第16話 消えたもの

このホテルに予約をしてきたのは原口純子だ。

あの二人はわざと大崎美緒の父親が捕まったホテルに連れてきて、菅田たちを襲うように仕向けたのだ。


吉村に原口純子と能村広子の事を調べてもらって分かった。

それは虐めだ。

調子のいい事を原口と能村は大崎に言う。その裏で大崎の悪口を同僚たちに言い触らしていた。


大崎美緒は今の会社に転職した時、母方の姓を名乗っていたので瀬田の事件と大崎美緒の繋がりは当初、会社の同僚たちは知らなかった。

それを原口と能村は大崎に分からないように広めていった。

どうしてそこまでするのかと思ったが早く言えば恨みと妬み。


原口も元々男癖が悪く、同僚の恋人を横取りしては用がなくなると捨てるのをくり返し、能村は同僚の荷物を盗んでは換金していた。


二人は大崎美緒の父のことが分かると、言葉巧みに大崎美緒に近づき、陥れるつもりでいたようだ。

警察が調べていくと大崎美緒も少し前まで同じことをしていた。

勝手に自分の恋人だと勘違いをしていた男の本当の恋人を貶め自殺に追い込んでいたことも新たに分かった。


「どっちもどっち、ということですかね」

鍋島は吉村から話を聞いて呆れていた。


その二人が仲違いをするには別の理由があったと考えるのが正しい。ここまでの計画をするのに二人の考えは一致していたはずだ。それが、大崎美緒を脅迫する話で仲違いし、殺害するまでになるのかが疑問だ。


それと能村広子の家には行方が分からなくなっていた、原口純子の携帯が出てきた。

原口純子の携帯にも例の動画があった。

堀内は能村広子の携帯からなんらかの理由で動画を見て大崎美緒を脅したと考えられた。

大崎美緒から話を聞いた昌紀は堀内が呼び出したチャペルに向かったとされる。

そこまでは美緒が話していたことで裏付けが出来ているがその先はまだ分かっていない。


「大崎昌紀はどんな人物なんでしょうか」

菅田は鍋島に聞いた。

「なんか、会計士目指しているって言っていましたね」

菅田は妙な胸騒ぎがした。


裁判で何度か見かけたことがあったからだ。

裁判には毎回、社長と田辺が足を運んでいるが、何回かは田辺の都合がつかなくて菅田が言っていたことがあった。

その時、見かけたのだ。会計士を目指しているからと言って、正しい者とは限らない。菅田は大崎昌紀の風貌を思い出していた。

インテリを気取った男だった。真面目というよりは遊び人と言った方が分かりやすい。

そして、大崎美緒は裁判には来ていなかったように思える。

職場復帰してから大崎美緒を見に行った時から思っていたが、裁判所で見かけていない。


大崎兄妹の父親は公認会計士だったが何億もの詐欺を働いて刑に服していた。

それが出所して今後は殺人まで犯し、今はまた刑務所にいる。

今回は十五年だったか。確か六十過ぎだから出てくる頃には八十近い。

瀬田は何時も尊大な態度をしていた。兄の昌紀もそんな感じだ。大崎美緒は父親に似たのか……。

それなら尚更、大崎昌紀と美緒が過去に何かしていてもおかしくないと考えた。


菅田は大崎昌紀のことを調べてもらえないかと頼んだ。

「どうかしましたか?」

鍋島が聞いてきた。

「大崎美緒は瀬田に似ていませんか?」

鍋島はすぐに気がついたようだ。

「大崎昌紀に恨みを持つ者」

「昌紀はそうだろう。堀内はそれに巻き込まれた可能性がある」

「原口純子と能村広子は?」

「本当は大崎美緒もターゲットだとしたら?」

「関わっていた。ですね」

「吉村さんの話で何かなかったでしょうか?」

菅田は少し前までいた吉村が話した内容を思い出していた。

「美緒が恋人だと思っていた男ですよね」

「アリバイはありましたよね」

「東京の自宅にいたと言っていました。それにその男は大崎美緒に恨みがある訳で原口純子や能村広子とは関係ないのでは?」

北見智司と言っていたか、大崎美緒の前の職場の同僚だ。美緒が勘違いをして自分の恋人だと思っていた。本命が別にいる事が分かった時、美緒はどうするだろか。


「大崎美緒はどうして、北見智司の本命がいる会社に転職したのでしょうか?」

鍋島は天井を見上げて考えている。

「ただ単に、北見の恋人を見たいだけなら遠くからでもいいはずですよね」

菅田は更に続けた。

「大崎美緒は最初から北見の恋人を狙っていた?」

鍋島はそれ、怖いですよと言う。しかし、他の理由が見当たらない。偶然にしては出来すぎている。

「アリバイありますよ」

鍋島が再度言う。

分かっている。分かっているが菅田は美緒の転職先が北見の恋人の会社だということにまだ納得出来なかった。

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