最終章4

 6月11日午後1時45分、シャドウの起動兵器は沈黙し、レールガンによるピンポイント射撃は阻止された。これを確認した援軍ハンターたちは別のエリアへと向かう。どうやら、別の事件が発生したためらしい。

「島風あいか! お前も超有名アイドル商法には反対派のはずだろう! 何故、私に協力をしない」

 起動兵器から降りてきたシャドウは、あの時に目撃した外見で間違いなかった。眼帯の方は破損しており、そのまま外してしまったようだが。そして、シャドウに名指しされた島風(しまかぜ)あいかは、アガートラームを解除して――。

「悪質な転売屋に関しては制裁も止む得ない。しかし、あなたの考え方は問答無用に魔女狩りをする勢力と変わりない」

「そうせざるを得ないような環境を生み出したのは――モラルの欠如した超有名アイドルファンだ! 国会さえも買収した奴らが次に行う事――それがコンテンツの魔女狩りと言っても過言ではないだろう」

 起動兵器の使えなくなったシャドウは、自分がストックしている限りのARウェポンで島風に攻撃を加える。しかし、それらの攻撃が島風を直撃したとしてもダメージは与えられない。その理由は、シャドウ――石田光成(いしだ・みつなり)も知っているはずだ。

「そうした力で訴えるような手段は海外で起きている事件のそれと変わらない! 一体、何が理由で――」

 島風は連装砲型の固定砲台等で応戦をするのだが、こちらも致命傷を与えるには至っていない。ただし、島風の攻撃は確実にシャドウを追い詰めているのに対し、シャドウの攻撃は島風にかする事もなければ、他のハンターやグラーフに対しても決定打にはなっていなかった。

「――生命を奪うような事例をARゲームで起こしてはいけない! その大前提が守られている限り、問題はないはずだ」

 シャドウの方は攻撃を続けるのだが、途中から残弾の方を気にし始めている。

「確かに、ARゲームを生命を奪う様なデスゲームや犯罪に転用してはいけない――それは大前提として存在する。しかし、貴方の場合は――」

 島風の攻撃が途中からはじかれるようになり、その状況を彼女は驚くしかなかった。シャドウの使用しているガジェットは、全てが特殊ツールや違法ガジェット――つまり、不正手段である。スポーツで例えるならば、ドーピング行為に他ならない。



 午後1時50分、対話での交渉は不可能と判断した島風はグラーフに協力を要請する。

「どうやら、今は休戦するしかないようね」

 島風はグラーフに話しかけるのだが、そのグラーフに聞こえているかどうかは不明である。

「シャドウの言っている事は分かりました。しかし、だからと言って無関係なコンテンツを炎上させ、それを踏み台にして頂点を取ろうと言う超有名アイドル商法は――許せない」

 次の瞬間、グラーフのアーマーが発光し、模様と思われていた一部のモールドから姿を見せたのは青い発光体だった。ARゲームでガジェットを実体化させる物質とも言われているが、グラーフのアーマーも同種の物かは分からない。

「馬鹿な! あの形態は――あり得ない!」

 グラーフのアーマーが変形していく様子を見て、慌てているのはシャドウの方だった。彼は隠しておいたエクスシアのフィギュアを取りだし、箱の裏面を確認している。

「エクスシアのハイパーモードが――あのARガジェットに実装されていたと言うのか? 世界さえも変えることのできる力を!?」

 シャドウはグラーフのARアーマーが、自分が手に入れたフィギュアのエクスシアと同じ能力を持っている事に驚きを隠せなかった。過去に同じような力に敗北し、チートを手にしてでも勝とうと考えるようになった事――その元凶が目に前に再び姿を見せたのである。

「雪風! 貴様か――貴様があのガジェットを生み出したのか」

 シャドウはこの件に関して、何かを知っているような発言をするのだが、グラーフも島風も状況を把握できていない。何故、ここで雪風の名前が出てくるのか――と。



 午後1時55分、突如としてシャドウのARバイザーに謎の通信が入った。

『シャドウ――お前が、あの時と同じ過ちをするとは予想外だった』

 声に関しては、ボイスチェンジャーで帰られている。グラーフと島風にも聞こえており、この声が無名の物であると分かった。

『超有名アイドル商法――唯一神商法とも言うべきか。一部の芸能事務所と一握りの富裕層だけが儲けを得るような商法――それは終わりを告げている』

「だからこそ、芸能事務所から賄賂を受け取り、それを認め続けた政治家に裁きの一撃を――」

『その考え方こそ、芸能事務所と同じと気づかないのか!』

「貴様は――まさか!?」

 シャドウが無名の正体に気付く。そして、周囲を見回すと――ステルス迷彩を解除して姿を見せた白銀のARガジェットの姿があった。そのデザインは北欧神話の意匠をベースとしており、更には以前のフィギュア争奪戦以外でも彼に見覚えがあるほど――トラウマとも言える存在だったのである。

「雪風――真姫か!」

 雪風真姫(ゆきかぜ・まき)、それが無名の正体でもあった。そして、グラーフにアーマーを託した人物でもある。今の彼女が装着しているのは、ARアーマーとしては破格の性能を持つスカイブレイザーと言う飛行型ARガジェット――。これを店内で使えば、出禁になるのは確定的に明らか――だからこそ、今まで使ってこなかったのである。

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