練習問題⑤簡潔性

一段落から一ページ(四〇〇~七〇〇文字)で、形容詞も副詞も使わずに、何かを描写する語りの文章を書くこと。会話はなし。


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 門をくぐり庭園に入ってから、ケーは落ち着きをなくしていた。物心つく前に王女であったはずの自分を捨てた親と会う、それも魔法の存在を否定する国で産まれた魔法使いとして会いに来たのだから当然だ。庭の奥にそびえ立つ城。その窓から多くの好奇の目が見下ろしている。男、女、貴族、使用人、誰もがケーに不躾な視線を送っていた。

 はじめトランはケーが彼女を見下ろす人の数にたじろいでいるのだと思っていた。だが、城に入る直前、彼女の「目」には別のものが映っていたことを知る。城の入り口に程近い窓、異国の鳥の羽根で飾り立てた扇で口元を隠す貴族の女の目にはあるはずの枯草色の虹彩が見当たらない。代わりにあるのは黒曜石のような瞳だけ。

 おびえるケーに大丈夫だと告げる。彼女たちも人なのだと。

 貴婦人という名の花がある。その実の抽出物からは瞳を開く薬が作られる。以前、国境を越えてトランの下にも依頼が来ていたそれは男を魅了する目になれる薬だと重宝されているのだという。

 城内ですれ違う貴族の女たちは皆その目だった。濡れた黒曜石の瞳がケーを、そしてトランを値踏みする。

 広間に入りトランは口を閉ざしたが、その目薬にはもう一つの顔がある。猛毒のこの目薬は暗殺の道具でもあった。栄華を誇る城内において目薬は政敵を出し抜く刃であり、その目を持たない者は牽制もできず死を待つだけの弱者だった。

 だが、自分のことでいっぱいのケーに余計な不安は与えられない。案内の衛兵に連れられ、二人は黙ったまま謁見の間へと向かった。

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