第25話 目的 前編

菅田は副支配人室で溜まっていた仕事を片付けていた。目の前のソファーには鍋島が仕事を持ち込んで居座っている。


既に犯人も分かって、警護も解かれたので鍋島がここにいる理由もないが、鍋島曰く、田辺さんに見張るようにと頼まれたと言って毎日のようにやってくる。

まるで子ども扱いだと情けなくなってくる。


その田辺は思ったより怪我の症状が悪く入院が長引いている。

鍋島の片腕ともいう今西も発見された時は意識がなかったが、意識を取り戻し少しずつだが回復に向かっていた。


菅田たちが襲われた事件は、犯人の一人、大崎昌紀が殺されたことで幕を閉じた。もう一人の犯人と目されていた大崎美緒はそばに居ただけという証拠が能村の家から出てきた原口のスマホに残っていた動画で証明された。美緒の罪状は今後の取り調べの内容によると吉村に言われた。

なんとなく終わってしまった感のある状況に菅田は納得できていない。


「そういえば、釈放されたようです」


鍋島は書類を見ながら話す。

菅田はすぐになんのことか理解した。少し前に吉村から聞いていた、起訴は難しいと。


「どうするのですかね」


菅田は大崎美緒がこれからどうするのかと思った。一度は兄と共に父の復讐をしようと考えていたはずだ。それが叶わなく、兄も亡くなった今、美緒の復讐心はどこにいったのかと気になっていた。また、襲われてはシャレにならない。


吉村たちは大丈夫だと言っていたが本当だろうかと疑わしかった。


「保釈されたのは、能村広子が自殺した前日らしいです」


菅田は鍋島を見た。


「何かありそうですね」


薄ら笑いを浮かべる鍋島を菅田は恐ろしく感じた。


○○○

「以前にも言いましたが、大崎美緒は能村広子を警戒していた。それならあの二人の関係というより三人ですね。大崎美緒、能村広子、原口純子。この三人の関係性とそれぞれなにを目的にしていたのか」


そういうことかと菅田は納得した。

宇佐美が言っていた本当の友達ではないなら、どうして大崎美緒は父が犯罪をしたホテルにあの三人と来たのかということから始まるのではないかと考えた。


「原口純子は目的を達成していないと思われますよね。それなら能村広子も目的を果たせていない?」

「原口純子が殺されたことで計画が変更になったか、出来なくなった。もしくは私たちがまだ気づいていないだけなのかもしれません」


気づいていないか……。


「あの三人の力関係はどうだったのでしょうか。一番影響力が大きいのが原口純子だったら、その原口が亡くなったことで次に影響力が大きい人物が出てくるはずです。その二番目に影響力が大きい者が能村広子だとしたら、大崎美緒が警戒していたという印象に辻褄があいますよね」


菅田が以前見た大崎美緒と能村広子の姿を思い浮かべていた。確かに大崎美緒は浮かない顔をしていたが、美緒が乗った車椅子を押していたのは能村だった。


「ホテルの予約は原口でしたね。そこから考えられることは原口と能村の関係です」


そうだった。宇佐美から見せてもらった最初のチャペルイベントの座席表、あれには大崎美緒の隣に原口純子が座っていた。当然、その反対に能村が座っているとばかり思っていたが、能村広子は原口広子の隣、つまり原口純子を挟んで美緒と広子が座っていた。その構図から原口純子を中心として動いていたのではないかと思った。


「原口と能村は美緒をこのホテルに連れてきて何をしたかったのか」


菅田はこの周辺で瀬田のことをかぎ回っていたのが原口と能村で間違いないとなると瀬田の事件に関係しているはずだと考えた。


「原口純子は気に入らないものを虐めていたらしいです。そして、大崎美緒が付き合っていたと思っていた男性を狙っていたという者が出てきました」

「どこ情報ですか?」


菅田は思わず聞いてしまった。警察でも言っていないことだ。


「知り合いにちょっと」


ニヤリと笑う鍋島に、以前ネットワークが凄いと田辺から聞いたことがあったがそういうことかと納得してしまった。


「原口がその男性を狙っていたとして、どうして大崎と行動を共にしようとしたのでしょうか」

「大崎美緒を再起不能にする為だとしたらどうでしょうか。その男性には婚約者がいたのですが、その婚約者がどうやら美緒に追い詰められて自殺したようです」

「美緒はなにをしたのですか?」


自殺まで追い込むとは尋常ではない。


「美緒はただ盗まれた財布を見つけただけです。それ以外にもいくつか盗まれた物があったようですが」

「それだけで美緒が追い詰めたとはなりませんよね」


菅田は不思議に思った。ただ単に盗まれた物を見つけただけでどうして自殺に追い込んだと言われるのか。


「その盗まれた財布は、原口が盗んでその婚約者の鞄に入れているのを見た人がいました。ただ、原口が怖くていえなかったらしです」

菅田は原口のやろうとしていたことに恐ろしくなった。

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