそうなると、人の手が足りないので、近くに住んでいて子供に手のかからなくなった女房を頼んで二人で店をやり始めた。

手が余るだろうと一人にしたが、それでは追いつかない程客が来る。

もう一人手伝いの人を頼む事にした。

本当に嬉しい悲鳴とはこういう事を言うのだろう。

毎日銭が入って来ると、商売の面白みが出て来た。

あっという間に小銭が貯まった。

それを持ってかるは、お館様にお礼を言いながらお金を返しに行った。

改めてみるとお館様は文之亟によく似ていた。

かるが話す前にお館様が話し出した。

「商売は順調に行っているようだネ。それは良かった。これで私も一安心だ。文と私は双子でネ。文は若い頃からここの仕事が会わずに家を出て好き放題の事をしていたんだ。だが今思うと文之亟もこっちに気を遣っていたのかも知れないと思うと私にも負い目があってネ。だけどかるが文の所に来てくれて文も最後は幸せだったろう。墓まで建ててお前のようなしっかり者の若い女房に看取られて満足して逝ったと思うと私の心のしこりも取れたというものだ。文は私の事をどう思っていたか知れないが、私だって悪人じゃない。あれの居場所を長い事奪ってしまったようで心が痛んでいたんだヨ。

だが、かるがこうしてしっかり商売をして先行きの心配も無くなった。文もあの墓の下で安心しているだろう。これからもいくら儲かってもお金は返さなくていいヨ。金はいつ必要になるか解らないものだ。五助夫婦の事も頭領の事もいずれかるの肩にかかって来る事になる。申し訳ないが頼むヨ。」と言った。

お館様はかるが考えていた人とは随分違って優し気な口調で話した。

お館様はかるにとってはずっと恐い人だと思っていただけに、こんな優しい言葉をかけられてかるは本当にびっくりしてしまった。

この人も文之亟様と双子だもの悪い人ではなかったのだ。

かるは帰り道、そう思いながら帰った。

結局、かるが返そうと思って持って行った小銭の包みはこの先のの事に使いなさいと言ってお館様は受け取らなかった。その事で五助夫婦と頭領の面倒は自分が責任をもって、みなければならないと強く覚悟したのだった。

かるは夢中で朝も早くから働いた。

そのかるを少しでも体を休ませようと、五助夫婦も頭領も出来る事は手伝ってくれた。

かるは自分が倒れては元も子もないので、手伝ってくれる女を二人にしていた。

それでかるは体もそうだが気持ちもかなり楽になった。

働いてくれている人達が信用のおけるいい女房達だったからである。

店を始めて一年間は無我夢中だったような気がする。

幸い五助夫婦も頭領もどこも悪い所はないらしくかるを支えてくれた。

一年無事に商売を続けて来られたと思うと、フーッと一息ついて考えた。

自分は何と幸運だったのだろうと。今までは皆、元気だから順調に来れたが、これからは誰が倒れてもおかしくはない。誰もがそういう年齢を迎えているからだ。

これからは覚悟しておこう。そう思った矢先に五助が倒れた。

よしは覚悟していたのだろう。

「かる様、もう年ですからネ。仕方のない事ですヨ。むしろ、よくここまで元気で来られたものだと思っているくらいです。周りを御覧なさい。同じ年で残っている者を探すのは容易じゃありませんヨ。それにかる様のお傍にいられて私共、本当に幸せでした。おまけにあの墓に一緒に入れていただけるなんて本当に夢のようです。子供に恵まれなかった私達ですが、まるでしっかり者の娘と一緒にいるようで安心しておりました。うちの人も何も心配しちゃいませんヨ。こっちにはかる様がいらっしゃるし、あちらに行けば旦那様が待っていて下さる。こんな心丈夫な事はありません。」

