第15話 イベント 後編
大崎美緒は父親が捕まったのはこのホテルのせいだといい出している。
吉村から報告を受けた菅田と鍋島は大崎の言いがかりを証言した。
そして、あのイベントに宿泊客に扮した女性警官が紛れ込み、大崎美緒の行動を全て見張っていた。
美緒の兄の行方が分からないことで何か起こるのではないかと危惧した吉村たちはイベントにも潜入して美緒の監視をしていた。
菅田が宇佐美に警察に連絡するように告げた直後、側にやって来た女性警官たちは大崎美緒を恐喝の現行犯で逮捕した。
まさかあの場に警官がいると思っていなかった菅田と鍋島は驚き、大崎美緒は逮捕されたことに驚愕した。
菅田と鍋島が驚いたのはそれだけではない。
大崎がチャペルの建物から落ちた少し前、能村は大崎美緒に頼まれて原口とともに一緒にいたと証言したと言い出した。
菅田が襲われたあの日、大崎美緒は早めの夕食を摂ったあと、出かけたという。
能村と原口は何かあると思い、大崎の後を付けていた。
その能村の携帯からは菅田が襲われている動画が残っていた。
菅田は鍋島が集めた動画を思い出す。
菅田が襲われた海浜公園沿いの国道を走る車のドライブレコーダーに映るものに小さな灯りがあった。能村が動画を撮る時に点いていたライトだ。
襲った者たちが一瞬動きを止めたのはそのライトに気がついたからだろう。
「大崎美緒は黙秘を続けていると聞きましたが」
鍋島がまだ納得していない様子だ。
「大崎昌紀、兄だそうだ。兄のアリバイも崩れたが……」
菅田も何か引っかかっている。
「大崎昌紀は何処に行ったのですかね」
鍋島が独り言のように話す。
美緒の兄、昌紀は行方が分からなくなっていた。
堀内の行方も、未だ分からない。ただ、大崎美緒に連絡をしていたことは判明していたが、その大崎が黙秘を続けている。
原口純子のことも未解決だ。
「今西さんが襲われたのが男一人と言うのは辻褄が合いますね」
菅田が気になっていた理由が分かった。
「大崎美緒は今西襲撃を兄と一緒に実行するつもりだったら、チャペルの建物で自分から落ちることは無いですよ」
鍋島が言うことに菅田はそこなんだよなと考える。
「誰かに突き落とされたとして、大崎美緒が自分のせいだと言う理由も分かりませんが」
更に続ける鍋島。
「そもそも、どうして美緒はあの時間にチャペルにいたのか」
「菅田さんが襲われたとき、能村と原口がいたのですよね。あの二人の内どちらかが美緒を呼び出したとは考えられませんか?」
「原口純子か……」
菅田は付け爪の持ち主を思い出す。
「美緒がチャペルの庭に落ちた時、二人はどこにいたか分かっていますか?」
鍋島の問いに、田辺から聞いていた話を伝えた。
「直後は分からないということですね。それなら、尚更、田辺さんが追っていた不審者は原口ではないでしょうか」
あり得るが確証がないことにはどうにもならない。警察もそこはまだ分からないようで、何も言ってこなかった。
数日後、ホテルを出て帰っていた能村広子が自殺した。
遺書には原口純子と大崎昌紀を殺したと書かれていた。
「おいおいおいおい、どういうことかな?」
吉村から聞いた鍋島が怪訝そうに言う。
菅田も納得出来ない。
「遺書には、大崎美緒と大崎昌紀が人を襲っているのを目撃して、原口純子は大崎美緒を脅すと言い出したようです」
それで意見が分かれて言い争いをしていたら、倒れて動かなくなったと。堀内は大崎美緒を脅迫していたが、能村広子も脅迫していたらしい。
大崎美緒は兄に連絡をして大崎昌紀が堀内の呼び出しに応じる振りをして堀内を殺したのを見て怖くなり、自分も殺されると思った能村広子はその場で大崎昌紀を殺したと遺書には書かれていたという。
「能村広子はいつ、このホテルから出たのですか?」
能村と大崎は警官たちに見張られていたはずだ。
「どうやら、堀内さんが関わっているかと」
彼の協力が無ければ抜け出す事は難しい。
菅田は先日、宇佐美に確認したことを吉村に話す。
「堀内は本館で、レストランの応援ややリネン係をしていました。深夜、何度か大崎美緒の部屋に食事を運んでいます」
吉村は気がついたようだ。
「台車ですか」
「多分。あの中に隠れて抜け出したと思います」
菅田は堀内が大崎の部屋に出入りしている防犯カメラの映像が入ったデータを吉村に渡す。
「調べてみます」
「大崎美緒は兄の死に何か言っていましたか?」
菅田は一つの疑問を口にした。
「驚いていましたが、特になにも言っていません」
「黙秘ですか?」
「そうです」
まだ、何かある。菅田は鍋島を見た。
吉村は帰り際、瀬田の事を、嗅ぎ回っていたのは能村広子と原口純子だと言い残した。
菅田は宇佐美が言っていた本当の友人ではないという訳が分かった気がした。
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