■ 第4部 ダイヴ スタート


 太陽が西日に傾く時間。


 家の駐車場脇に自転車を寄せ、そこから降りる少女。

 

 前の籠からバッグを取ると肩にかけ、入れ替えにヘルメットを入れる。


 少女は少しうつむき加減に玄関に向かう。



 ”あ~あ、今日のバスケは負けちゃったあ...。


 不敗の天使~とか言うのマジでやめて欲しいなぁ。


 リリスが入っても、今日みたいに負けること普通にあるんよ...。”



 呟くと、リリスは玄関を開ける。



 「ただいま~」 



 言うと家の中に入る。



 スポーツバッグを洗濯機の前に置く。


 そして自分の部屋に行くと、空調を入れる。


「やばー! この部屋バリ暑!、シャワー、シャワー!」



 リリスはさっとシャワーで汗を流すと、台所に向かう。



 冷蔵庫から麦茶の入ったポットを取り出すと、大きめのコップに

  

 なみなみと注ぎ、冷えた麦茶を一気に飲み干す。



 

 あー!うんま!!




 机の上には書置きがあり、母は買い物に行ってて15分程度で戻るそうだ。



 空調こそついてないが台所は風は通り抜けており、


 扇風機があれば耐えられる温度だ。



 扇風機の回転「2」を、足の親指で押し込むと風向きを固定する。


 テレビをつけると、まだこの時間に高校野球をやってる。

 

 麦茶を今度はコップ3/1程注ぐと、椅子に座りテレビを見るともなしに眺める。



 麦茶を口に二口目、含んだ時に母が帰ってきた。




 母は今日、カケルが来る日でもあるのでアイスを買って来たといった。



 「そんなサービスしなくていいのに」



 リリスは笑った。

 

  

    ...ふん....♪



 今日は待ちに待ったPicture Diveの日。



 木曜日の夕方は、PDの日というにしている。


 

 平日の夕方なので、そうそう特別に用事が入ることもないのだ。


 


 高校野球の試合が終わった。どっちが勝ったかは知らないが。



 リリスは時計を見る。



 PM17時38分。 



 まぁ ...まだちょっと時間あるか。



 カケルが来るのは大体いつも18時前後だ。



 暇つぶしにスマホのSNSをのぞき込むリリスだった。






 ...もうそろそろかな... ?



 リリスがそう思った時だった。



 玄関のドアが開く音がした。 


 と、同時にダルそうな少年の声が聞こえて来た



  「ごめんくださ~い」

 



  「 来た! 」



 リリスは立ち上がると玄関に向かう。




 「いらっしゃいカケルん!さあ、アルに会いに行こう!」



 「えぇ、今、来たばかりじゃんよー」



 「リリス、ちょっと待ちなさい。 カケル君いらっしゃい。

  毎週リリスのわがままに突き合わせてごめんなさいね。

  麦茶でもどうぞ」



 「ああ、おばさんこんちわー。 いただきます! 


  ... ... んはっ!しみるー!


  いえ、自分も向こうの世界に行くとのんびりできるのでそれはいいっスよー」


  カケルは麦茶を一気に飲み干すと勝手に椅子に座った。




 そうなのだ。


 こちらの時間とアルの居る世界では進む時間の速度が違うのだ。


 リリスとカケルが向こうにダイブすると、こちらの時間では2時間程しか経っては

  

 いないが、アルの世界では3日ほど経過しているのだ。



 連日のように各スポーツ部の助っ人をやってるリリスにとっては、土日に試合が


 あることも多く、なかなか完全休日というものが取れない。


 結果、このPDにてアルの居る本の世界に飛ぶと、完全休日をその日から


 3日連続で取れる。リリスにとってものすごく大きなことなのだ。



 あと、生活様式が全く違うアルと過ごすのがすごく楽しいのも事実なのだ。




 リリスは「わかったわよ、じゃ、アイスでも食べてー」と、


 先ほど母が買って来たブラックモ〇ブランBIG-Zをカケルに差し出した。



 「お、ありがと。俺このデカいの、めっちゃ好きなんだ!」



 「ポロポロこぼさない! ちゃんと食べなさいね」



 「 そんな怒んなよ.... 」





 ...そろそろカケルの汗も引っ込んだようだ。


 

 「ではおばさん、チョイっと行ってきます」



 「お母さん、すぐ帰るから、晩ごはんはそのあとね。


  カケルんも食べていくといいよ」



 「まぁ、その時の気分次第かな」


 

 「行ってらっしゃい。アルさんにご迷惑かけないようにね」




 さて、リリスの部屋に入るとテーブルがある。



 カケルとリリスはいつものように横に並んだ。


 カケルの左手とリリスの右手をつなぐ。



 テーブルの中央に置かれた、本の1ページ目をカケルが開く。 



 そして...。



 「今日は別のウサちゃん、口元動いてるよね」


 「よくわかんねーけどな。よし、行くか」



 リリスとカケルの指がウサギの顔に同時に触れた。



 瞬間、2人の意識は ────



 いつもの森の泉前にダイブしていた。

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