よしはそう言って笑った。

そして五助は年には勝てず、何日も経たずに逝ってしまった。

五助の葬儀も無事済んだ。

そこの桜の下の墓に文之亟と五助が一緒にいて二人でのんびりと眠っている。

そして二人でニコニコしながらこっちを見ているような気がした。

かるもそうだがよしもよく墓の前へ行って何かブツブツ話しかけているようだった。

かるはよしのその後ろ姿を見るにつけ、本当にここに墓を作って良かったと思った。

そんなある日、農園の者が使いに来て、老女様という人がかるに会いたいと言っているとの伝言だった。

かるはギクッとした。何だろう?何か胸騒ぎがする。

当然、おもこの事だろう。

頭領が自分も一緒に行くと言ってくれたが、最近目に見えて腰の具合の悪そうな頭領に遠出のような無理はさせられない。

五助が亡くなったばかりでかるにとっては頭領にもよしにも体を労わって一日でも長生きして貰いたい気持ちだった。

かるは豆腐作りが一段落すると、自分が作った豆腐と油揚げを手土産に老女の家に向かった。

足はつんのめるように小走りになるのだが、心は何故か重く何か不吉な予感がして、早く着かねばならないのに老女に会うのが空恐ろしくもあった。

やはり老女の家は以前とは違い心なしか色褪せてさびれてうらぶれた風情に見えて仕方がない。かるの目がそう見せるのかも知れない。

玄関に立つと出て来たクラという下女もすっかり年老いて見えた。

座敷に通されると、老女は床に伏っていた。

傍に老女よりは若いがかるよりは少し年上に見える身なりの良い女の人と目の涼やかなきれいな、年の頃は三・四歳に見える女の子がいた。

かるはその子を一目見るなり、あれ?誰かに似ていると思った。

老女様は布団の中からすっかり変わり果てて弱った顔で、

「かるさん、この度はお呼びたてして申し訳ありませんでした。どうしてもかるさんにお願いしなければならない事があって来ていただいたのです。」と悲しそうな目をしてそう言った。

かるはその悲しそうな目を見て背中が急に寒くなるような恐ろしさを感じた。

見知らぬ婦人は老女と目配せをすると、その小さな女の子を連れて部屋を出て行った。

二人っきりになると老女は、「かるさん、先に謝らねばなりません。本当に申し訳ない事をしました。おもこは亡くなりました。」と言った。

ええっ?かるはそう言ったきり声が詰まって体がおこりにでもかかったようにガタガタ震えて止まらなかった。

何故?どうしてあの若い美しいおもこが死なねばならないのだ!

かるは余程⌒恐い顔をしていたのだろう。ただブルブルと震えているかるに、

「本当に、本当に何てお詫びを言っていいか解りません。私も昨日あの者が来て話を聞くまでは何も知りませんでした。おもこは御殿で病気で亡くなったそうです。皆からも大事に看病され、立派なお医者にも診ていただいて実は長い間具合が悪くて伏せっていたのだそうですが、高価なお薬も飲ませ、栄養のある物を食べさせ、まだ若いのだから必ず治ると信じて周りの者は手を尽くしてくれたようです。ですが、その看護の甲斐もなくおもこは亡くなってしまいました。」

