第26話 目的 後編

原口の目的が北見智司だとしたら、石川結花を追い詰め、大崎美緒を排除しようとしていたことに納得できる。


原口純子は北見の恋人にでもなるつもりだったのか。それにしても、自殺するまで追い詰めなくてもと思ったが、原口の性格からその存在を抹消したかったのかもしれない。そして、そのターゲットは大崎美緒も含まれていたはずだ。


大崎美緒はそのことを知っていたのだろうか。もし知っていたとしたら原口純子と行動を共にしていた理由はなんだったのか。

大崎美緒を突き落としたのは原口純子だろうか。

ホテルを抜け出した時間を考えると、大崎美緒がチャペルに着いてすぐに原口純子もチャペルに着いたはずだ。


能村広子もチャペルに行ったはずだ。

大崎美緒と原口純子の間でなにがあったのか、大崎美緒は誰も見ていないと言ったが、原口純子か能村広子を見ているはずだ。


「大崎美緒を突き落としたのは原口純子でしょうね」


鍋島が資料を見て話す。鍋島が知り合いから集めた原口純子と能村広子の情報だ。それに原口純子が北見智司を狙っていたと分かった。

婚約者が亡くなった後、原口は北見に接触を図っていたが会うことは出来なかったらしい。その時、大崎美緒は北見と会っていた。それを知った原口純子はかなり荒れていたと証言した者がいた。


「大崎美緒に嫉妬した?」


菅田は原口純子がいつも自分の事だけを考えているのだと思った。それによって二人の人生が変わってしまったのに。


「原口純子と大崎美緒の関係はこれではっきりしますね。それより能村広子はどんな関係だったのか」


能村広子も原口純子と同じような人物だったとしたら二人に囲まれた大崎美緒はそれこそなにを考えていたのだろうかと疑問に思う。


「大崎美緒は原口と能村を利用していたのではないかと思うのですが」


菅田は鍋島に聞いてみた。


「原口と能村はこのホテルに大崎美緒を連れてきたかった。そこへ大崎昌紀は私たちに復讐をしたかったとしたら都合が良かったのでしょうね」


確かに大崎昌紀は復讐をしようとしていた。大崎美緒が怪我をして昌紀に協力出来なくなっても、一人で今西を襲った。

ふと、大崎美緒は本当に復讐をしたかったのかと思った。もし、美緒は昌紀ほど復讐心がなかったとしたら、昌紀と距離を置きたいと考えるだろう。ただ、昌紀と美緒は頻繁に会っていたようだ。その目的は父親の裁判の傍聴という目的のためだけに。


昌紀の復讐心が裁判を見ることによって大きくなっていたら、美緒は反対と言えなかったのではないか。

昌紀の死は美緒にとって願ってもないことだろう。

菅田は額に手をあてた。一瞬、不気味なことを考えてしまった。


美緒は原口たちに脅されてイベントでクレームを言ったと自供した。その証拠は美緒がスマホの録音機能を使って原口が脅してきたときの様子を残していた。

それも何回も。原口が美緒を突き落としてチャペルから逃げたとして、田辺に捕まることなく本館へ戻ることは可能だろうか。能村もチャペルにいたはずだ。


「原口が美緒を脅していたという話の信憑性はどうですか?」


菅田は鍋島に聞いてみた。


「録音された音声は原口と美緒のものに間違い無いです。偽装した様子もなかったと聞いています」

「原口に脅されていたというのは本当なのですね」


先程考えたのは無理だろう、脅してくる者を自分の思い通りに動かすのは難しい。


「私が考えるのは、大崎美緒が脅されて素直に応じるかというところです」


どういうことだろうと鍋島を見た。


「脅されていたという証拠もあって、実際にイベントでクレームを言っていたのに?」

「そこです。録音されていたのはチャペルの事だけで、それ以外のことは証拠にありません。そして原口は亡くなっていますから証明する術はありません」

「脅されていたよう仕向けたのですね」

「自分が見た大崎美緒は素直に脅されるタイプに見えなかったということです」


大崎美緒は原口の言いなりになっているようでいて、実は原口を操縦していたのだとしたら、先程菅田が考えたことは起きたのかもしれない。

菅田は自分の考えを鍋島に伝えた。

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