第17話 嘘
能村と美緒の証言には証拠がない。
能村と堀内、昌紀はすでに亡くなっていて、美緒の足は歩けるまでに快復していた。
そもそも、美緒がチャペルの三階から落ちた時、あの場所にいたのは本当に原口だったのだろうか。
菅田は大きめの紙にホテルの敷地内の見取り図を描いた。
佐伯や松本に聞いた話を見取り図で追った。しかし、分からないことがある。どうしてあの時、田辺は見失ったのか。
話を聞く限り階段上から階段下にいた人影を追いかけたと聞いている。それなら遊歩道の何処かもしくは本館前で目撃者がいてもいいはずだ。何か聞き間違いがあったのだろうか?
ドアのノックの音とともに入って来た三島賢司は菅田を見て驚いた。
「何しているのですか?」
菅田は怪我をした腕を固定していたアームホルダーを外してテーブルの上の地図を眺めていた。
「ああ、大崎美緒がチャペルから落ちた時の様子は分かるか?」
「あまり詳しくはありませんが」
「座れ」
菅田は三島に言うと地図を見せて大崎美緒がチャペルから落ちた時のことを聞いていると今度は鍋島がやって来た。
「何しているのですか?」
菅田と三島が振り返った。
二人ともネクタイを外し腕まくりをして地図を見ていた。
「私が聞いた話ですが、追いかけたけど見失ってチャペルに戻ろうとした時に松本さんに会ったと言う事です」
鍋島が田辺から事後直後に聞いた話をした。
菅田が聞いた話と変わらない。
「それはどの辺りまで追いかけたか分かりますか?」
「確か……」
鍋島は地図を見てこの辺りだと指差したのは本館の入り口近くだった。
「三島、あの時間、本館の入り口はどんな感じだった?」
「丁度、外のレストランへ向かう団体客が本館の入り口に集まっていたところです」
「原口純子と能村広子はその時、部屋にいたと言っていたはずだが、そこに居なかったのか?」
「カメラには映っていなかったと思います。当時、チャペルイベントから帰って来た人たちとツアー客が本館の入り口やフロント、土産物売り場に人が集まっていましたので、本当に居なかったのかと聞かれると絶対とは言えません」
菅田は額に手をあてて考え込む、鍋島も顎に手をあてて地図を見ている。三島は当時のことを思い出そうとしているようだ。
「この地図から見て、田辺さんが追いつけなかったのが不思議ですよね」
鍋島は田辺が追いかけた人を一番初めに見かけた場所から見失ったとされる場所を指差しながら言った。
三島は先程、本館から呼び出しがあって戻っていった。
「見かけたのは女性だと聞いていますが、それは確かでしょうか」
「田辺さんはこの場所から、ここにいた人を見ています。私も一度見に行きましたが、あの場所は陽が落ちても外灯があり比較的明るいので見間違える事はないと思います」
「原口だとして、能村はその時、どこにいたのでしょうか」
菅田は原口と能村を思い浮かべたが、どうやって追いかけて来た田辺から逃げ切ることが出来たのだろうかともう一度地図を見る。
「あの二人は警察にずっと部屋にいたと言っています、それをどうやって覆すかですね。二人は既に亡くなっていますから、立証できるものがなければただの想像でしかないですが」
「そもそも、大崎は最初自分で落ちたといっていたのですよね」
「そうです。それが急に態度を変えたと田辺さんに聞きましたが、誰かが傍にいたという事は言っていなかったそうですよ」
「関係ない人がいて、大騒ぎになったから逃げ出したとか?」
「警察は大崎が誰かに突き落とされたと見ています。ただ、大崎自身が誰もいなかったというのでそれ以上の追求はしていないそうです」
鍋島は警察から聞き出した情報を教えてくれたが、菅田はやはり納得できなかった。
「大崎はこのホテルを脅していたのです。そんな人物が誰を庇っているのでしょうか。それこそ、一番にその人物に怪我の補償を請求するのではないかと思ったのですが」
菅田は今までの大崎の行動を聞いていてずっと気になっていたことを口にした。
「そうですよね、大崎が怪我をした直後に私も遠くから見ていましたがそんな人物には見えませんでした。ただ」
「ただ?」
「ただ、大崎美緒は能村広子を警戒しているように見えました」
「宇佐美さんは原口と能村は大崎の本当の友人ではないと感じたようです。それと何か関係があるのでしょうか」
「宇佐美さんは原口と能村から見た大崎、の関係からそう思ったのですよね。私は大崎から能村をみてそう感じました」
「お互い友人だと思っていなかったという事ですか?」
まさかと思った。
「大崎は行動に神経を尖らせていたように見えたのです。もしかして、原口と能村が計画していたことを大崎は気づいていたのではないかと思っています」
「あの二人の計画は本当のところなんだったのですかね。わざわざ瀬田が捕まった地に大崎を連れて来て何をしようとしたのか」
原口と能村は瀬田のことをかぎ回っていた。だから、大崎をこのホテルに連れて来たのだと思っていたが、それ以外にも何か目的があったのだろうと菅田は考えた。
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