その時かるはまだそんな年ではないのに亡くなった母親や、姉のおもがまるで命が溶け出していくように弱って死んで行った様子を思い出していた。

「亡くなって初七日を済ませて、こうして私の所の知らせに来たのです。あの幼児はおもこが生んだ子供です。」と言った。

あんまりの驚きでボーっとしているかるの耳に老女の声が急に飛び込んで来た。

「“おもこの子?”おもこは子供を授かっていたのですか?あの姫様を授かっていたのですか?」

かるは次から次へと知らされる話に仰天して思わず大声で叫んでいた。

「それなら何故知らせなかったのです?せめてその時手紙でも知らせて下されば、よろこんでおもこに祝いの手紙も書けましたのに。」

かるがそう言うと、老女は更に悲しそうに、「それには訳があるのです。」と言った。

「どんな訳ですか?仮にも上様のお子ですヨ。おめでたい名誉のある事じゃないですか!何故?今までそれを知らせずにいたのです?」

かるはおもこの死を聞いて狂っていたのだろうか。

弱って床に伏している老いた老女の身も考えずに激しく詰め寄った。

「あの子は生まれなかった事にされました。」

老女の声は力なく弱々しかったが、かるの耳はその言葉を敏感に聞き取って怒りを爆発させた。

「何故です?何故なのです!おもこが不義でもしたのですか?あの姫様は上様のお子ではないというのですか!」

かるの声は逆上して思わず高くなってしまっていた。

「かるさん、お願いです。私だって悔しいし、泣きたい。どうか、どうか最後まで話だけは聞いて下さい。おもこは不義などしていません。あのおもこがそういう事をする筈がありません。あのお子は間違いなく上様のお子です。」

かるは腰を上げて、それなら何故?と詰め寄りそうになった。

その前に老女が、「あの子は観音様なのです。」と言った。

「どういう事です?観音様とはどういう事です?」

「かるさん、お前様はあのお子を見て姫さんだと思いましたろう?」

「はい、美しい姫様であられます。」と言うと、老女は悲しそうな目をした。

「それでは若様ですか?」

「いいや若様でもありません。」

「それはどういう事なのです?私にはさっぱり解りません。はっきりおっしゃって下さい。」

すると老女は悲しそうに、

「あのお子は男でもなく、女でもない。男でもあり女でもあるそういうお体で生まれて来たんですヨ。」

「…。」

「もう三つ四つになれば、赤子のおしめ替えのように簡単に見る事が出来ません。本人は充分知恵がついていますからネ。だから私もこの目で見た訳ではありません。ですが、生まれた時から赤子の世話をして、おもこの傍についていたあの者が言うのですから間違いはありません。」

「かるさん。」と話しかけられても、かるは何が何なのかどう考えをまとめて良いものか呆然としていた。

「かるさん、赤子が生まれたら誰もが一番先に聞くのは何ですか?赤子は男の子か?女の子か?という事でしょう?それがどちらとも判断がつかないとしたらどう答えます?しか

も、それが上様のお子だとしたらどうなるでしょう。あの者は生まれたばかりの赤子を産婆に見せられて呆然としたそうです。ちょっと見は姫さんだと思ったそうです。しかし産婆の普通でない顔を見てよく見るとその間からは間違いなく男の子の愛らしい物が見えて一瞬目を疑ったそうです。

長年赤子を取り上げて来た産婆もそういう赤子を見るのは初めてだという事でした。しかも上様のお子です。本当なら姫様です!あるいは若様です!と。皆にも知らせ、上様にも一番に報告しなければならないのに。それが出来ないとしたらどうしたらいいのでしょう。あの者と産婆はあまりの重大さに二人共震え上がってしまい少しの間二人共どうしていいか解らなかったそうです。二人は顔を突き合わせて考えに考えた結果、おもこにも知らせずに赤子を秘かに隠しました。そして赤子は死んで生まれた。死産だったという事にしたそうです。赤子は姫様だったが、へその緒が二重に巻きついていて生まれた時は亡くなっておられました。と・産婆とあの者は恐ろしさに震えおののきながらもそう報告しました。ですから上様もおもこが生んだ子は生きてはいないといまだに信じています。

出産を終えたおもこにもそう話しました。それを聞くとおもこは急に力を落としてしまって、出血もひどかった事もあって元気をなくしてしまい床から起き上がれなくなりました。あの者は赤子を秘かにどう育てようか思案した挙句、自分一人ではどうする事も出来ず、お后様のお耳にだけは入れておかなければと意を決して人払いをしてもらいお后様だけに本当の事を話しました。もしも誰かに知られたらすぐ噂になって広まり大事件になってしまいます。お后様はもう三人のお子は大きくなられて心の広い御立派な方だったので、御自分一人の判断でおもこの健康が回復するまで、御殿の北の突き当りの人があまり来ない静かな離れに移してそこでゆっくり静養するように配慮して下さいました。そして、そこでそのお子も人に知られずに育てられるように工夫してくれました。

