第7話 密談 後編
吉村と佐竹が帰った後、田辺は佐伯とカフェに残った。
鍋島からこちらに来ると連絡があったからだ。あの瀬田に関わることで二人が傷ついた。
瀬田が起こしたホテル乗っ取りは田辺が尊敬する前総支配人の柏木が命を落とした。
瀬田は最後まで自分は何もしていないと言い張ったが、柏木の従兄弟で地元のケーブルテレビの鍋島と同僚の今西の協力で瀬田の悪事を暴いた。
瀬田は刑務所にいると言っていたが、安心出来ない。あいつは外の人間を操るくらい難なくこなすだろ。前もそうだ。周囲の者を言葉巧みに操り、自分は手を下さないで、望みのものを手に入れようとしたのだ。
今度は何がしたいのか。
田辺は手元の冷めたコーヒーを眺めていた。ドアの外で人の気配がした。佐伯がドアを開ける。鍋島と菅田を招き入れ、辺りを見渡しドアを閉め、鍵を掛ける。
「遅くなり申し訳ない。今西に話を聞いて来ました」
鍋島が肩から掛けた鞄を椅子に置き、田辺の隣に座る。反対側に菅田が座った。
「大丈夫か?」
「途中まで父に送ってもらったので見つかっていないと思います」
菅田は父親の職場でもある街の中にある病院に入院している。あの街は関係者以外入ることが出来ない。ある意味、一番安全だと言える場所だ。
警察ですら簡単には入り込めない。それくらい機密情報があるということだろうか。
吉村は菅田があの街に併設された病院にいると伝えると安心していたくらいだから。
今西が襲われたと聞いて、菅田と鍋島に連絡をした。
菅田は会って話がしたいと言ったので、鍋島に連れて来てもらった。
「コーヒーでいいですか?」
佐伯は菅田と鍋島に聞いた。
「はい。すみません」
田辺の前のコーヒーは下げられた。
鍋島はスマホを取り出して話し始める。
「まず、昨夜の今西は十一時頃、事務所を出ています。本人に確認と防犯カメラも確認したので確かです。今西は駐車場の防犯カメラの死角になるところで襲われています」
「防犯カメラの死角ですか」
菅田が確認する。
「事務所から駐車場に向かう途中に死角になる場所があり、そこを狙われたようです。それも名前を聞かれたと言っていました」
「私の時と同じですね。私の時は、男女二人はいました」
菅田が言うと鍋島が今西から聞いた情報を伝える。
「今西は男だったと言っています」
吉村が言っていた内容と一致する。
今回は偶然、向かい側の防犯カメラに写っていたから分かったが、もし本当に防犯カメラの死角で襲撃されていたら捜査はどうなっていただろうか。
田辺と菅田、鍋島の前に出来立てのコーヒーが置かれた。三人はコーヒーを一口飲む。
「黙ってやられる訳ではないですよね」
鍋島の目は妖しく光る。
「当たり前です」
田辺もそれに返す。
「田辺さん、最近おかしな事はありませんか?」
「おかしな事……。チャペルで事故があったが、関係ないだろ? 大崎美緒は菅田が襲われた日にこのホテルに宿泊していたが、三人は部屋にいたと言っていた。それに、今西を襲ったのは男だろ」
田辺が言うと菅田は病院で聞いた噂話をした。
「怪しいですね。とっても」
鍋島が呟く。
その後、三人が出来ることを洗い出し、役割分担をし終わる頃、鍋島のスマホが鳴った。
「しまった。吉村さんに、ここに来ていることを言っていなかった」
鍋島は慌てて残りのコーヒーを飲み干し、カフェを出て行った。
「相変わらず、お忙しい方ですね」
佐伯が笑いながらカフェのドアを閉める。
「あの行動力のおかげで前は助かったからな」
「菅田さん、帰りはどうされるのですか?」
佐伯が心配そうに聞いてきた。
「父が駐車場で待っています。それで帰ります。総支配人、もう少し大人しく病院にいます」
「私もお手伝いしますよ」
佐伯が言う。
「心強いです。お願いします」
田辺は安心する。
「総支配人はまず、チャペルの件を解決しなければいけませんからね」
「そうでした」
田辺は項垂れる。
まだ、揉めそうな雰囲気がある客との事を解決しなければ、チャペルのイベントも再開出来ない。
「頑張って下さい。総支配人」
菅田と佐伯は楽しそうに言う。
少しも楽しくないのだが、と田辺は思ったが口にするのは止めた。
田辺は菅田を駐車場まで送り、菅田の父親に挨拶をして見送った。
行動力抜群の鍋島は翌日から知り合いに声を掛けて情報を集めた。
その連絡がメールで来るようにしていた為、鍋島に来たメールは全て田辺と菅田に転送されて来た。
菅田と田辺はメールをチェックして疑問に思うことを返信する。
「違いはなんでしょうか?」
菅田は鍋島と電話で話をする。
田辺はチャペルの事故など揉めているようで二人で調べることになった。
「菅田さんはよく、あの海岸に行っていたのですよね。なので、待ち伏せが可能だった。それが今西はあの日、急に残業になったのです。予定外。それが単独犯になったのでは」
「集まれなかったということか」
今西を襲うのに防犯カメラの死角で犯行に及んだ。それなのに、襲撃犯たちは集合できなかったのが菅田は疑問に感じていた。
「あの噂はどうですか?」
鍋島が聞いてくる。
「あれは若い女性です。二十代後半くらいと言っていました」
「私が聞いたのと同じですね。同一人物でしょう」
「来週には退院します。もう一つ気になることがあります。それを調べます」
「菅田さん、まだ腕が……」
鍋島が心配する。
「大丈夫です」
菅田も少し不安だが、早く解決したい。
このままでは、田辺や鍋島が犠牲にならないとは言えない。
数日後、菅田の不安は別の形で起こる。
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