■ 第5部 のんびりと楽しむ日々 - その1
カケルとリリスはこの世界に来たことを互いに確認した。
「じゃ、行くか~」
二人はアルの家に向かい、森の中に入った。
もう何年も来てることもあり、自然と足がそっちに向かうのだ。
リリスは鼻歌を気分よく歌っている。
カケルは今日、アルを喜ばせようと計画を立てていた。
リリスにも話してない。話してはいけなかったのだ。
程なく、アルの家がある大木の所に来た。
リリスが声をかけると、アルが顔を出し手を振った。
カケルは先に木に登り、次にリリスが昇ってくるのを待った。
さすがに女性の部屋に我先に入るのは、成長してきたカケルにとっても
ちょっと気が引けるようになってきていたのだ。
もちろん、そう思うのはその時だけであり、一度中に入ってしまうと
あとは帰るまで、3人一緒にこの狭い部屋で暮らす事にはなるのだが。
その時、リリスがカケルのリュックに気がつき、それは何だと聞いてきた。
カケルは「今回は着替え持ってきた。海パンとか」と言った。
あの泉で3人は水遊びをする事もあり、少し前からリリスは水着を
持ってきていた。 カケルは前回までトランクス姿で遊んでいたのだ。
カケルとリリスは、このアルの家を見るとなんとも心地良い気分になる。
やはりここだな、今日も戻って来れた、という思いがあるのだ。
リリスが布のような入り口をまくって中に入る。
その横の小窓は雨が降る時以外ほぼ、開いている。
簡単なつくりの木の上の部屋だ。
部屋は四畳くらいだろうか。
右奥に簡易的ベッドがあり、中央には小さなテーブルがある。
テーブルの端には食器が重ねられており、中央には蝋燭立てがある。
部屋の左の奥に小さな戸棚のがあり(直径30センチくらいだろうか)
その上に汲み置きの水が、小さめの欠けたボウルと水差しに入っている。
ほんと質素。
まぁ、この世界はこれがいいのかもな、とカケルは思ったりする。
さて、アルによると、今日は朝から家の補修をいろいろやって時間がかかり、
今から夕食のサプナの実を取りに行く予定だと話し出した。
ちょっと待ってろ、とアルが立ち上がろうとした時、
そこでカケルの目が光る!
「アル、今晩はその必要はないぜ!」
大威張りでカケルは背負っていたリュックをテーブルの上に乗せる。
「今日はアルに、お土産を持って来たんだ」
「おみやげ? 私に? なになに! カケル何持ってきたの!?」
カケルはリュックを開けて取り出して見せた。
「俺オススメのスイーツだ。アルには世話になってるし、
たまには俺から持も、って思ってな」
「ちょ、何一人いいカッコしてるのよー。 カケルんが何か用意するなら
リリスも何か用意したかったー!」
リリスはぷんすか怒ってはいるが、カケルは気にしていなかった。
「これはスイーツと言って、俺らの世界で店に普通に売ってる、
特別に ”甘いお菓子” だ」
カケルはリュックから手に触るものを素早く4つ程取り出した。
アルは見た事もない綺麗な包装の「お菓子」という事に目を輝かせていた。
「え、え、これ食べていいの、ほんとにいいの、甘いの!?
....こんなきれいなモノを...!」
喜んで興奮気味のアルを見てカケルも嬉しかった。
「まぁ朝、昼、夜と1個ずつな。10個持ってきたし、保冷材も結構入れてるから。
リュックの開け閉め手早くやれば、俺らがいる3日は持つと思うぜ」
いつもならスイーツに目がないリリスもさすがに今日は、
そういう素振りは見せない。
リリスは「カケルもアルには感謝してるんだな、先を越された!」
と思っていた。
アルが選んだものは見た目涼しげで、甘いクリームとフルーツの香りが
鼻をくすぐる、フルーツソースが決め手の新種のエクレアだった。
アルは嬉しそうにそのスイーツをほおばる。
「おいしー....! 何コレ、ナニコレ! 信じられない味だわ!」
泣きそうなほど喜ぶアルの笑顔を見て、カケルとリリスも嬉しくなっていた。
「リリスも食べないの?」
「私はいいの。カケルんがせっかくアルに持って来たんだしね」
「私ばかり美味しいもの食べるのは忍びないわ。二人も一緒に食べようよ」
カケルとリリス、二人は顔を見合わせた。
カケルには、リリスの瞳の奥に「☆ 食べたい ❤」と見えた。
「...そうだな」
カケルは仕方ねーな、という感じで言った。
「アルの言うとおりにしよう。リリスも何か選べよ」
結局、スイーツは3人で食べる事となり、当初の予想外に一気に3つ減った。
あと。
3人が各スイーツを少しずつ交換して食べたこともあって。
2種類の味を楽しめて3人はしっかり満足をしたのだった。
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