おもこはそこの静かな離れに移されました。そこで初めて実は生まれた赤子は生きていると知らされました。そのお子を胸に抱いた時おもこは涙を流して喜んだそうです。その時のおもこの嬉しさを思うと胸が締め付けられるようです。

それからあの者は胸に抱かれて眠っている赤子の産着の裾を開いておもこに見せ、何故死産という事にしたのかを見せました。待ちに待った我が子が死産と知らされ力を落としていたのに本当は生きていたと知らされ、胸に抱く事の出来た夢のような喜びだけど、その子は秘密にしなければならない姿だった。おもこのその時の心持ちはいかばかりだったでしょう。

その時、おもこは赤子に乳を飲ませながら言ったそうです。

私は元気になったらこの子と一緒にここを出てお母さんの所に帰りますって。

お母さんとは老女様の事ですか?」とあの者が聞くと、「いいえ、かるという本当のお母さんです。お母さんはきっと私とこの子を温かく迎えてくれる筈です。御殿ではない静かな田舎で私はお母さんと一緒にこの子を育てて生きて行きます。もちろん上様には決してご迷惑はかけませんと言ったそうです。

あの者もそういうおもこの決心を聞いてその事をお后様にも伝えました。お后様もその方が良いと思い一日も早く元気になるよう名医と言われる医者に診せて療養させたそうですが、どういう訳かすぐによくなり元気になるだろうと思っていたのに貧血によるめまいや立ち眩みが一向に良くならず、滋養にある食べ物を食べさせてもはかばかしく良くはなりませんでした。あの者も必死だったそうです。

この夏の暑さが過ぎたらきっと良くなります。冬には、この冬を越えればきっと元気になられます。病人をも励まし、自分をも励まして今に今にと思ってお世話したそうです。

お子は一日一日と成長されて美しく賢くなられ、おもこはその無邪気なお顔をふっくらとしたお体を抱いては幸せそうでした。

「お母様と一緒にバーバの所に帰りましょうね。とってもいい所なのですヨ。」と幸せそうに話しかけておられたそうです。

そして、そのうち、そのうちと思い、いつの間にか月日が経ってしまったとあの者は申しております。

あのお子の名前はお后様が名付けて下さって“蓮”と言います。

お后様は蓮の花の生まれ変わりなのだろうと男でも女でもおかしくない良い名を考えて付けて下さったと私も思っています。

おもこは結局元気になれませんでした。産後の肥立ちが悪いというだけでなく、何か難しい血の病に侵されているのではないかと医者は言っていたそうです。

どんな名薬を与えても、どんなに滋養のある食べ物を食べさせても元気にならずに少しずつ少しずつ、弱って行くのはそれ以外に考えられない、そう言っていたそうです。

おもこはとうとう力尽きたように亡くなりました。自分でも生きて御殿から出られないと考えていたのでしょう。

あの者に、自分がもし死んだら、蓮を老女様の所に連れて行った後は田舎で暮らしている“かる”という本当の母親に託して欲しい。本当のお母さんなら、この子が幸せになるようにきっと考えて育ててくれるからと行った後、本当は私も一緒に帰りたかったと淋しそうにそう言っていたそうです。

お后様はおもこのこの事も蓮の事も哀れに思って、御自分が大切にしている宝物の中から秘かに手鏡と精緻な細工をほどこし短い小刀を蓮に与えて下さいました。

でも上様は蓮の事は何も御存知ありません。

かるさん、あの観音様は女性のように美しいけれど女性ではありません。おひげをたくわえておられます。でも男性でもありません。あのお子は正しくこの世に生まれ出た観音様だと私は思っているんです。」

そこまで話すと、老女はもう疲れ果てたという風に目を閉じた。そしてそのまま目を覚まさないのではないかと思う程深い眠りに入り、かすかな寝息を立て始めた。

きっと老女は昨日からずっとおもこの死の知らせと蓮と言うお子の秘密を知らされて、あまりの事の重大さに驚き、またかるに話さなければならない、その時の事を考えて一睡もしないでいたのだろう。

老いて弱っている身にとってはあまりに過酷な最後の試練だったのかも知れない。

かるに話した事で、その重荷からすっかり解放されたのだろう。一向に目を覚ます気配のない老女に諦めて、かるは立ち上がろうとしたが足腰が萎えたようにすぐには立ち上がれなかった。

ようやくの思いで立ち上がっても足元が定かではなく、どこかにしっかり掴まっていなければ周りがグルグル回ってどうにかなりそうだった。

今からこんな事でどうするの?かるは目を瞑り何度も深呼吸し心を落ち着けた。

私がしっかりしなければ…。

あのおもこの為にもおもこが残したあの子の為にもさあ、しっかりしなさい。

自分を励ましかるは老女の部屋をやっとの思いで出ると、尚も気持ちと体にムチ打って自分に言い聞かせた。

私はおもこの母だ。私はおもこの母親なのだからと幾度も言い聞かせ、背筋をピンと伸ばし次の間にいる女性の前に座った。

改めて見ると、その女性は何とも言えぬ情のある目でかるを見、会釈をした。

かるが、「今までおもこの事を長い間お世話して下さり本当にありがとうございました。

貴女様が傍についていて下さったお陰で、おもこもこの子の育つ姿を見て、きっと幸せな日々が送れた事と思います。元気になれずあの若さで亡くなるなんて本人もそうですが、私も悔しくて堪りませんが、手を尽くして下さった事には感謝しております。そしておもこも身分の高い子供の母親となり、例えたったの三年余りでも子供の成長を見届ける事が出来、どんなにか幸せな日々だったでしょう。せめてそればが慰めになります。

この先は決して、上様やお后様に御迷惑をかける事は致しません。誓ってお約束致します。私が責任と愛情を持ってこの子を育て、この子がこの先幸せになるような道を探しながら導いて行く覚悟でおりますので、どうぞお后様にも御安心なさるように、そして又くれぐれも私が感謝しお礼を言っていたとお伝え下さい。

いただいた“蓮”というお名前はこの子の印として有難くそう呼ばせていただきます。長い間、本当にお疲れさまでした。ありがとうございました。」と言って、深々と頭を下げた。

それから隣に座っている幼子に向かって、精一杯の笑顔で笑いかけた。

「“蓮”?可愛いネ。私がお前の本当の婆婆ですヨ。解るかい?これからは蓮はいつも婆婆と一緒なんですヨ。家に帰ったら大爺もいれば、大婆もいますヨ。みんなみんな優しい人ですヨ。蓮が帰ったら驚くだろうネ。きっとびっくり仰天した後、大喜びだろうネ。さあ、婆婆と一緒に帰ってみんなをびっくりさせてあげよう!」

そう言ってかるが小さな手を握ると、蓮は今まで自分を守っていつも一緒にいてくれたお女中の方を振り返った。

そのお女中はニッコリ笑って、

「蓮様、お婆様が迎えに来てくれてようございましたネ。今日はお別れですが蓮様が大きくなって字が書けるようになったらお手紙を下さいネ。私は飛んで会いに行きますから。それまでは一生懸命字のお勉強をするのですヨ。蓮様、本当に良かったですネ。」

そう言ってくれた。

かるはそのお女中の物言いから、この女性ならきっと自分の全力を傾けて、おもこを守って来てくれたのだと確信した。

帰りがけ老女の部屋を覗くと、老女はまだまだ眠ったままだった。

クラという下女に老女様に宜しく伝えてくれるよう話した後、かるは蓮の手を引いて外に出た。

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